第183話 明に咲く、絶対創界
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銀の星河が再び流れ出す。
虚神との激闘の果てに訪れた、終極因果交点の終息。
そこから始まるのは、新たなる世界の胎動。
だが、未だ“再生”は完了していない。
「空間安定率、再び低下中。これは……地層化された時空震。まだ何かが潜んでいる……!」
ミストが膨大な星霊反応の波形を読み取りながら警告を発する。
浮遊大陸の中心核に近い位置――創世の基盤そのものに、異常な振動が走っていた。
「これは……第二の因果震源!? “虚神”だけじゃなかったの……?」
カイエンが眉をしかめ、魔導演算板の数値を睨む。
ネフェリスは風にその兆しを読み取り、そっと歌声を止めた。
「いいえ……これは、始まりの中の“余白”。虚神が終わったからこそ、次が現れるの」
星詠の神殿〈セレスティアル・オラクル〉の最奥に眠っていた、封印の扉。
その奥にあったのは、“終焉の管理者〈ワールド・エディター〉”の予備機構。
――すなわち、未だ開示されていなかった最深部の情報端末。
その中央には、機械仕掛けの神像のような存在が静かに横たわっていた。
名は、《プロト・アーク・カーディナル》。神々が世界を創る前に構築した、純粋情報の支配者。
「……この子が、“神より前にあったもの”?」
リーナが剣を下ろし、そっと手を触れる。
すると、その存在がゆっくりと起動を始めた。
時間を司る歯車が回り、概念が空間に流れ出す。
「起動コード、認証完了……神域コア・アーカイブ、解錠開始。全域因果、再接続モードへ」
蓮たちの前で、因果が再び蠢き始めた。
「どういうことだ、これは……?」
蓮が問う。
その問いに応えたのは、アーカイブから響く少女のような声だった。
「あなたたちは、“拒絶された神”に打ち勝ちました。だからこそ、この《絶対創界因子》を、渡す資格を持ちます」
「絶対……創界因子?」
イリスが繰り返す。
プロト・アーク・カーディナルが示したそれは、無数の記憶片と因果記録の集積体。
神々ですら触れることを禁じた、世界創造の“最初の設計図”だった。
「それをどうするかは、君たちの選択次第だよ」
ノアがそっと微笑み、未来干渉の照準を解いた。
「だけど、これは明確な“責任”でもある。これを使えば、世界を好きなように変えることができる……つまり、誰かの自由を奪うことにも繋がり得る」
「……だからこそ」
蓮は拳を握りしめた。
「俺たちは、選ぶ必要がある。誰かから与えられた未来じゃない、俺たちが“選び続ける未来”を」
仲間たちは頷いた。
ネフェリスが再び歌い出す。
響き渡るその旋律は、新たな調律。再構成の唄。
そして、蓮が手を伸ばす。絶対創界因子へと――
突如、空間が撓んだ。
「また……!」
だが、今回は違った。
そこに現れたのは、全身を黄金に包まれたひとりの少年。
「お前は……!」
ミストが目を見開く。
「コード不一致……でも、データ構造が近似……まさか!」
少年は静かに口を開いた。
「僕は“創界因子”の分離体、アーカイブが造った世界の可能性そのものだ。君たちが未来を選ぶ前に、僕は“ひとつの答え”を示さなければならない」
その手には、同じ“創界因子”の断片が宿っていた。
「戦うしか……ないのか?」
リーナが問う。
少年は首を横に振る。
「僕は、君たちに問う。『この世界に“終わり”は必要か?』」
静寂が落ちた。
誰もがその問いに、即答できなかった。
だが――蓮が一歩、前に出た。
「終わりは……要る。でも、それは“絶望”じゃない。“未来への通過点”だ」
少年は微笑んだ。
「……なら、君たちに委ねよう。次の世界の設計図を」
そして、彼の身体は光となり、蓮の胸の中へと溶けていった。
そのとき。
《絶対創界因子》が、音もなく開花する。
それは、概念の種。
未来の骨格。意思の灯火。
蓮の中で、あらゆる時間と空間が収束する。
イリスが手を重ね、リーナが剣を、シャムが槍を、ミストが解析機構を、ノアが未来因子を、マリルとカイエンが双子の魔導を、ネフェリスが歌声を――全てを重ねた。
「今ここに――《黎明創界計画》、発動!」
宇宙が、再び膨張を始める。
滅びの運命を超えたその先に、確かに、新たな神話が芽吹いていた。
それは、誰かのための物語ではない。誰かと共に歩む物語。
蓮たちの物語は、終わらない。
黎明に咲いたその因子は、やがて世界を織り成す根となり、次なる時代の始まりへと繋がっていく――。
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