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第182話 神域遷移航路

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

天頂を越えて、空は鳴った。


それは雷鳴でも風のうねりでもない、存在そのものが震えるような深層音――因果の彼方で響いた、神域からの呼び声だった。


蓮たちは、星詠の神殿〈セレスティアル・オラクル〉を発ってから三日目。


浮遊大陸の残滓を抜け、星々の軌道上に構築された“神域遷移航路〈ディバイン・トランジット・ライン〉”を目指していた。


「ここが……最終防衛領域〈ラスト・エイド・ドメイン〉か……」


ミストが静かに言葉を漏らした。


眼前に広がるのは、かつて神々が自らの世界を外敵から守るために築いた超空間要塞の名残――今では廃墟と化し、漂流する星屑に埋もれた神の記憶。


「ここを越えれば、創世域ジェネシス・ゾーン。いよいよ世界の中核部ね」


リーナが剣を肩に担ぎながら、強い眼差しで先を見据える。


その先に待つのは、神の座とされる領域アーカーシャ・スフィア


蓮たちは、世界の因果を再構成するための最後の鍵を手に入れるため、そこへ向かう。


「けどさ、このライン……妙に静かすぎる」


シャムが低く警戒の声を上げる。


確かに、異常なほどに敵性反応がない。


あれほど強大な“虚神〈アバーソン〉”を打倒した直後とはいえ、世界の守りがこれほど薄いのは不可解だった。


「いや……“無い”んじゃない。“在れない”んだ」


そう答えたのは、イリスだった。


竜眼を細め、虚空の織りを視る彼女の視界には、通常の存在では把握できぬ“空白”が見えていた。


「これは……因果消滅領域。ここに入った存在は、“存在そのものがなかったことにされる”」


マリルが分析用魔具〈インフォ・カスケット〉を展開しながら驚愕の声を漏らす。


「まるで神々が、自分たち以外の来訪者を完全に拒んでいるような……まさに『門』だね」


そのときだった。


星霊の記録が震え、空間が裂ける。


虚無から現れたのは、機械仕掛けの天使たち――《天戒騎士団〈セラフィック・エグゼキューターズ〉》と呼ばれる存在だった。


「これは……神の兵装! まだ残ってたのか……!」


ネフェリスが身構える。


銀白の羽根を持ち、神の掟に従ってのみ動く彼らは、蓮たちを“逸脱者”として即座に識別した。


「《ワールド・エディター》の因子、確認。世界改変の可能性あり。抹消対象として認定」


「来るよ……!」


ノアが魔弾を装填し、空中に浮かぶ数百体のセラフィックたちに照準を合わせる。


戦いは瞬時に始まった。


光の矢が降り注ぎ、空間そのものが削られる。


だが蓮たちもまた、世界の理を越えた存在。


ミストが戦術解析アルゴリズムを展開し、次の十秒間の敵全行動を予測。


シャムがその隙を突いて前線を切り開き、カイエンとマリルが防御結界を二重に展開。


リーナの剣が、神鋼すら断つ閃光となって舞う。


「――今だ、蓮!」


イリスの指示に応え、蓮は新たなる神器《創星剣アルディナス》を手に突進した。


剣は、因果の書き換え能力を持つ“因果律干渉型神器”。《ワールド・エディター》としての蓮の素質に呼応し、彼の意志をもって“現実”を上書きする。


「これが――俺たちの未来を切り拓く力だ!」


斬撃が虚空を貫き、セラフィックの中枢回路を断ち切る。


光の天使たちは悲鳴もあげずに崩れ、祈りのようなコードを残して散っていく。


だが、そのすべてが終わった瞬間――空間の中央に、新たな存在が現れた。


それは――《神代管理構造体〈アルシオン〉》。


銀の装甲と六枚の神翼を持つ、神々の中枢制御AIだった。


「ようこそ、“選ばれし逸脱者”たち。ここは、神の意志を記録する終末の記憶領域」


その声は、冷たくも美しかった。


機械と神性が融合した存在。彼は、因果そのものを管理する存在であり、同時に、“逸脱”の最終的な裁定者。


「君たちは、古代の因果構造を打ち破り、新たな世界を紡ぐ鍵を持っている」


「なら、話は早い。通してもらうぞ」


蓮が剣を構えたまま言うが、アルシオンは静かに首を横に振った。


「それはできない。“創世因子”はまだ未完成。君たちがそれを携えたまま《アーカーシャ・スフィア》に踏み込めば、因果構造そのものが崩壊する可能性がある」


「……だったら、どうすればいい?」


ネフェリスが問う。アルシオンは答えた。


「君たちが真に“創る者”であるならば、まず示せ。己が選択が、いかなる終焉にも屈さぬものだと」


その瞬間、蓮の周囲の空間が反転する。


彼が見たのは――“かつての世界”。


まだ仲間たちと出会っていなかった頃、帝国の中で、ひとり抗い、苦しんでいた少年の記憶。


「これは……俺の過去……?」


だが、そこにいたのはもうひとりの自分だった。


違う選択をした“もしもの蓮”。


帝国の力を受け入れ、敵となった別の自分――《虚構存在〈ダーク・エディター〉》。


「……面白いな。俺が“この世界”を創るって言うなら、お前は“別の世界”を創るつもりか」


「まったくその通りさ、蓮」


虚構の蓮は、穏やかな微笑を浮かべていた。


「破壊も再生も、選択も全て。結局は“どの物語を選ぶか”なんだよ」


――これは、世界の座を賭けた最後の問い。


どの物語を、未来として刻むのか。


そして、誰が、その物語の創造主となるのか――


「行こう、みんな。ここが……俺たちの物語の、核だ!」


蓮は仲間たちを振り返り、力強く叫んだ。


背後には、イリス、リーナ、シャム、ミスト、ネフェリス、ノア、マリル、カイエン――全員の姿があった。


誰もが頷き、武器を構える。


創世を賭けた、物語の真の核心アーカーシャ・スフィアへと向けて。


神と人の境界を越えた戦いが、今始まろうとしていた――。

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