第181話 星霊たちの夜明け
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夜明け前の静寂。
空はまだ群青に染まっており、浮遊大陸の輪郭が仄かに光る星々に縁取られていた。
蓮は崩壊を免れた星詠の神殿〈セレスティアル・オラクル〉の最上階で、一人、空を見上げていた。
終極因果交点〈カタストロフィ・シンギュラリティ〉における虚神との決戦。
それは全ての時空に影響を与え、過去と未来、存在と無を貫く戦いだった。
その果てに、蓮たちは勝利した。
だが、それは同時に“神なき新たな時代”の始まりを意味していた。
「……静かだな」
蓮の独り言に、背後からそっと気配が寄る。
振り返れば、そこにいたのはイリスだった。
星明かりが彼女の白銀の髪を淡く照らす。
「世界が……新しくなった証拠よ」
彼女は静かに微笑みながら隣に立ち、共に空を見上げる。
「虚神がいなくなって、因果の流れも安定し始めた。けど、それってつまり……今度は私たちが選ばないといけないってことでもある」
「そうだな。世界を“どう在らせるか”を、今度は俺たち自身が決める番だ」
蓮は拳を握りしめ、胸の奥に眠る“創世の因子”の鼓動を感じた。
そこへ、仲間たちの足音が階段から響いてきた。
リーナ、シャム、ミスト、ネフェリス、ノア、マリル、カイエン――皆が、かつてのように肩を並べて集まってくる。
「やっぱ、こうやって全員集まるのっていいよね!」
マリルが軽快に笑いながら言うと、ネフェリスが柔らかな声で応じた。
「うん……こうしていられる時間が、愛しいわ」
「とはいえ、課題は山積みですけどね」
ミストが苦笑しながら、データを投影する。
「浮遊大陸のエネルギー安定化、星霊たちとの共生の枠組み、新たな政体の構築……それに、各次元との接続が回復したことに伴う、外部世界との接触も予想されます」
「やるべきことは山ほどあるけど、逆にいえば“やれる”ってことだ。もう、運命に操られる必要はない」
シャムの言葉に、皆が頷いた。
蓮は神殿の中心に置かれた円環の装置に近づく。
それは、星詠の神譜の残滓が収束した場所。
新たな記録の起点となる“星暦の炉”だった。
「ここに、俺たちの選択を刻もう。世界が再び歪んだとしても、そこに戻れるように」
蓮が星命の核〈スターノード〉を炉に捧げると、淡い光が広がった。
それはやがて空へと昇り、夜明けを告げる光となって浮遊大陸全土に届く。
その瞬間、大地が微かに震えた。
新たな命の芽吹き、星霊たちの祝福、そして――
「蓮。感じる?」
イリスが囁く。
「……ああ。“何か”が目覚めた」
星の果て。
遥か彼方。
かつて“神々”と呼ばれた存在たちの遺産が、再び動きを見せようとしていた。
「この世界だけじゃない。隣接次元にも異変がある。特に“鏡界レゾナンス”の流れが不安定です」
ミストが報告を続ける。
「ふむ……星霊と星霊の間に、新たな因果軸が生まれつつある。これは……次元を超えた“共鳴”か」
カイエンの解析に、ノアが頷く。
「しかも、この“共鳴”は一方向じゃない。“呼びかけ”に対して“返答”がある」
「呼びかけ……?」
リーナが目を細めた。
「つまり、向こうからも“こちらを見ている”ってこと」
仲間たちの表情が引き締まる。
世界が再生したその瞬間から、すでに次の“波”が始まっていた。
「行こう。俺たちが見た“真の神話”は、まだ始まりに過ぎない」
蓮が手を差し出すと、仲間たちはそれに応える。
「今度の旅は、“世界を創る者”としてだね」
ノアが軽く笑いながら言う。
「次元を超えた航海か。悪くないな」
シャムも槍を担ぎ直す。
「世界の境界の果てまで、行ってやろうじゃない」
リーナが剣を掲げる。
「始めよう。“新時代”の冒険を」
マリルが片目をつぶりながら言った。
蓮は皆を見渡し、力強く頷いた。
「――行こう。星々の導く未来へ」
夜が明ける。
空は金色に染まり、希望の光が大地を照らす。
それは、かつて神々が為し得なかった“創造”の旅路。
蓮たちは再び歩き出す。
次の物語の始まりを、その足で刻むために。
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