第178話 星還の標
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世界は、新たなる夜明けを迎えていた。
虚神〈アバーソン〉との死闘を経て、蓮たちは終極因果交点〈カタストロフィ・シンギュラリティ〉を越えた。
神々の遺した星詠の神殿〈セレスティアル・オラクル〉は崩壊し、かつてあった世界の因果構造は静かに終息を始めていた。
だが、それは終わりではなく、始まりである。
「ここが……新しい空か」
蓮が立つのは、果てなき蒼天の大地。
浮遊島の残骸すらない、まっさらな世界だった。
そこには、時間も、空間も、重力も曖昧で――あらゆる理が再構成される直前の『ゼロ地点』。
彼らは今、“再構築される運命”の中心にいた。
「再び創るためには、まず記録されなければならない」
ミストが言った。
背後には星霊構文の残滓が浮かび、まだ解析しきれない無数の情報が渦巻いていた。
「私たちは“存在”として再定義されなきゃいけないの」
イリスが続けた。
彼女の瞳は星明かりのように輝いており、その奥に宿る古代竜の叡智が、新世界を見据えていた。
「星霊コード再編フェーズ、イニシャライズ」
ネフェリスの歌が空に放たれた瞬間、世界の地平が共鳴した。
「いい歌だよ。心が安らぐ」
シャムがそう呟き、肩にのせた双槍をそっと下ろす。
「この先に敵がいない保証はない。でも、それでも進むしかないよね」
リーナが剣を構えながら微笑む。
星詠の神殿から持ち出された“スターノード”は、蓮の手で安置された。
それは新たな創造の核となる媒体であり、次なる世界の中心座標を定めるコンパスでもあった。
「ここから、俺たちが創るんだ」
蓮はそう言い、静かに拳を握った。
空間が脈動し、周囲の虚無が音もなく変質していく。
ミストが言った。
「これから始まるのは、誰かに与えられた『未来』じゃない。
私たち自身が定義する世界、私たちの言葉で記述する神話よ」
そこに、異変が起きた。
銀光を帯びた光条が空間を割り、新たな存在がその中から現れる。
「君たちは……“選択した”者たちか」
現れたのは、光を纏う中性的な人物だった。無垢なる理性とでも言うべきその存在は、まるで意志そのものが具現化したかのようだった。
「私は“記録管理者”オルディス。君たちの世界遷移を審査する立場にある」
「審査……? どういう意味だ?」
と蓮。
「つまり、お前たちが『創った世界』が果たして“宇宙倫理”に適合するかを測るということさ」
別の声が降ってきた。
黒衣を纏う男――カレド。
彼はかつて、旧世界の因果を監視していた存在であり、“虚神”と手を結んでいた者の一人。
「お前は……まだ生きていたのか!」リーナが剣を構える。
「いや、俺は既に死んだ。だが“記録”だけは残っていた。それが、今こうして君たちの前に再現されている」
「シミュレーション……か?」とカイエンが口を開く。
「その通り。だが、これはただの過去の再演ではない」
オルディスが静かに告げた。
「これは、『君たちが築こうとする世界』に必要な“試練”だ。新世界の礎に過去を乗せる覚悟があるか、それを測る審問だ」
世界の中心に、光と闇が拮抗する。
ネフェリスが歌を止め、静かに言った。
「また戦うの?」
「いや。今回は“戦う”だけではない。これは……選ぶ戦いだ」
蓮が歩み出る。
神託領域。
そこは、あらゆる可能性が交錯し、選択された未来だけが確定する次元。
蓮はその中心に立ち、周囲の仲間たちと視線を交わす。
「俺たちはここで、“本当の意味での選択”を迫られることになる」
オルディスが問いかける。
「君たちは、旧世界の記録を引き継ぐか? それとも完全なる断絶を選ぶか?」
「引き継げば、技術も知識も全て得られる。ただし、同時に“旧世界の呪い”も宿すことになる」
「断絶すれば、全ては白紙。何もないゼロから創ることになるが、その分だけ自由で純粋な世界になる」
選択は、蓮たちの手に委ねられていた。
「俺は――」
沈黙の中、蓮が口を開こうとした瞬間、空が割れた。
そこから飛び出してきたのは、一本の槍。
「まだ早ぇな、その答えは」
声と共に現れたのは、かつての戦友、アシュレイだった。
「お前……!?」
「ま、俺ももう“死んだ側”の人間だけどよ。こうして“可能性”として再構築されたらしい」
「アシュレイ……君は……」
イリスが呟く。
「蓮、選ぶのはお前だ。でも、忘れんな。どっちを選んでも、戦いは続く。世界ってのは、常に矛盾を抱えて生きてるもんだからな」
蓮は静かに目を閉じた。
「……ありがとう、みんな」
そして――蓮は口を開く。
「俺は、“融合”を選ぶ」
「なに?」
「引き継ぎもしない。断絶もしない。ただし、“学び、選び、築く”という意志を持って融合させる。過去を否定も肯定もしない。
未来を決めるのは俺たち自身だ」
沈黙。
それを破ったのは、記録管理者オルディスの微笑だった。
「……なるほど。確かにそれは、“人間らしい”回答だ」
周囲の世界が光を放ち始める。
「選択、承認。再創造フェーズ――移行を開始します」
ミストが頷き、データラインを開放する。
「来るよ、新世界が」
光の奔流が天を貫いた――
蓮たちの選択が、新しい神話を刻む。
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