第177話 星織る刻限
いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。
新世界――
それは、終極因果交点〈カタストロフィ・シンギュラリティ〉を超えた先に生まれた、蓮たちによって紡がれた希望の世界。
だが、「再生」とは決して穏やかなだけの営みではない。
調和と混沌のはざま、進化と継承の狭間で、人々は新たな選択を迫られていた。
「……時間が、歪んでいる?」
ミストが眉をひそめ、空に浮かぶ幾何学的な時空座標を指差す。
浮遊する光点群――それはかつて神話の中でしか語られなかった存在、“時の裂け目”だった。
「この揺らぎ、自然発生ではありません。何者かが、時間そのものに干渉している」
ミストの分析が終わると同時に、イリスの瞳が銀色に染まる。
星霊の共鳴――それは警告だった。
「未来の干渉者が、現れたのよ……!」
「未来から?」
リーナが鋭く問い返す。
「私たちは今、この世界を“創っている最中”のはず。そこに未来の存在が干渉してくるということは……」
「それは、私たちの選んだ未来が“ある者にとって都合が悪い”ということよ」
そう語ったのは、ネフェリスだった。
彼女の声に混じる歌の旋律が、空間を震わせる。
「誰かが、未来を“書き換え”ようとしている……?」
シャムが槍を構え、地面を蹴った。
「なら、またぶっ飛ばすだけだろ」
「そう簡単にはいかないわ」
マリルが静かに首を振る。
「時の干渉者は、過去・現在・未来を同時に観測し、“起こるべきこと”を強制的に修正してくる。つまり……」
「未来そのものを、敵に回すってことか」
カイエンが苦笑しながら、魔術機構を再調整する。
その瞬間、空間が破裂するように開かれた。
光と闇の狭間から現れたのは――一人の少女だった。
真白の髪に、虚無のように黒い瞳。
身に纏うのは、どの文化圏にも属さない銀糸の衣――時織りの装束。
「……あなたが、“クロノ・ウィーバー”?」
イリスが問うと、少女は頷いた。
「はい。私は“星織の審判者”。未来において、この世界が“神話的災厄”を引き起こすと記録されました。よって、是正を行います」
その声に感情はなかった。
ただ、冷徹な事実を読み上げる機械のように。
「是正って……この世界を、なかったことにする気かよ!」
蓮の叫びにも、彼女の瞳は一切揺れない。
「現在の因果は、創造主〈レン=アルカ〉によって規格外の成長を遂げた結果、標準未来モデルより逸脱しています。このまま進めば、確定的に破局が起こる」
「ふざけるな……!」
蓮が一歩踏み出す。
だが、その瞬間、空間ごと“停止”した。
彼と少女との間の空間が、完全に時間を喪失したのだ。
「これが、“時間操作”……!」
ノアが息を呑む。
「君たちは、“良かれ”と思って世界を再構築した。でも、それは“未来にとっての脅威”でもある。だから、私は――全てを巻き戻す」
その宣言と同時に、空が割れた。
無数の“時の断片”が降り注ぎ、現実の上に異なる時系列が重なっていく。
「過去世界の再投影だと……?」
ミストが慌てて空間構造を解析するが、全てが後手に回る。
なぜならこの“クロノ・ウィーバー”こそ、未来において“絶対観測者”と呼ばれる存在――あらゆる時間軸における因果の均衡を保つ、自動調律装置なのだ。
「彼女は……悪意じゃない。ただの“結果”だ……!」
ネフェリスが震える声でつぶやく。
「……なら、俺たちは“意志”で抗うしかない!」
蓮が叫んだ。
その声が、全員の中で火を点ける。
「未来を変えるのは、誰かの記録じゃない……俺たちの、“選択”だ!」
イリスが神譜を展開し、星命因子を最大まで共鳴させる。
「全系統、因果書き換え準備――完了!」
ミストがデータを重ね、ノアがそれを増幅、マリルとカイエンがそれを結界で包む。
リーナとシャムが前衛に立ち、ネフェリスがその中心に立つ。
「さあ、“物語”を再定義しよう――私たちの言葉で!」
蓮が剣を掲げる。
《オーバースペクトル・リンク――全領域因果再編、発動!》
星々が軌道を変え、時間そのものが彼らの剣に引き寄せられる。
それは、神々が“観測者”だった時代を超えた、“創造者”の刃――
その一閃が、“クロノ・ウィーバー”の時空制御を断ち切った!
少女の瞳が、初めて“揺らぎ”を見せる。
「なぜ、あなたたちは……そこまでして、未来を選ぶのですか?」
蓮はゆっくりと、剣を下ろしながら答えた。
「だって、それが“生きる”ってことだろ?」
静寂が訪れる。
少女はしばらくの間、何も言わなかった。
だが――彼女の後ろに浮かんでいた“時の断片”が、ひとつ、またひとつと消えていく。
「私は……審判者。けれど、あなたたちの“物語”が、まだ続く価値があるというなら――」
彼女の身体が光に包まれ、その姿を変えていく。
銀の衣はそのままに、今度は“審判”ではなく“観測”の役割を纏った少女へ。
「私は、新しい未来の“記録者”になります」
その瞬間、新世界において、“時間の女神”が生まれた。
それは、かつての世界には存在しなかった、新たな神性。
――時を織るもの、クロノ・ウィーバー。
彼女の手により、世界はさらに広がっていく。
「これで、また一歩……“創世”に近づいたね」
リーナが笑う。
蓮はその言葉に、静かに頷いた。
「……でも、次は何が来るんだろうな」
「それは、あなたが決める未来よ」
イリスが優しく言った。
彼らの歩む道には、まだ見ぬ脅威と希望が待っている。
けれど、それを選ぶ力が――いま、確かに彼らにはあった。
ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!
モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!
なお、第2作目の作品『定年異世界転生 ~家電の知識で魔法文明をアップデート!~』もよろしくお願いします。




