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第174話  黎明の理想郷

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

静寂のなか、再構築された世界が、胎動のような鼓動を打ち始めていた。


かつて、神々の因果が交差し、破滅と再生の極限が交わった終極因果交点――〈カタストロフィ・シンギュラリティ〉。


そこで蓮たちは“虚神〈アバーソン〉”という存在すら否定した理の外側に打ち勝ち、選択した。


世界を終わらせる者ではなく、創りなおす者として。


そして今、その選択は一つの“形”を取り始めていた。


「……空が、こんなに澄んでるなんて」


リーナが手をかざし、再生された空に浮かぶ光の粒を見上げる。


星とも、花粉ともつかぬその粒子は、天から降る新たな理――〈創界因子〉。


それは、旧世界の名残を少しずつ浄化し、新世界の法則を編み直していく希望の粒だった。


「これが……新しい世界……」


ネフェリスの歌声も、今は穏やかだ。


彼女の歌は、戦場を励ます咆哮から、安らぎを導く祈りへと変わっていた。


蓮たちの眼前には、光と緑に満ちた浮遊大陸――いや、“浮遊世界”が広がっていた。


かつての浮遊大陸は崩壊と再構築を経て、今やひとつの新しい多層世界として再定義されている。


その中心にあったのは、一つの巨大な構造体――


黎明の理想郷〈プロミスト・アーク〉。


それは、かつて神殿だった〈セレスティアル・オラクル〉の残骸を基点に再構築された“新たな神域”だった。


しかし、そこに存在するのは“神”ではなく、“人々の意思と記録”。


「ここが……俺たちの創る“始まりの場所”か」


蓮の声は静かだが、確かだった。


彼の右手には、未だ“星命の核〈スターノード〉”があり、その光はほんのりと淡く周囲を照らしていた。


「蓮様……この場所に、名前を」


イリスが一歩進み、真剣な眼差しで問う。


彼女の姿もまた、神竜としての威容を保ちつつ、人の形を選び続けている。


それは“共に在る”という選択の証だった。


蓮は少し考え、そして――


「――《新星界〈ノヴァリア〉》。


俺たちが築く、この新しい世界の名前だ」


その名が発された瞬間、世界の法則が一つ、確かに書き換えられた。


《新星界ノヴァリア》。


そこは、神なき神域。


誰もが“選択”を持つ世界。


過去に囚われず、未来に縛られず、ただ“今”を生きることが許された世界だった。


「――だが、楽園に試練はつきもの、だよね」


カイエンがふと、思索的な顔で口を開く。


彼の周囲には小型の浮遊端末がホバリングしており、構造解析と再構築の作業を続けている。


「うん……世界の再構築には、“空白”が必ずできる。その隙を狙って、何かが入り込む可能性はあるよ」


ミストが即座に応える。


彼女の解析ユニットも未だに異常な稼働率を維持しており、仮想未来の演算を続けていた。


蓮は、改めて全員を見る。


イリス、リーナ、シャム、ミスト、ネフェリス、ノア、マリル、カイエン――


それぞれが異なる種族、異なる役割を持ちながら、共にここまで来た仲間たち。


「この“世界の誕生”を祝う余裕もないほど、忙しいな」


シャムが肩をすくめる。


だが、その口元にはいつものように皮肉ではなく、微笑があった。


「だからこそ、俺たちが“導く”側に回らなきゃならない」


蓮は言う。


「この世界で、かつての帝国のような暴政や、虚神のような概念支配が生まれないように。“自由”を守るための、最低限の秩序を、俺たちが創る」


「……それって、もしかして、“国”を?」


リーナが問い返す。


蓮は頷いた。


「そうだ。“新世界の帝国”。でも、それは誰かを支配するための帝国じゃない。全ての種族と意志が等しく交わる、“共鳴の帝国”だ」


それは、かつて王国の王が蓮に託した“建国”の夢。


そして蓮自身が選んだ、破壊ではなく創造の道。


「帝国の名は――《エルシオン》。約束の地って意味だ」


皆がその名を口にし、それぞれの胸に刻む。


「じゃあ、さっそく“エルシオン建国計画”を始めよう!」


マリルが元気よく声を上げると、ノアがその隣で微笑む。


「うん。最初の計画会議、議題は“水と食糧の確保”と、“法体系の暫定策定”かな」


現実は、理想の上に築かれてこそ意味を持つ。


だからこそ、彼らは“創る”。


未来を、生活を、命を――“在ること”そのものを。


その夜。


蓮は一人、新たな神域〈プロミスト・アーク〉の中央に立っていた。


彼の傍らには、イリスが寄り添っていた。


「……眠れないのか?」


「少しだけ。色々と、考えすぎてるのかもな」


星々が瞬き、静寂が包む。


「それでも、あなたは選んだ。破壊ではなく、創造を。虚無ではなく、希望を」


「選べたのは……みんながいたからだ。俺一人だったら、たぶん……」


「違うわ。あなたは“ひとり”なんてこと、最初からなかったのよ」


その言葉に、蓮は目を閉じる。


そして再び目を開いたとき、そこには仲間たちの姿が思い浮かんでいた。


これまで出会ってきた人々。


共に笑い、共に戦い、共に前を向いてきた仲間。


「……ありがとう。イリス」


「ふふ。もっと言っていいのよ?」


「調子に乗るなよ?」


ふたりは笑いあいながら、遠く広がる星の海を見つめる。


その光は、もはや過去のものではない。


蓮たちが選び、創り出した、“これから”の輝きだった。


そして、暁が世界を照らす。


《新星界ノヴァリア》に初めての“朝”が訪れた。


それは、かつて誰も見たことのない、まっさらな“始まりの光”。


――新たな神話の章が、ここから始まる。

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