第170話 楽園終焉計画
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星詠の神殿〈セレスティアル・オラクル〉を後にした蓮たちは、新たな決意と共に浮遊大陸の頂――“天命座標〈アストラ・コーデックス〉”へと続く天の門を目指していた。
星命譜に刻まれた未来の航路は、すでに彼らを導いている。
だが、その旅路の先にあるのは希望だけではない。
神話の再構築が始まったことで、世界の奥底に眠っていた“禁忌の理”が目を覚ましつつあった。
浮遊大陸の北東端。重力すら歪む断層を越えた先に広がるのは、かつて楽園と呼ばれた地、“忘却の庭〈エデン・ガーデン〉”だった。
「ここが……楽園の残骸……」
リーナが、息を呑むように呟いた。
大地は枯れ果て、空は黒く濁っている。
だが、かつてここが生命の理想郷であったことを示す名残が、そこかしこに残っていた。
銀樹の骨骸、機械花の結晶、宙に浮かぶ失われた神話の断章。
かつて神々が最後に封印した楽園の“真実”が、今、露わになろうとしていた。
「エデン……ここに隠されていたのか。世界の起源が」
蓮の隣で、カイエンが片眉を上げる。
「楽園という名は聞いていたが、これほどまでに荒廃しているとはな。何があった?」
その問いに応えたのは、ノアだった。
「この地は、旧世界の管理AI――“アーク・オリジン”が創造した、最初の調和圏。すべての種族が争いなく共存できる理想のモデル……だった」
だが、と彼は続ける。
「理想は、必ずしも現実に馴染むとは限らない。ここでは、個という概念が否定され、全が全に同調する“統一意識”が広まりすぎた。それはやがて、自由意志の終焉を招いた」
ミストが淡々と補足する。
「すべてが一つであるがゆえに、違いを持つ者を“異常”と判断し、排除するようになったの。だから神々は、ここを“封じた”。楽園は、個を滅する禁忌として」
ネフェリスは、震える手で枯れた花を撫でる。
「でも……ここに生きてた人たちは、きっと幸せを願ってただけなのにね」
マリルは静かに膝をつき、土の中から淡く輝く結晶を取り出した。
それは“エデン・コード”――この地の統括システムの鍵だった。
「これがあれば、閉ざされた記録にアクセスできるはず。……蓮、やる?」
「……ああ」
蓮は、結晶を起動する。
空間が震え、色褪せた世界に光が満ちる。
光の中、現れたのは――神々と創造主アーク・オリジンの記憶。
そこに映るのは、数多の種族が平穏に暮らす美しい世界。
だが、ある日、突然“異端”として扱われた一人の青年が、統一意識に取り込まれず、拒絶された記録だった。
「この青年は……」
リーナが眉をひそめる。
「……俺だ」
蓮が、ぽつりと呟いた。
映像の中の彼は、“統一意識”に同化することなく、ただ“自分”として在ろうとした。
だが、それは“楽園”にとって最大の脅威だった。
「個は、世界を乱す。君は排除対象となる」
そう告げたのは、創造主アーク・オリジンの端末体だった。
記録は、青年が追放され、彼を追って多くの者たちが離反したことで、楽園が崩壊の道をたどったことを示していた。
「俺が……?」
「違う。君はただ、在ろうとしただけ。それを拒絶したのが、この“理想”の方だったんだ」
イリスが、優しく言葉を添える。
「でも……その時の“拒絶された意志”が、この世界に呼び戻されたのだとしたら?」
ミストの問いに、誰もが息をのんだ。
蓮がこの世界に召喚されたのは、ただの偶然ではない。
失われたエデンの“異端因子”が、別の次元で“意志”を持ち、再び世界の改変に挑んでいる――。
「もしかすると、蓮という存在自体が、“再創世”への鍵だったのかもしれない」
その時、楽園の中心部に眠っていた封印が、蓮の接触により開いた。
重々しい音と共に現れたのは、かつて創造主が最後に構築した超高密度制御領域――《エデン・エクリプス》。
そこには、一体の機械神が立っていた。
『来たか。終焉の鍵よ』
声は、無機質でありながら、確かな意志を持っていた。
『我は“エル=ノヴァ”、この世界の統一意志の最終受信機。汝の到来により、再統合処理が開始される』
蓮が一歩踏み出す。
「それをやれば、また同じ過ちを繰り返すことになる。俺たちはもう、全体の中の歯車ではない。それぞれが、自分の意志で生きてるんだ!」
『意志は不要。調和が全に優先される。異端因子は、今こそ削除されるべきだ』
その瞬間、機械神が浮遊し、制御領域に展開された“同調装置”が稼働を始める。
「全員、ここで食い止めるぞ!」
蓮の号令と共に、仲間たちが前へと飛び出す。
機械神エル=ノヴァは、楽園の理を力に変え、空間全体を“統一意識”に染め上げようとする。
全員が、その干渉を受け、意識を同調されそうになる。
「……っ! 頭が……!」
シャムが苦悶する。
だが――
「こんなもん、俺たちで打ち破ってみせる!」
カイエンの一撃が空間を裂く。
「未来は、数式で決められるものじゃない。予測不可能性こそが、生命の証!」
ミストの演算剣が光を放つ。
「私は……星の歌を、自由に奏でたいの!」
ネフェリスの歌が、空間に反逆の旋律を響かせる。
蓮は、己の“始まり”を背負い、エル=ノヴァへと一歩一歩近づいていく。
「俺は、ここで終わらせない。この世界を“正しい形”で再生する。意志ある者たちの、未来のために!」
剣を抜き、全力で駆ける。
そして――
機械神の中心核を、渾身の一閃で貫いた。
《エデン・エクリプス》が崩壊し、世界に戻る光と音。
楽園は、再び大地に還る。
そして蓮たちは、新たな道を踏み出す。
「終わった……?」
「いや、これが始まりさ。真の意味での、“自由な世界”を創るためのな」
遠く、天命座標が輝いていた。 そこには、最後の“神”が待っている。
物語は、終焉を超えた未来へ――。
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