第169話 星詠の神譜・後編
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星命譜が示す未来への指針――それは一つの選択により、無限に枝分かれする運命の糸。
その一端を掴んだ蓮は、神殿の中心に浮かぶ記録碑に手を伸ばしていた。
彼の決断は、“終焉”ではなく“再生”という未来への宣言。
だが、それはまた、神々の静寂を破る者として、試練の始まりを意味していた。
神殿が淡く震え、光の粒が音もなく散っていく。
その直後、空間が歪み、巨大な鏡のような円環が現れた。
円環の中心には、無限に反射する星々が映し出されていた。
「これは……多次元共鳴現象か」
ミストが驚きに息を呑む。
「いえ、違う。これは……過去と未来、異なる可能性の自己たちが、干渉し合い始めている」
ノアが目を細め、慎重に言葉を紡いだ。
円環の中に見えるのは、すべて“蓮”の姿だった。
ただし、その表情も衣装も違う。
それぞれが異なる選択をし、異なる道を歩んだ“可能性”の蓮たち。
そのうちの一人が、ゆっくりと歩み出てきた。
漆黒の衣をまとい、背中に“神罰の剣”を携えた蓮。
「お前は……俺?」
「“かつてお前だったもの”だ」
異なる蓮が告げる。
「俺はこの世界の運命を一度“破壊”という形で終わらせた。その末に辿り着いたのは、空虚な永遠だった」
静寂の中、足音だけが響く。
異なる蓮は、記録碑を指差した。
「だが、お前は違う。再生を選んだ。ならば、証明してみろ。お前の選択が、俺の過ちを超えられるかどうかを」
挑戦。否、問いかけ。
それは“自我”の試練だった。
その瞬間、神殿の構造が変貌する。
無限回廊のように入り組んだ空間が広がり、蓮たちはそれぞれ、別々の時空に引き込まれていく。
――蓮は、孤独な砂漠の中に立っていた。
赤く焦げた大地。
上空には燃えるような太陽が二つ、空を睨んでいた。
周囲には何もない。
だが、風に乗って声が聞こえる。
「選べ。再生のために、何を捨てる?」
声の主は、自身の内にある“迷い”だった。
「お前は人を救いたいと言う。だが、全てを救えるわけではない。お前が掴むものの裏で、誰かが堕ちる。それでも進むのか?」
蓮は目を閉じた。浮かぶのは、共に歩んできた仲間たちの顔。
そして、彼が守れなかった者たち。
「……それでも、俺は進む。犠牲の上に立つ未来ではなく、可能性を重ねる未来を選ぶ」
その答えに呼応するように、砂の中から白い花が咲いた。
星霊の花だった。
一方その頃――
イリスは、過去の神々が集う幻想宮に立たされていた。
「星を裏切った竜よ、なぜその者に未来を託す」
そう問いかけたのは、彼女のかつての兄――天竜王〈アスフェリウス〉だった。
「私たちは星々の秩序を守るために存在した。その枠から外れた存在に、神譜を触れさせるなど、許されるものではない」
だがイリスは首を横に振った。
「だからこそ、今の蓮が必要なの。あの子は、すべてを壊さずに、すべてを受け入れて進もうとしている。私たち神々にはできなかったことを」
アスフェリウスが目を細め、そしてゆっくりと頷いた。
「ならば、その未来、我が力で照らしてみせよ」
天竜の魂が光と共にイリスへと統合される。
一方、リーナは“運命の塔”の頂上で、もう一人の自分と対峙していた。
「本当に、それでいいの? 蓮にすべてを託して。あなたは、ただ守られるだけの存在じゃない」
もう一人のリーナ。
強さと冷たさを持った、感情を捨てた存在。
「私は……」
リーナは苦悩した。
だが、蓮の笑顔、イリスの温もり、シャムのからかい――すべてが、彼女を今の彼女たらしめていた。
「私は、守られるだけの存在じゃない。けれど、守りたいと思える人がいる。だから私は、私として戦う」
言葉と共に、“もう一人の自分”は霧散し、リーナの剣に宿った。
そして、すべての試練が終わる。
蓮たちは再び、神殿の中心に集う。
「答えは出たか?」
異なる蓮が問う。
その眼差しには、かすかな安堵があった。
「……ああ。未来は一つじゃない。けれど、誰かが選び続けなきゃ、未来は存在しない。だから俺は、選び続ける」
その言葉に、異なる蓮は微笑む。
そして、神罰の剣を蓮へと手渡す。
「お前が持つにふさわしい。運命に抗い、世界を織り直す者として」
剣は光となって蓮の胸へと溶け込む。
新たな力、そして新たな責任。
「……行こう。次の扉を開くために」
神殿が崩れ始める。
だが、それは終焉ではなく、変化の兆し。
星々が輝きを取り戻し、空が再び広がっていく。
イリスが微笑む。
「星の神譜は、あなたたちの歩みそのものだったのね」
蓮は頷いた。
「だから、これからも俺たちは歩く。終わりなき創造の旅を――」
そして、星空の下、新たな物語がまた一歩、刻まれ始める。
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