第168話 星詠の神譜・前編
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星々が連なる夜空、その最奥に煌めくひときわ巨大な星。
それはただの天体ではなく、かつてこの世界を創ったとされる神々の意志が宿るとされる『天命座標〈アストラ・コーデックス〉』。
その存在を探知した蓮たちは、浮遊大陸の最上層から天への道を開くため、古代神族の遺跡群――通称『星詠の神殿〈セレスティアル・オラクル〉』へと向かっていた。
神殿の入口は、銀白色の花が咲き乱れる星霊の庭園を抜けた先に、静かに佇んでいた。
まるで空間そのものが時間から切り離されたかのような神秘的な静寂が広がる中、蓮は足を止め、仲間たちへと視線を向けた。
「……ここが、星詠の神譜が眠る場所か」
彼の言葉に、イリスが頷く。
彼女の瞳は星光を宿したかのようにきらめき、かすかな懐かしさを感じさせていた。
「そう。この場所は、私がまだ神の時代に存在していた頃、星々の声を記録するために築かれた記憶の神殿。過去と未来を繋ぐ、魂の記録庫……」
リーナは無言で神殿の巨大な門を見つめていた。
扉には円形の紋章と八つの星座が刻まれ、中心には『星命譜』と呼ばれる鍵が必要であると記されていた。
そして、その鍵の欠片を持っていたのは、浮遊大陸にて蓮たちと合流した五人の新たな仲間――マリル、カイエン、ミスト、ネフェリス、そしてノアであった。
「俺たちは、それぞれの世界でこの欠片を守ってきた。それが、君たちに託された運命だったのか……面白いじゃないか」
カイエンが口角を上げて笑いながら、黄金の星命片を掲げる。
「解析によれば、この神殿には一種の時空記録装置が組み込まれている。過去の神々の記録を辿ることで、未来への干渉が可能になる……いわば、運命そのものの編集権が与えられるのよ」
ミストが冷静に説明する横で、ネフェリスは天真爛漫に笑っていた。
「でも、あたしは難しいことより、綺麗な星の歌が聴けるってだけでワクワクしてるよ!」
そんな彼女にノアが小さく笑みを返す。
「君のその感性も、星が選んだ才能だよ」
星命片を八つ揃え、神殿の扉が静かに開かれる。
中には、幾千もの光粒が浮かぶ広間が広がっていた。
それぞれの光は、過去に存在した魂の記憶――神々、英雄、そして失われた民たちの記録である。
「この光たちは、問いかけに応じて記憶を投影する。……さあ、蓮。何を知りたい?」
イリスの問いに、蓮はしばし黙し、そして口を開いた。
「俺がこの世界に呼ばれた本当の理由を。そして、この世界をどう終わらせ、どう創り直せばいいのか……それを、教えてほしい」
次の瞬間、光の一つが激しく瞬き、空間に映像を投影し始めた。
そこには、一人の青年が映し出されていた。
――蓮。
しかし、それは今の彼とは異なる姿。
灰色の世界で、神の座に座し、無数の命を管理する存在として描かれていた。
「これは……俺か? 未来の……」
映像は進み、やがてその青年が空へ手を伸ばし、星々を閉じ込める箱を開く場面が映された。
それは“終わりの鍵”――世界を初期化するシステムの起動だった。
「君は、世界に選ばれた『終焉の管理者〈ワールド・エディター〉』だった。だが、今の君はすでにその枠組みから逸脱している。魂の選択が、定められた歴史を書き換え始めているの」
映像の解説にミストが驚きを隠せずに言葉を漏らす。
「自己進化型……運命のコードから逸脱する個体……これは、運命系統においては理論上ありえない」
イリスは、蓮の肩に手を置いた。
「でも、それが今のあなたよ。だからこそ、今、この場所で選んで。あなたの意思で、未来を」
光の粒たちが再び舞い上がり、次なる問いを待っているかのように瞬く。
蓮は、ふと仲間たちを見た。
共に戦い、涙し、笑った面々。
イリス、リーナ、シャム、マリル、カイエン、ミスト、ネフェリス、ノア。
誰一人として欠けてはならない、大切な絆。
そして、蓮は静かに口を開いた。
「俺は、この世界を“再生”する。終わりじゃない。創り直すんだ。過去の罪も、痛みも、すべてを抱えて――それでも進む、未来へ」
その瞬間、神殿全体が輝き出し、星命譜の中心から巨大な記録碑が浮かび上がる。
そこには、蓮の選択が“新たな星命”として刻まれていた。
星詠の神殿が示したのは、神々の記録ではなく、未来への指針。
それは、これから蓮たちが紡ぐ、新たな神話の序章に過ぎなかった。
星々が再び瞬く夜空の下――物語は、新たな運命の航路を進み始める。
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