第16話 迫る追手
リーナを仲間に加え、蓮たちは魔の森へ向かう準備を進めていた。しかし、神殿は彼女の離脱を認めず、神殿騎士団を差し向ける。追跡を察知した蓮たちは急ぎ王都を離れようとするが、街の出口で騎士団と対峙することになり——。
「リーナ、準備はできたか?」
宿の一室で、蓮はリーナに確認した。彼女は神殿から持ち出した魔法の書と、最低限の荷物をまとめた小さな鞄を肩にかけていた。
「はい。でも……やっぱり、神殿の皆にちゃんと話すべきだったかもしれません。」
リーナは少し俯いた。彼女が神殿を無断で出てきたことは、決して軽い決断ではなかった。
「今戻れば、確実に閉じ込められるぞ。それでもいいのか?」
「……それは、嫌です。」
リーナはきっぱりと答えた。その目には迷いはなくなっていた。
「よし。それなら急ごう。」
蓮、シャム、そしてリーナの三人は、王都を離れるために宿を出た。まだ日が昇る前の時間帯、街は静まり返っていた。
「西門から出る予定だったが……」
蓮は小声で呟くと、街の中心部へと目を向けた。昨夜からずっと嫌な予感がしていたのだ。
——そして、その予感は的中した。
「……やはりか。」
王都の西門の手前、兵士たちの間に見慣れない白い装束の男たちが立っていた。
「神殿騎士団……!」
リーナが息を呑む。彼らは神殿直属の戦士であり、王国の兵士とは異なる権限を持っている。
「これは……まずいな。」
シャムも警戒の表情を浮かべた。神殿騎士団は王都の兵士とは違い、リーナを捕まえることを最優先に動くはずだ。
「どうする? 正面突破するか?」
シャムが低く呟くと、蓮はすぐに首を振った。
「いや、無駄な戦いは避ける。別の出口を探そう。」
三人はすぐに進路を変え、南門の方へ向かった。しかし——
「くそっ、ここもか。」
そこにも、神殿騎士団の姿があった。王都の主要な門にはすでに彼らが配置されている。つまり、このままではどこからも出られない。
「どうするの?」
リーナが不安そうに蓮を見つめた。
「……一つ、試したい方法がある。」
蓮はそう言うと、街の壁に沿って路地裏を進み始めた。
「ここ……なんですか?」
「昔使われていた地下水路だ。今はほとんど使われていないが、王都の外へ続いているらしい。」
蓮は事前に得た情報をもとに、地下道の入り口を見つけ出した。
「でも、こんな場所に入って大丈夫なの?」
リーナが不安そうに足元を見つめる。暗闇の中に続く階段は、確かに不気味だった。
「時間がない。騎士団に見つかる前に抜けるぞ。」
三人は慎重に地下道へと足を踏み入れた。
「思ったより広いな……。」
シャムが壁に手をつきながら進んでいた。地下水路はすでに機能していないため、水はほとんど流れていないが、湿った空気が漂っている。
「でも、思ったより古いですね。」
リーナが壁の装飾を指さす。確かに、ただの水路にしては妙に精巧な装飾が施されていた。
「昔は重要な施設だったのかもな。」
蓮がそう言いかけたその時——
「っ!?」
突然、リーナの足元の床が沈んだ。
「リーナ!」
蓮がとっさに手を伸ばしたが、彼女の身体が沈んでいく。
「罠だ!」
シャムが叫ぶ。
しかし、次の瞬間、リーナの体はふわりと浮き上がった。
「えっ?」
「……風魔法か?」
リーナ自身がとっさに風の魔法を発動し、落下を防いでいた。
「す、すみません……反射的に……。」
「いい判断だった。」
蓮は彼女の手をしっかりと握り、罠の穴から引き上げた。
「この地下道、想像以上に危険かもしれないな。」
「慎重に行こう。」
三人は再び進み始めた。
ようやく地下道の終点にたどり着くと、そこには崩れかけた石の扉があった。
「外に出られるか?」
「待ってください……魔法の痕跡があります。」
リーナが扉に手をかざすと、微かな魔力が反応した。
「古い封印魔法……。でも、今はほとんど力を失っています。」
「壊せるか?」
「はい。」
リーナが集中し、封印の魔法を解除すると、扉が軋みながら開いた。
そして、彼らが外に出た瞬間——
「待て!」
鋭い声が響き渡った。
そこに立っていたのは、十数人の神殿騎士団だった。
「……やっぱり、先回りされてたか。」
蓮が苦笑しながら剣を構える。
「リーナ様、神殿へお戻りください!」
騎士団のリーダーらしき男が前に出た。
「戻らないわ。」
リーナは毅然とした態度で言った。
「それは困ります。我々には、あなたを連れ戻す責務が——」
「なら、力尽くで行かせてもらう!」
シャムが刃を抜いた。
「やるしかなさそうだな。」
蓮も魔力を練り上げる。
「リーナ、下がってろ。」
「……いいえ、私も戦います!」
彼女は風魔法を展開し、戦闘態勢を取った。
こうして、蓮たちは神殿騎士団との戦いに突入する——。




