第166話 時環解錠機構
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悠久の時の流れに刻まれた軌跡は、決して一本の線ではなかった。
折り重なり、交差し、時にねじれ、時に断絶する。
そして今——蓮たちは、その「時間そのものの封印」に触れようとしていた。
「……これは、記録されざる歴史。あるいは、失われた運命の残響か」
蓮は呟いた。
目前に浮かぶ巨大な環状の構造体——《時環解錠機構〈クロノ・アンロッカー〉》。
星の内部、深層のさらに奥深く、「時の座」とも呼ばれる禁域の中心に、それは静かに鎮座していた。
まるで星の心臓のように、規則正しく脈動しながらも、どこか不安定な鼓動を響かせている。
「こいつが……時間の流れを束ねてる核?」
イリスが鋭い視線を向けた。
彼女の竜眼は、時の歪みにも干渉できる。
「違うわ。ただの“核”じゃない。これは、時の多重構造を『ロック』する“鍵”そのものよ。過去・現在・未来の自由な遷移を防ぐための、封印機構」
「ってことは、これを“アンロック”すると……?」
「世界線そのものが開くわ。つまり——“可能性の再選択”が可能になる」
「……再選択……?」
リーナが息を呑む。
「それってつまり……これまで失われた命や、滅びた国、壊された歴史も、やり直せるかもしれないってこと?」
シャムが苦い表情を浮かべた。
「けど、それは同時に——過去を改変することになる。運命を変えるってのは、代償も大きい。下手すりゃ、“今”が消滅する」
「……リスクは承知の上さ」
蓮は歩みを進めた。
彼の背中には、これまでに出会ったすべての者たちの想いが宿っている。
「俺は、この世界に本当の“選択肢”を与えるためにここに来た。なら、全てを知った上で……その扉を開けてみせる」
――時環の封印層【第七階層】、起動。
《クロノ・アンロッカー》の第一層が、蓮たちの接近によって静かに開いた。
視界が一変し、彼らは「もうひとつの歴史の断片」に呑まれる。
そこにあったのは、かつての蓮——ではなく、蓮が選ばなかった“別の選択肢”を選んだ蓮。
「……帝国に従った俺……?」
その世界では、蓮は帝国の騎士団長として数々の異種族征伐を指揮していた。
イリスもリーナも、仲間になることなく敵として戦場に散っていた。
「これが、あり得たかもしれない未来……」
「見たくなかったわね、こんなもの」
イリスが声を震わせた。
「けど、これもまた“可能性”のひとつ。蓮、どうするの?」
「当然、選ばないさ」
蓮はその未来を否定した。
だが、否定するということは、それを「封じる」責任も負うことを意味する。
彼は己の影のような存在、《帝国の蓮》と剣を交えることになる。
時空を超えた、自分自身との戦い。
——その末に、勝利を掴んだのは、「選ばれた現在の蓮」だった。
――時環の封印層【第六階層】、起動。
続いて開かれたのは、かつてリュドミラが消えたとされる“喪われた戦線”。
「ここは……」
蓮の記憶の中には存在しない風景。
だが、心は知っていた。
「リュドミラ……!」
彼女はこの階層に囚われていた。
数年前、時環の裂け目に呑まれ、存在そのものが“確定しない未来”に幽閉されていたのだ。
蓮は、時環機構の一部を操作し、“不確定領域”からリュドミラを引き戻すことに成功する。
「ようやく……会えたな」
「うん……遅いよ、蓮。でも……来てくれて、ありがとう」
リュドミラは涙を浮かべながら微笑んだ。
――時環の封印層【第五階層】、起動。
そこでは、ノアがかつて所属していた《星暦記録局》の残骸が映し出される。
「これは……滅んだ星の記録?」
ノアは静かに頷いた。
「かつて、私たちは星の運命を記す“クロノ・セイバー”として、未来を予見する者だった。でも……時間に抗おうとした我々は、罰せられたの」
「時間そのものが“意思”を持っているとすれば……?」
「そう。だから《クロノ・アンロッカー》はその“意思”への挑戦でもある。時の主を打ち破る力を、私たちは手に入れなければならない」
その時、時環の中央部から新たな扉が開かれる。
「この先が最深部……!」
――時環の最深部:原初時座〈オリジナル・クロノスフィア〉
そこには、かつて「時間神」と呼ばれた存在——クロノヴァ・セレスティアが待ち構えていた。
「我が名は、時の管理者。人の手で“選択”を許してはならぬ存在」
「ならば、俺たちはその禁忌を破る者だ!」
蓮の叫びとともに、仲間たちは力を合わせ、時間の神との最終決戦へ挑む。
時空を跳躍し、因果を巻き戻し、幾千幾万もの“未確定の攻撃”が飛び交う、次元の壁を超えた戦い。
イリスの竜力が空間を裂き、リーナの歌が時間の流れを歪ませ、シャムの刃が“現在”を固定する。
そして——蓮の剣が、“過去と未来の交差点”を断ち切った。
「これが……俺たちの、選んだ世界だ!」
クロノヴァの神核が砕け、時環は真の意味で解錠される。
浮遊大陸上空。
青空の下、蓮たちは静かに時の変化を感じていた。
「何かが変わったの、わかる?」
リーナが微笑む。
「うん……もう、未来は“ひとつ”じゃない。無限の可能性が、今この瞬間に重なってる」
ノア、リュドミラ、ルヴァイン、エルナ、レオナ、そして仲間たち全員がそこにいた。
「これが、俺たちの勝ち取った自由。もう、誰にも未来は縛れない」
「次は……どこへ行くの?」
イリスが問う。
蓮は空を見上げ、静かに答えた。
「まだ見ぬ星の果てへ——時を超え、夢の先へ」
こうして、時の支配を打ち破った彼らは、新たな神話の扉を開いた。
それは、決して終わらない、始まりの物語だった。
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