第165話 時環漂流回廊
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――時空の果て。光も音も存在しない、空虚なる深淵にて。
そこは“時環の檻”と呼ばれる、歴史に記録されることすら許されない禁忌の空間だった。
絶えず揺らぐ時の奔流が、過去・現在・未来を無作為に交錯させ、理すら歪める異次元の迷宮。
かつて帝国の始祖さえ封じることを躊躇ったという伝説の場所――今、蓮たちはその入り口に立っていた。
「……ここが、“クロノス・アビス”か」
蓮がそう呟いた瞬間、周囲の空間が波紋のように揺れる。
同行していたイリスの金の瞳が、異様な魔力のうねりを捉えた。
「この空間……時の概念そのものが分裂しているわ。気を抜けば、自分が“いつの自分”なのか、分からなくなるわよ」
蓮は頷き、深く息を吸った。
ここでの任務は、“未来断層”に干渉し、帝国が裏で進めていた“時間制御兵器”の残骸を破壊することだった。
だが、その奥にはさらに大きな目的があった。
それは――“運命の継承者”を迎え入れること。
一行は時環の奥へと進む。
空間が歪むたびに、足元に現れる床の模様すら変化し、過去に見た風景や、亡き仲間たちの幻影が現れる。
「見ろ、あれ……!」
シャムが指差した先に浮かんでいたのは、かつて“始源戦争”で散った仲間たちの姿。
だがそれは過去の残滓ではなく、“選択されなかった未来”の断片だった。
「ここは可能性の牢獄でもあるのね……」
リーナが静かに呟く。
その言葉にイリスが応える。
「過去の選択が、未来を縛る。そしてこの空間は、その鎖を見せつけてくる……そのための場所なのよ」
やがて、時の迷宮を彷徨う彼らの前に、四つの影が現れた。
「待っていたよ、蓮」
声の主は、かつて魔の森の調停で一度だけ姿を見せた、“記憶の管理者”リュドミラ。
彼女の背後には、紅蓮の槍を携えるルヴァイン、風を纏う吟遊詩人エルナ、そして剣と魔法を併せ持つ少女レオナがいた。
「君たちは……」
「私たちは、“時環の外郭”で眠っていた存在。蓮、あなたが世界を再編したとき、断絶された時空の歪みによって、私たちの記憶も流され、取り残されたの」
リュドミラの言葉に、蓮は静かに頷いた。
「君たちの存在は、きっと未来に必要になる……そんな気がしていた」
ルヴァインが片膝をつき、騎士の礼を取る。
「我ら四人、“時環の守護者”として、あなたの下に集います。あなたの未来が、世界の希望であると信じて」
蓮は剣を構え、微笑む。
「ようこそ、仲間たちよ――共に、時を超えよう」
その奥、時の核たる“クロノ・ノード”に辿り着いた一行。
そこには、かつて帝国が創り出した、未完成の存在が待ち構えていた。
「私は――“アルタ・テンペスト”。この時環にて、永遠を守るために創られし“時の番人”」
それは半人半機の姿をした、歪な存在だった。
時の精霊をベースに作られた彼女は、もはや自己の存在意義を見失っていた。
「未来が混沌であるなら、私はすべてを凍結させる。動かぬ時間こそが、最も安定した世界だから……」
「それが、君の答えか」
蓮が前へ出る。
アルタの周囲に、次元の歪みが生まれる。
あらゆる攻撃と防御が“未来に置き換えられる”その力は、時間すら捻じ曲げる最強の障壁だった。
だが――蓮は一歩も引かない。
「俺は、“今”を生きる。どんなに脆くても、どんなに不確かでも、それが俺たちの時間だ!」
「ならば、抗え――未来をねじ伏せる者よ!」
その瞬間、戦いが始まった。
蓮とアルタの戦いは、“未来視”と“現在強化”のぶつかり合いだった。
蓮はあらゆる未来を先読みされる中、逆に“予測不能な行動”で切り込んでいく。
「――《零式連刃・虚象連舞〈ゼロ・イマジナリア〉》!」
その技は、過去の戦いから編み出した応用技。
未来予測を欺く変則的な動きに、アルタが初めて驚愕の声を漏らす。
「これは……計算できない!? 未来に存在しない動き……!」
「そうだ、“選ばれなかった未来”すら、俺たちが選べば現実になる!」
最後の一撃が、アルタの胸部にある“時間核”を断ち切る。
静かに彼女は崩れ落ちる。
その顔には、安堵の微笑があった。
「ありがとう……私の時間も……ようやく、終われる」
その瞬間、時環の空間が揺らぎ、中心にあった“クロノ・ノード”が光を放った。
「蓮……これは、君に託された未来の鍵だ」
その声と共に、蓮の手には新たな神器――“時環核晶〈クロノ・リアクター〉”が出現する。
それは、時を制御する唯一の装置であり、同時に“世界再編の最終鍵”でもあった。
帰還の時、蓮は仲間たちを振り返る。
「俺たちは、運命の奴隷じゃない。過去も未来も、今を生きることで変えていける。そう信じて進もう」
イリス、リーナ、シャム、そして新たに加わったリュドミラたちが頷く。
時の迷宮を抜けたその先には、終焉と創造が交差する“神域”が待っていた。
――次なる戦いの名は、“世界神統戦”。
運命すら超える意志を持つ者たちの、新たな戦いが、今始まろうとしていた。
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