第163話 原初回廊継承者
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世界がかつてない規模で交差し、歴史と未来が同時に脈打つ中――蓮たちは新たなる導きを得ていた。
時の狭間、空間の継ぎ目。
そこに存在するとされる“原初の回廊”は、全ての神話構文を紡ぐ礎であり、現実を再定義する鍵であるという。
だが、その扉は誰にでも開かれるわけではない。
選ばれし“継承者”――その血と意志を宿す者だけが、回廊の導きに応えることができる。
「……あれが、“回廊の断章”か」
蓮は、浮遊大陸の最奥、天空と地核を結ぶ“零の塔”を登り詰めた先で、その存在を目の当たりにした。
煌めく光の欠片が幾千にも連なり、時間の概念を歪ませながら、音のない共鳴を放っている。
だが、それに触れる寸前――空間がひしゃげるような音が鳴り、四つの影が姿を現した。
「……あんたたち、覚えてる?」
静かに微笑む銀髪の女性――リュドミラ。
かつて、帝国の情報局に潜入していた蓮が、とある辺境都市で“暗号管理局”の協力者として接触したスパイである。
彼女の持つ〈記憶封印術〉は、蓮の存在すら一時的に無にした過去を持つ。
「久しぶりだな。あのときの借り、ようやく返す時が来た」
豪胆な雰囲気を纏い、巨大な戦槌を片手に微笑む男――ルヴァイン。
獣人族の流浪部族“雷鋼の爪”の戦士であり、蓮がかつて〈雷嶺遺跡群〉で共闘した相棒のひとりだった。
その戦いは短かったが、互いに背を預けるには十分な信頼を築いていた。
「……蓮、やっと、また会えたね」
小さく呟いたのは、透き通るような青い瞳の少女――エルナ。
帝都の地下で実験体として囚われていた彼女は、蓮によって救出された存在だ。
彼女の能力〈理想具現化〉は、想像を限りなく現実に近づける禁断の異能である。
「さ、立ち止まってる暇はないわよ。あたしたち、あんたに会うためにずっと動いてたんだから!」
最後に飛び込んできたのは、炎のような紅髪をなびかせる女性――レオナ。
彼女は独立傭兵団〈ルビーファング〉の副団長であり、魔の森への派遣任務の際、蓮と刃を交えた因縁がある。
それが縁となり、レオナは帝国への反旗を翻した。
「それぞれが、それぞれの運命を越えて、ここへ辿り着いたのか……」
蓮は微かに目を細めながら、頷いた。
リュドミラの知略、ルヴァインの剛力、エルナの精神干渉、レオナの戦闘統率力――どれもが、今の旅に必要不可欠な力だった。
イリスが一歩前に出る。
「この場所が呼んだのね。新たな“継承の胎動”を」
レオナが問い返す。
「継承? まさか、あたしたちが“鍵”なの?」
シャムが頷く。
「この“原初回廊”は、ただの遺構じゃない。次なる神話を編むための装置だ。でも、起動には“魂の記録者”たる存在――君たちのような者たちが必要なんだ」
「じゃあ、やるしかないわね。面白くなってきたじゃない」
レオナが笑みを浮かべる。
蓮は回廊に近づき、手を差し伸べた。
すると、五つの円環が宙に浮かび上がり、それぞれの“記録者”たちの胸元へと吸い込まれていく。
回廊が共鳴を開始する。
地の底から天の頂まで、光の奔流が走り抜け――“アーク・レガリア”と呼ばれる新たな存在の核が、姿を現す。
その瞬間、空間が反転する。
世界が上下逆さまにひっくり返り、すべての存在が“記録される側”へとシフトしていく。
だが、そこに割って入る影があった。
「それ以上、進ませるわけにはいかないよ」
透明な仮面をつけた青年が、回廊の中心に現れる。
その名は未だ語られぬ“第十三の記録者”――次元外知性〈ナラティヴ〉の使徒。
彼の背後には、既に死したはずの敵たちが立ち並んでいた。
“幻影記録”――過去の敵を、記憶から召喚する恐るべき再生術。
蓮たちは、再び立ち向かわねばならない。
己の歩みを、証を、記録をかけて――“未来を語る”戦いへ。
「行こう、みんな。次なる神話は、俺たちが綴る!」
蓮の声が、回廊に響き渡る。
選ばれし継承者たちが、その背に続いた。
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