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第162話  終星理論統合

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

深宇宙に浮かぶ浮遊大陸。


かつて幾千の文明が芽吹き、幾万の命が交錯したこの地は、いまや〈星命共鳴〉の中核に変貌しつつあった。


銀河の脈動と連動し、宙に浮かぶ巨岩群が旋回するさまは、まるで星々の意志を象った巨大な歯車のようであった。


蓮は空を仰ぎ、煌めく星座のひとつに視線を投げる。


そこに宿るのは、確かに"誰かの願い"だった。


「……見えてきたな。終星の座標が」


「まさか、本当にこの空間が星理ネットワークの〈終点〉だったとはね」


傍らでつぶやくのはリーナ。


彼女の髪は微細な星光を帯び、時折、幻のように揺れる。


それはこの場の空間情報と彼女自身が同期しつつある証。


「星の記録が反応している。次元融合……最終段階に入ったみたい」


イリスが告げる言葉には、重々しい響きがあった。


彼女の竜としての感覚は、既にこの空間を“ひとつの生命体”と捉えている。


「それだけじゃない。誰かが、いや――何かが、俺たちを“見て”いる」


シャムが背後に視線を投げ、抜刀する。


その瞬間、虚空に〈紋章〉が浮かび上がった。


螺旋と直線が交差し、やがて星を象る構造へと再構築される。


「観測者……か」


蓮が口にした瞬間、空間が反転した。


 


――終星遺構〈オムニ・ステラ〉


空間が弾け、視界が揺れる。


次の瞬間、一行は〈白銀の観測殿〉と呼ばれる謎の構造体の中に転送されていた。


そこは、無限に続く書架と天球儀で構成された神殿都市。


浮遊する球体の一つひとつが、宇宙における“命”の記録であり、それぞれが個別の時間を流している。


「……これは、星々の思念が刻まれた、情報の墓標……」


ネフェリスが天球儀に触れると、過去の記録が幻影のように再生された。


星々の消滅、文明の滅亡、命の連鎖、そして最後に残された“誓い”。


それは「存在の証明を記録し続けよ」という神託だった。


「つまり、ここは……世界の因果を書き換えるための〈書き手〉を選ぶ場所……?」


ミストの言葉に、シャムが無言でうなずく。


彼の視線の先には、白銀の玉座があった。


 


――選定と拒絶


白銀の玉座に近づくにつれ、空間に干渉していた情報ノイズが消失し、代わりに“問い”が投げかけられた。


――汝らの願いは、いかなる世界を描くものか?


「私は……滅びではなく、更新を望む」


ネフェリスが口にした言葉に、玉座が一瞬だけ脈動する。


「命に終わりがあるのなら、それを受け入れたうえで……未来を紡げばいい」


ノアが応じると、空間の紋章が再び変容した。


だが、カイエンだけは、無言のままだった。


「……世界を変えるために、俺はお前たちに託す」


そう言い残し、彼は幻影のように空間から消失した。


「彼は……世界線の分岐点に留まったのかもしれない」


ミストが囁くように言い、拳を握る。


蓮は一歩、玉座に近づいた。


「俺たちは、選ばれるために来たんじゃない。すべての命が、自らの手で未来を選べるようにするために、ここに来たんだ」


その言葉をもって、空間全体が共鳴を起こした。


紋章は星型から、光の輪へと変化し、全存在の“等価性”を示す構造へと転じた。


 


――世界律統合〈セレスティアル・エクリブリアム〉


激しい光とともに、蓮たちの体は情報粒子となり拡散し、世界の全層へと拡張された。


あらゆる次元、あらゆる存在が彼らと“同期”を開始する。


これは融合ではない。


干渉でも、支配でもない。


――共鳴。星命と星命の、相互理解による再編成。


「この情報量……一瞬で数千年分の未来が流れ込んでくる……!」


リーナが膝をつくも、蓮が手を取る。


「大丈夫だ。俺たちは一人じゃない」


蓮の言葉と同時に、かつての仲間たち――そして魔の森に残された多種族の面々の幻影が現れ、彼らに力を貸す。


かつて失われた命。


まだ見ぬ命。


すべての可能性がここに収束し、そして“再起動”を迎える。


「行こう。次は……俺たち自身が、世界を紡ぐ番だ」


その言葉とともに、〈終星遺構〉は崩壊を始め、空間そのものが新たな世界構築のための〈礎〉と化していった。


 


――新たなる原初の胎動


数瞬の静寂の後、蓮たちは新たな浮遊大陸の中枢にいた。


そこはかつての〈始まりの王国〉の景色によく似ていたが、まるで“すべてが更新された記憶”のように美しく、鮮やかだった。


空にはふたつの太陽。地には浮遊する都市群。


そしてその中心には、新たな“意志”が芽吹いていた。


「これは……新世界……?」


リーナが呟く。


「いや、俺たちが“描いた”世界だ」


蓮は静かにそう言い、背後から追いついてきた仲間たちを振り返る。


ここから先は、誰かに与えられた道ではない。


彼ら自身が、存在の意味を問いながら切り拓く道だ。


そして、蓮の視線は新たな名もなき浮遊大陸の空に向いた。


「この星に、名をつけようか――〈ユニア・アーク〉。統合の方舟、って意味でさ」


その瞬間、空に祝福のような星光が瞬き、風が未来の匂いを運んできた。


世界は、いま、ふたたび生まれた。

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なお、第2作目の作品『定年異世界転生 ~家電の知識で魔法文明をアップデート!~』もよろしくお願いします。

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