第159話 星命共鳴記録
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無限に広がる星の海。その中心に、黄金の輝きを放ちながら浮かぶ巨大な球体があった。
まるで意志を持った恒星のように、それはゆっくりと脈動し、銀河規模の音律を空間に響かせていた。
「これが……《星命の記録盤〈コズミック・レコード〉》……」
蓮は唖然としながら、その神秘的な構造物を見上げた。
全長数千キロを誇る記録盤は、神話に登場する“星々の創造記録”が収められたとされる場所であり、存在自体が神代の遺産とされている。
「まさか、本当に存在していたとはな……」
シャムが呆れたようにため息をついた。
彼の肩に乗ったミストが、ふわりと羽を揺らして同意する。
「でも、感じる……これは“星の記憶”よ。無数の命の共鳴が、時空を超えて歌ってる……」
イリスの言葉は、決して詩的な表現ではなかった。
彼女の竜としての感覚が、この空間に蓄積された膨大な“星命波動”を感知していたのだ。
蓮たちがここ《アストロ・レゾナンス・フィールド》に到達するまでには、数多の犠牲と戦いがあった。
“次元創世圏”における戦いは、世界を再構築するだけでなく、異なる宇宙そのものとの接続を可能にする巨大な扉を開いた。
そして今――蓮たちは、いよいよ《運命の起点》に辿り着いた。
「だけど、この記録盤は……ただのデータベースじゃない。これは、生きている」
ノアが前に進み出ながら、警戒を解かずに言った。
彼の背後で光る紋章は、古代天文術師としての力を意味している。
「“生きている”……どういう意味だ?」
カイエンが眉をひそめて問うと、ノアは真剣な表情で答えた。
「この記録盤は、観測者の“星命位相”とリンクし、それに応じた記憶層を展開する……つまり、見る者によって記録そのものが変容する。蓮、お前の魂が試されるんだよ」
「星命位相……記憶と記録が、共鳴するのか」
蓮は深く頷いた。
そして、無意識に右手を掲げると、掌に星のような紋章が浮かび上がった。
「この印は……《星命転写符〈レゾナンス・グリフ〉》!」
ネフェリスが目を見開いた。
その姿は相変わらず気怠げで、口調もゆるやかだが、彼女の魔眼は明らかに反応している。
「その印は、“星と対話する者”に与えられる特異な共鳴刻印……つまり蓮、お前はもう星の管理者として認識されたということだ」
「俺が……?」
戸惑う蓮をよそに、記録盤がゆっくりと回転を始める。
その回転が増すたびに、空間が幾重にも折り重なり、光の層が花開くように展開されていく。
「記録の投影が始まる……!」
リーナの言葉と同時に、蓮たちは無重力のような空間に吸い込まれていった。
――空間が変化する。
それは記憶の中でもなく、夢の中でもない。
だが、どこか懐かしい。
そこに現れたのは、数え切れない星々が踊る“星核回廊”だった。
「ここは……俺の記憶?」
蓮はそう呟いた。
だが、それは蓮一人の記憶ではなかった。
シャム、イリス、リーナ、ノア、カイエン、ミスト、ネフェリス、そしてマリル……すべての者たちの想念が重なり、ひとつの宇宙規模の回廊を形成していた。
「星命共鳴とは、過去・現在・未来を越えた“魂の融合”だ」
ノアの言葉に、蓮はハッとする。
「じゃあこれは……“みんなの軌跡”そのもの?」
「そうだ。この記録盤が求めているのは、世界を救った英雄の姿ではない。“多種多様な命がひとつの調和に至る可能性”そのものだ」
その瞬間、記録盤が明滅した。
次の瞬間――蓮たちは、それぞれの記憶の“原点”に引きずり込まれていく。
蓮の前に現れたのは、まだ何も知らなかった少年の自分。
「俺が……始まりだったのか?」
「いや、始まりなんてものはないんだよ。全ては“星の循環”の一部に過ぎない」
マリルが現れ、優しく微笑む。
彼女は星界の観測者として、全ての命の巡りを見守る存在。
その彼女が、蓮に向けて手を差し伸べた。
「さあ、共鳴の中心に立って。あなたが奏でる星の音は、やがてすべての命と調和する」
その時、記録盤が強く輝き、宇宙そのものが音を立てて震えた。
星が歌う――命が踊る。
星命共鳴記録〈アストロ・レゾナンス〉は、いま、真の再生を迎えようとしていた。
「――世界は、ひとつになれる。違う種族、違う想い、違う時代を越えて……俺たちが、繋ぐんだ!」
蓮が叫んだその瞬間、無数の命の声が交差し、共鳴し、ひとつの巨大な旋律となって響き渡った。
それは――世界再生の最終コード。
《アストロ・レゾナンス・シークエンス》。
宇宙が一瞬だけ、“歌”そのものになった。
「……共鳴は完了した。記録盤はあなたを認めたよ、蓮」
ミストが優しく語りかけた。
「この先に待つのは……“超越記録層”。つまり――最終創星域」
「創星域……!」
皆が息をのむ中、蓮は静かに頷いた。
「行こう。世界の最奥へ。俺たちの物語の、終わりを決めに」
こうして、物語は次なる境界へと進む。
その先に待つのは、次元を超える真なる終焉か、あるいは――新たな創世の始まりか。
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