第157話 真理階層回帰
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空間が砕け、時間がたわみ、因果そのものが泣き声を上げる。
そこは、あらゆる理を超えた領域——“真理の源泉”と呼ばれる場所だった。
蓮の足元に広がるのは、色も形も意味すらも失われた、概念の断片。
歩みを進めるたびに足元の風景は変わり、山が現れ、海が裂け、星々が瞬いては霧散した。
ここは、存在するすべての始まりにして終わりの位相。
“階層世界”と呼ばれる異次元群の最深層——第零階層。
「……ここが、真理階層〈ルート・アセンション〉か」
蓮はそう呟きながら、背後の仲間たちを見やった。
イリス、リーナ、シャム、そして、新たに合流したマリル、カイエン、ミスト、ネフェリス、ノアの五人が、幾層の次元を越えてこの地にたどり着いていた。
マリルは浮遊する光球に近い存在——魔術理論の具現体。
カイエンは銀色の装甲を纏った戦機士で、かつて天界の戦争に介入していた伝説の傭兵。
ミストは時間跳躍者であり、未来から現在へと逆流してきた預言の番人。
ネフェリスは虚界に棲まう幻霊。
ノアは——創造神の失敗作、廃棄された“未完成の神核”。
「全部が……混ざってきてる。法則が壊れて、歴史が逆流してる……!」
リーナの叫びに、シャムが静かに目を細める。
「ここは、存在するすべてのルートが一点に収束する交差点……“根源回帰”の儀式に相応しい舞台というわけか」
「まさか、本当に“運命の管理者”に会うつもりなの?」
ミストが不安げに問う。
「……ああ。俺は、この世界の再構築のために、根源の真理そのものと向き合うつもりだ」
蓮の言葉に、一同は静かに頷いた。
突如、空が裂けた。
無音の衝撃。次元の膜が剥がれ、その奥から現れたのは、巨大な“光の輪”。
そこから降臨したのは、人型にして人ならざる存在——
「我は、因果律を監視し、存在階層の整合を保つ者。“真理の管理者”、ア・エティル=ア=ラフ・オムニフィクス」
その声は万雷の如く、同時に全ての心に直接響く思念。
蓮の内面にまで侵入し、彼の過去、未来、記憶の全てを見透かす。
「お前は、観測者を超えた異分子。破壊と再生を内包する“例外”——蓮よ。何故、この地に来た?」
蓮は答えた。
「この世界を、終わらせたくないからだ。このままでは、全ての層が崩れ、宇宙そのものが折り重なって崩壊する。俺は、世界を新たな形で“書き直す”ために来た。神でも魔でもなく、ひとつの意志として」
ア・エティルは一瞬、沈黙した。
「面白い。お前は“全てを再定義する権限”を望むのか?」
「望む。ただし、それは力を得るためじゃない。……責任を背負うためだ」
その瞬間、彼の背後に現れる多重の光輪。
仲間たちの想念が共鳴し、蓮の存在そのものが“観測者”を超える。
「ならば、“問い”を与えよう」
ア・エティルが右手を掲げると、空間に無数の“鍵”が浮かんだ。
「選べ。お前の世界を繋ぎ止める“命題”を」
その中にひとつ、黒銀の鍵が浮かんでいた。
《命題:人類の希望とは何か》
蓮は迷わずそれを掴んだ。
瞬間、世界が爆ぜた。
彼は意識の深奥へと引きずり込まれ、自らの記憶と世界の記録が交差する空間へ放り込まれる。
そこには、無数の自分がいた。
選ばなかった蓮。
誰も救えなかった蓮。
裏切られ、壊れ、壊した蓮たち。
だが彼は、目を逸らさなかった。
「俺は……俺が選んだ“希望”を、何度でも選び続ける」
その一言と共に、光が彼を包んだ。
「蓮!」
目を開けると、仲間たちが彼を取り囲んでいた。
そして彼の胸には、新たな“世界創造鍵”——《コード・アセンション》が埋め込まれていた。
「……ア・エティルは?」
イリスの問いに、蓮は静かに答える。
「もういない。この世界に、“管理者”はもう不要だ。これからは、俺たちが——選ぶ番だ」
そのとき、空が晴れ、断片化していた階層が静かに“統合”され始める。
断絶していた種族、孤立していた領域、消滅しかけた時間軸——それらが、蓮の“選択”を基点に再構成され、ひとつの連なりとして命を得る。
「これが……俺たちの“再定義”だ」
その光の中心に立つ蓮の姿は、もうかつての少年ではなかった。
すべてを背負い、なお笑って前に進む、選ばれし“世界再誕の記録者”。
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