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第156話  幻想終域遺構

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

――幻想とは、記憶の中で磨かれ、現実に抗いながらも消えゆく夢の断片である。


“因果終焉領域〈カオティック・ノミコン〉”の崩壊から二日。


蓮たちは世界再定義後の最初の旅路に出ていた。


選択の自由を奪う因果支配構造が消滅したことにより、多層世界の境界は再び不安定になっていた。


それは「選べる」ことの代償――すなわち、すべての世界が、再び融合と衝突の危機に晒されるということでもあった。


「……この地形、明らかに“重なってる”わね」


リーナの魔術解析が示すのは、一つの大陸に“複数の記憶”が同居しているという異常事態。


そこに存在するはずのない塔、かつて滅びたはずの都市、記録にも存在しない空中回廊。


それらは今、**幻想終域遺構〈ファンタズマ・ルインズ〉**として、浮遊大陸の南端に広がっていた。


「ここが……“忘れられた全ての記憶”が行き場を失って積み重なった場所か」


蓮は、かつて見たことのある城塞の一角に足を踏み入れながら呟く。


そこは、かつて訪れた魔族領の廃都〈ネル=ダルム〉の姿を模していた。


だが、細部が微妙に違う。


柱の装飾も、石畳のパターンも、音の響きさえも。


「……これは、誰かの記憶をベースに“模倣された幻想”だな。実在したものじゃない」


ミストがスキャン結果を差し出す。


「実体はある。でも構成してる情報密度が異常に高い。いわば、“現実の仮装”みたいなもんだ」


ネフェリスが静かに補足する。


「幻想が、現実の上に“層”として貼り付けられてる……本来の空間構造を逸脱してるのは間違いないわ」


その言葉の通り、“ここ”はただの遺跡ではなかった。


それは――記憶と幻想が融合して現実になろうとしている、未定義の領域。


――遺構探索の序曲


 蓮たちは遺構の奥へと踏み込んでいく。


そこには、時代の異なる建築様式が無秩序に接続され、空間が幾重にもねじれていた。


宙に浮かぶ扉、地面から生える天井、音もない鐘楼。


すべてが“記憶の断片”で構成されている。


「……これは誰かの、いや“多くの誰かの記憶”の集合体だ」


ノアが周囲を睨みながら分析する。


「この領域では、個々人の記憶が“幻想の具現”として形を成す。問題は――それが暴走してるってこと」


マリルが指差した先には、“かつて出会った敵”が立っていた。


「アーク……!? でも、あいつはもう……!」


「違うわ。これは“蓮たちが記憶していたアーク”よ。つまり、記憶の投影が形を持って動いてる」


幻想が意志を持つという現象。それはつまり、“忘れられた記憶”が自立し、自己保存を始めているということだった。


「つまり……“想われた記憶”そのものが、この遺構の守護者ってわけか」


カイエンが前に出る。


「だったら、こっちも本気で行くぜ。幻想だろうが、俺たちの歩みを阻むなら――斬るのみ!」


――記憶の戦場


次々と出現する“過去の幻影”。


それはかつて戦った敵、別れた仲間、踏み外しかけた選択肢。


それぞれが“この世界に存在し得たかもしれないもう一つの真実”として襲いかかる。


蓮は、かつて王国騎士だった自分の幻と対峙する。


「お前が選んだのは、叛逆と独立だった。でも、本当にそれで良かったのか?」


「……ああ。間違ってない。たとえ後悔があったとしても、それは俺が生きた証だ」


剣が交わる。

幻想が砕け散る。


リーナはかつての兄と対峙し、ネフェリスは消えた故郷の長老と再会し、ノアはまだ人間だった頃の自分と戦った。


誰もが、“過去に置いてきた選択”と向き合い、それを乗り越えていった。


――だが、それはまだ“前座”に過ぎなかった。


――幻想主核〈エンティティ・ゼロ〉


遺構の最奥、虚空に浮かぶ神殿の中心に、“本体”は存在した。


それはあらゆる記憶の結晶。


名を持たず、顔を持たず、ただ“世界が抱いた全ての幻想”を集積した、無限情報存在体。


――幻想主核〈エンティティ・ゼロ〉。


それは無言で存在する。


だが、確かに意志がある。


「お前は……“誰かに思われたことのある全ての存在”の集合体……?」


蓮の問いに、エンティティ・ゼロは応えない。


だが、空間が震えた。


次の瞬間、神殿全体が“記憶”で満たされた。


思い出。

後悔。

懐かしさ。

嫉妬。

愛憎。

執着。


「うっ……! 記憶が……溢れてくる……!」


仲間たちが膝をつく。


「この力は、“感情”を情報化して空間に放出してる……!」


ノアが解析する。


だが、その情報量は限界を超えていた。


「下手すりゃ、人格そのものが分解されるぞ……!」


「でも、止まれないんだ。これを乗り越えなきゃ、未来はない」


蓮は立ち上がった。


全身が軋む。


視界が滲む。


それでも、前を見た。


「幻想ってのは、誰かが“見たい”と思った景色だ。なら……俺たちの見たい未来を、ここに刻もう!」


叫びと共に、蓮の剣が光を放った。


それは、“幻想を現実に変える意思”の剣。


――幻想の終焉と現実の継承


剣が振るわれるたび、記憶が光に還る。


幻影が、言葉なく消えていく。


蓮の想いと、仲間たちの記憶が重なり、幻想主核を包み込む。


「ありがとう。お前たちがいてくれたから、俺は今ここに立っている」


剣が最後の一撃を放った。


幻想主核が崩壊する。


記憶が、感情が、光の粒となって大空へと還っていく。


空は晴れ渡り、神殿はゆっくりと瓦解していった。


――その後


幻想終域遺構〈ファンタズマ・ルインズ〉は消滅した。


だが、それは“忘却”ではなかった。


すべての記憶は、新たな物語のために“礎”として刻まれた。


「……終わった、のか?」


「いや。幻想は消えた。でも、俺たちの旅はまだ続く」


蓮が空を見上げる。


雲の向こうに、まだ見ぬ領域がある。


未来の鍵を握る、新たな存在たちが待っている。


「よし。次は――“遺された真実”を求めに行くぞ!」

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