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第155話  因果終焉領域

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

静寂。


虚構の崩壊から三日が過ぎ、浮遊大陸は再び、ほんのわずかな平穏に包まれていた。


しかし、蓮たちは知っていた。


これは“終わり”ではなく、“終焉への序曲”――。


虚構を統べた少女、アナ=ライティアが遺した言葉。


それは、虚構の背後に隠された、さらに深層の「混沌」――因果を編み込み、捩じ曲げ、宇宙すら再定義する存在の兆しだった。


その名も、因果終焉領域〈カオティック・ノミコン〉。


「この次元は、あらゆる“原因”と“結果”の境界が曖昧になった空間。選択すら、選択できない世界――」


ノアがそう口にした時、蓮たちはその異常さを肌で感じていた。


浮遊大陸の一角。


そこに現れた、光とも闇ともつかぬ空間の歪み。


近づくたびに、記憶が曖昧になり、時間の流れが逆転する。


昨日の出来事が“これから起きる未来”として立ち現れ、明日の選択が“過去の後悔”として突き刺さってくる。


「……なんだこれは。俺たちの“これまで”が、侵食されていく」


蓮の声も、いつのものか不明だった。


過去の蓮か、未来の蓮か、あるいは――因果の外にいる、もう一人の蓮か。


「原因が消えると、結果も消える。そして、世界は『なかったこと』になる」


ネフェリスが顔を曇らせる。


「このままじゃ……私たち、選択した“はずの”ことすら、無に帰す……」


その時だった。


突如、空間が“泡”のように弾け、歪んだ天球から“書物”が降ってきた。


それは一冊の、本。


厚さは無限。


ページ数は未定義。開くたびに内容が書き換わり、読む者の記憶を捻じ曲げる。


その名は――ノミコン。


「この本……喋ってる?」


ミストが手を触れた途端、本が言葉を紡ぎ始めた。


「君たちの“選択”は、今この瞬間、すべてが誤りになる」


「はっ、そりゃまた傲慢なページだな……!」


カイエンが苛立ちを隠さず剣を抜く。


だが次の瞬間、彼の“剣を抜く”という選択がキャンセルされた。


「――え?」


気づけば、カイエンはただ立ち尽くしていた。


剣は鞘の中、何もしていない。


「まさか……選択が“過去に反映されて”、行動自体が否定された……?」


ノアの震える声が、事態の深刻さを示す。


カオティック・ノミコン。


それは、“あらゆる選択”の原因と結果を再配置し、世界を書き換える因果支配機構。


そこへ、あの存在が姿を現す。


「やっと見つけたわ、“主因”の器たち」


現れたのは、漆黒の装束を纏う女性。全身から“未確定の未来”を纏い、視線ひとつで“選択”を封じるような存在感。


「私はルヴィア=オメガ。ノミコンの代行者にして、世界最終因果領域〈オメガ・カオス〉の監理者よ」


蓮が一歩前に出た。


「つまり、あんたが“この世界の選択肢”を奪おうとしてるってことか?」


「違うわ。私は“選択肢を並列化”し、全てを“同時に成立させる”……それが、“真なる可能性”よ」


可能性の肯定ではなく、全ての結果を並列にする“収束無効”。


それは選択という行為自体を意味のないものに変え、意志という概念を否定する行為。


「全部が“正しい”ってことは……“正しさ”なんて存在しないのと同じじゃねえか」


蓮が剣を抜く。


だが、剣は“抜かれたこと”を認識されず、再び鞘に収まる。


「くっ……この領域じゃ、“行動”自体が成立しない……!」


「それでも、やるしかねぇんだろ……?」


シャムが、アイテムボックスから新たな魔具を取り出す。


「選択を“確定”させる“因果錨カオスアンカー”。こいつで、俺たちの行動を固定するんだ!」


リーナがうなずく。


「意思とは、“一度選んだことを貫く力”。それがこの世界に、意味を刻む唯一の方法よ!」


蓮たちは、仲間の力で因果を固定し、世界最終因果領域へと突入した。


――カオティック・ノミコン領域:多元因果迷宮〈パラドクス・ラビリンス〉


 蓮たちは、“もしも”の世界に次々と遭遇する。


・もし、イリスが竜の姿のままだったら。

・もし、シャムが裏切っていたら。

・もし、建国が失敗していたら。


過去の“可能性”が、現実として襲い来る。


「どれも、あり得た……かもしれない未来。でも、それは“選ばなかった”未来だ!」


蓮は、選ばなかった可能性すら抱きしめながら、目の前の“現在”を貫く。


その剣は、ついにノミコンの中心核に辿り着いた。


「この本が、“未来を選べないようにする”源か……!」


だが、ノミコンが最後の防衛機構を起動した。


「――最終因果構文起動。“全ての選択肢を一つに還元”」


全員の体が重くなる。


意思が曖昧になり、記憶さえ崩れかける。


そんな中、蓮は最後の言葉を叫んだ。


「選択ってのは、誰かが“決めてくれる”もんじゃねえ。自分で決めて、自分で責任取るんだよッ!」


その声が、仲間たちの意志を再起動させた。


「私の名はノア。この意思は確定されている!」


「マリル! ぜったい消させない!」


「カイエン、見切った――ッ!」


「ネフェリス、制御再起動!」


「ミスト、記録確保完了!」


「リーナ、魔核展開! シャム、連携いくわよ!」


「任せとけ、リーダーの命令だろ!」


そして、蓮の剣が因果の中心を貫いた。


――終焉の後に


ノミコンが破壊され、“可能性”はふたたび無限に広がった。


だが、今度は“選択”の価値を失わない形で。


世界は静かに、だが確かに再起動を始めていた。


「これで……“選べる未来”が戻ったんだな」


「ああ。これからが、本当の始まりだ」


蓮たちは空を見上げた。


そこには、曖昧だった未来ではなく、**自分たちで選べる“これから”**が広がっていた。

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