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第154話  虚構重奏理論

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

冥界浮上戦線――ネザーフロートの崩壊から数刻。


空の裂け目は閉じ、命脈連結機構は再び安定を取り戻したように見えた。


しかし、その平穏は、ほんのわずかな静寂に過ぎなかった。


「冥界のさらに“奥”に、もう一層の構造が存在していた……?」


ノアの分析に、蓮は眉をひそめる。


命脈機構と完全接続された彼女の視界に映ったのは、“虚構”の概念で覆われた異層世界だった。


現実とも幻ともつかぬその世界は、理論上、存在してはならないはずの領域――虚構次元〈フィクション・レイヤー〉。


「そこは、物語と因果、信念と意志が干渉し合って世界を形成する、“意思の構築場”……らしいです」


ネフェリスが続ける言葉に、仲間たちの間に緊張が走る。


「つまり、誰かが“書いた世界”ってことか?」シャムが訝しげに尋ねた。


「いいえ。誰かが“書き直そうとしている世界”です」ノアは静かに答える。


命脈と冥界を接続し、そこからさらに奥の層に触れた結果、ひとつの異常値が顕在化した。


虚構次元に現れた“反命脈核〈アンチライフ・コア〉”――それは、蓮たちの物語そのものを“消去”し、新たな因果で上書きせんとする存在だった。


「つまり、“世界そのものの書き換え”が始まってるってこと……」


マリルの顔から笑顔が消える。


その時、空間が“ざらり”と音を立てて軋んだ。


「来る……!」


虚空が歪み、一筋の光が落ちた。


その中心から現れたのは、白銀の装束に身を包んだ少女。


瞳には万象を見通すような煌めき、背には“反転した翼”を持つ。


「ようやく、接続できたわね。自己紹介をするわ。わたしの名は【アナ=ライティア】。“書き換える者”よ」


アナ。


その存在は、虚構次元を司る管理者であり、“因果の裁定者”。


彼女が握るのは、再構築書板〈スクライブ=グリモワール〉。


その筆先が触れるたび、世界の法則が上書きされていく。


「冥界浮上の先にある、この世界の“真の目的”……それは“選ばれし物語”以外のすべてを淘汰し、理想構造で統一すること。あなたたちの“過去”は、存在しなかったことになる」


「勝手なことを言うな!」


蓮が一歩踏み出す。


「“理不尽”と“虚構”のどちらが世界を救えるか……試してみましょう?」


アナは冷たく微笑み、空間が重奏し始める。


――第一層:虚構写像〈イマジナリウム〉


地面が変わった。


そこは、蓮たちのこれまでの“冒険の記録”を模した擬似世界。


彼らの記憶と行動を再現する“偽の蓮たち”が現れ、戦いを挑んできた。


「過去の自分と戦うってことかよ……!」


シャムが敵の自分を斬り裂きながら叫ぶ。


「でも、こいつら……完璧すぎる……! 弱点も、ミスもない……」


ネフェリスが呻く。


虚構の蓮は、現実の蓮以上に“理想化”された存在だった。


迷わず、躊躇なく、すべての選択が最善であるように見える。


「これが、選ばれし“正しい物語”……だって?」蓮は剣を構え直す。


「お前は間違ってる。間違えない物語なんて、物語じゃねえ。俺たちの“選択”こそが、俺たちの力だ!」


蓮は自身の写し身を斬り伏せ、空間が次の層へ移行する。


――第二層:因果逆転〈パラドクシカル・フリップ〉


今度は、因果の矛盾が支配する世界。


“未来に起きるはずのこと”が“過去として現れる”。


倒したはずの敵が再登場し、逆に味方が敵として登場する。


「ちょっと、私が“反乱者”ってどういうことよ……!?」


マリルが憤慨する。


「まるで、別の物語の一部を混ぜ込んでるみたいだ……!」


カイエンが歯を食いしばる。


 

すべてが混線し、物語の順序すらぐちゃぐちゃにされる虚構。


だが――


「秩序は……自分たちの中に築く!」


ノアが機構を起動し、因果の波を再調律する。


仲間たちは次々と矛盾を突破し、第三層へと突入する。


――第三層:意志選定〈クエスト・オブ・リアル〉


そこには、アナが直接待ち受けていた。


「最後の選択をしてもらうわ、蓮。あなたの“世界”が、存在すべきか否か――」


彼女は“選択の天秤”を提示する。


一方には、アナが描く“完全な理想世界”。


 もう一方には、蓮たちの辿ってきた“不完全な現実”。


「理想は綺麗だ。でも、あんたの理想は誰のものだ? あんたが気に入った物語だけを残すなんて、それこそ独善だろ」


「そう言って、多くの命が終わった。無駄な選択が、悲劇を生むのよ」


アナは静かに言う。


「それでも、選ぶのが“俺たち”だ! 未来を誰かの“筆先”になんて渡さない!」


 蓮が剣を構えると、仲間たちも次々と背中を預けた。


「最終戦闘、開始」


空が割れ、グリモワールが咆哮した。


文字が天を覆い、無数の物語が重なり合って降り注ぐ。


だが蓮は、剣に仲間たちの“記憶”を纏わせ、対抗する。


言葉で、意志で、剣でぶつかる“現実と虚構”の衝突。


アナは戦いの中で次第に理解していく。


「あなたたちは……理不尽に抗い、物語を紡いできた……」


最後の一閃。蓮の剣が、グリモワールを両断する。


「これが、俺たちの選んだ物語だ!」


――エピローグ:虚構崩解


虚構次元が崩壊し、世界は再び静けさを取り戻した。


アナはその場に佇み、ただぽつりと呟いた。


「……私にも、物語があったのかな」


「あるさ。これから書いていける」


蓮がそう答え、手を差し伸べる。


アナはその手を見つめ、そして――ゆっくりと握った。


こうして、虚構を超えた戦いは幕を下ろした。


だがその余波は、やがて“次なる真実”を呼び寄せる。

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