第148話 原初建国編纂
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時空の彼方、次元の狭間――語られざる者との戦いを終え、蓮たちはついに“物語の外側”である《超越次元境界〈トランスリミット・ゼロ〉》を突破した。
その先に広がっていたのは、どの物語にも属さない“無定義の世界”。
空白であり、虚無であり、しかし、可能性の胎動を感じさせる“創造前の原野”――それが、建国の地だった。
「ここが……俺たちが創る国の土台になる世界、か」
蓮が立っている場所は、大地とも呼べぬ半透明の光の床。
空は虚無に溶けた深宇宙のように輝き、重力さえ曖昧だった。
「でも、ちゃんと“地面”を感じる。歩けるし、存在できてる……」
リーナが足元を見つめて呟く。
彼女の杖から伸びた魔法回路が、まるで種のように周囲に拡がっていく。
「幻想超結晶〈エクス・マテリアル〉の権限で、ここは私たちが“認識すれば成立する”空間になってる。言い換えれば、“言葉にしたものが実在化する”ってことよ」
「“幻想を現実にする”って、まさに……神の仕事だな」
シャムが呆れたように笑い、剣を構える。
彼の影は複数の方角に分かれて伸び、まるで並行世界の歪みを物語っている。
「さて――」
イリスが翼をたたみ、蓮の隣に立つ。
「ならば、始めよう。“この世界の創造”を」
蓮たちが目指す“建国”とは、既存の国家に属さない新たな主権の樹立。
しかし、ここで問われるのは――何をもって“国”とするのか?
「建国に必要な条件……“領土”“国民”“主権”。だけど、ここにはまだ“何もない”」
蓮が空を見上げながら考える。
「でも逆に言えば、全部自由に決められる。俺たちが“在る”と定義すれば、それがこの世界では現実になるんだ」
「“空想のルール”じゃなく、“実在する法則”として創れる。つまり、神話を書くように法律を作れるってこと」
リーナが魔法術式を構築しながら呟いた。
「ふふ……ようやく魔術師として本気を出せる時がきたわね」
まず彼らが手掛けたのは、《原初構築儀式〈ファースト・クラフティング〉》。
蓮が幻想超結晶を掲げ、言葉を発する。
「我、名乗りて“創始者”とならん。蓮、この世界の起源とならん」
光が奔る。
空間が震える。
音もなく、大地が拡がっていく。
シャムが叫ぶ。
「来るぞ――“空白”が、“形”を得る瞬間だ!」
リーナの魔法陣が展開し、イリスの息吹が風となって空に混ざる。
やがて現れたのは――浮遊大陸。
それはこの“外世界”において初めて形作られた、明確な物理的基盤だった。
数万キロにも及ぶ広大な台地。
宙に浮かびながら、自らの重力場を生成し、雲を発生させ、大気循環を始める。
「“地形デザイン”完了。次は、“秩序”だね」
イリスが地面に爪を立て、天へと爪痕を走らせる。
すると空が“時間”を刻み始める。
太陽と月が同時に生まれ、季節が交互に訪れる“暦”が設定された。
「――さて、次は“国民”だな」
シャムが虚空に手をかざすと、幻想超結晶が応答する。
【存在招来コア:解放】
【選定対象:記録されざる者、忘却された魂、追放された異界の民】
蓮が告げる。
「我が国は、“語られなかった者たち”に安寧の地を与える。いかなる理由であれ、排除された者は、ここに居場所を得るだろう」
その宣言とともに、空から“光の雫”が降り注ぐ。
それらは人間、獣人、エルフ、魔族、機械生命、果ては“概念生命体”までもが含まれ、あらゆる種が蓮たちの前に姿を現した。
「蓮様……我らに、再び“名”を与えてくださったのですね」
ある者は膝をつき、ある者は涙を流し、またある者は剣を掲げた。
この瞬間、国民の存在が成立した。
そして最後に構築されるべきは、“主権”――すなわち“統治の意思”である。
だが蓮は、王座に座ることを選ばなかった。
「俺たちは“神”にはならない。全てを支配する者じゃない。“語る者”であり“共に歩む者”として国を築く」
リーナがそれに応じる。
「ならば、“憲章”を創りましょう。この国の意思を語る“第一の言葉”を」
幻想超結晶に新たな式が刻まれる。
第一憲章:我らは語られざる者の自由を保障し、定義されぬ存在を認める
第二憲章:全ての者は、自らの名を名乗り、歴史を綴る権利を持つ
第三憲章:この国は“物語ること”によって存在し、“紡がれ続ける”ことを以て存続する
こうして、全てが整った。
浮遊大陸、定義された時間と空間、民の存在、憲章という統治の理念。
ついに――蓮たちの国家が誕生する。
「名は、どうする?」
イリスが振り向くと、蓮は空を見上げながら答えた。
「この国の名は――《アルカ・ルミナリア》。語られざる者たちの、希望の光」
その名を口にした瞬間、空が震え、次元が震動し、全ての世界に“新たな国家の誕生”が知らされる。
神々すら語ることのなかった“外の国”が、ここに編纂された。
“建国”は、目的ではない。
――始まりである。
新たな秩序、新たな紛争、新たな物語が、今この瞬間から始まる。
そして蓮たちは、この国家を“語り継ぐ者”として、歩みを止めることはない。
――物語の先を紡ぐために。
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