第146話 深創神殿
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幻想超結晶〈エクス・マテリアル〉を手にした蓮たちが次に向かうは、古代より神代の記録が封印されたという“最深の聖域”――世界の始まりを記したとされる【深創神殿〈デウス・アーカイブ〉】。
その名を口にしただけで、空気が震え、空間の情報が乱れるほどの存在。
誰もがそれを神話だと笑い飛ばしたが、蓮たちの前には今、確かにそれが現れていた。
物語の根源。世界の設計図。
存在の背後に在る“創造の意志”――それに触れる旅が始まる。
世界の底――物理法則さえ崩れる深界の果てに、神殿は静かに佇んでいた。
「……これは、本当に“建物”なのか?」
蓮は呟いた。
それは、建築物というよりも、“情報の結晶体”に近かった。
視界に映る構造は常に変化し、見る者の“概念”によって姿を変える。
「見る者に応じて形が変わる……つまりこれは、空間そのものが“記憶”でできているのか」
リーナが感嘆の息を漏らす。
「この感覚……まるで“世界の目”に覗かれているようだ」
シャムの言葉に、イリスが頷いた。
「この神殿は、ただの記録庫ではない。……ここにあるのは“意志”だわ。創造の始まりを記す、存在の設計者そのもの」
蓮は結晶を手に、一歩、神殿の内部へと足を踏み入れた。
内部は“現実の構造”では説明できない空間だった。
廊下は無限に折り畳まれ、階段は上下左右に交差し、壁には“言語ではない文字”が記されている。
――それは、世界そのもののソースコード。
魔法のルーンや、術式ではない。
存在定義式。
あらゆる現象を生み出す根源的な“命令文”だった。
「ここが……“構築以前”のログが保存されている場所……」
リーナが呟く。
蓮たちが通るたびに、空間は呼応するように震え、壁に映る文が変化する。
〈識者来訪記録:新規登録〉
〈閲覧権限:幻想超結晶保持者に付与〉
神殿が、彼らを“認識”した。
第一の間――
そこには“最初の言葉”があった。
《1stコード:ソリス・ユニ=存在することは語られることと等しい》
それは、言葉と存在が等価であるという定義。
「つまり……“語られた時点で、世界は確定される”。この世界の法則は、最初に“宣言”されたもので創られた……!」
蓮の目が、研ぎ澄まされる。
続く第二の間では、構造化される物語のパターンが壁一面に刻まれていた。
英雄の旅、裏切り、救済、崩壊、再生。ありとあらゆる“構造”が、因果の線として記述されている。
「これは……まるで、全ての物語が“事前に定められていた”ような……」
「違う。これはあくまで“選ばれやすい道”だ。可能性の“誘導線”でしかない」
シャムの言葉に、蓮も頷く。
「俺たちは、たしかにこの中にいる。でも、それを破壊する力も手にした。幻想超結晶がそれだ」
第三の間――
そこにあったのは“世界を創った存在”の記録だった。
それは、神ではなかった。
《創造主とは、物語の内から選ばれる》
“物語の外”にいたはずの創造主は、実は内側から“自覚した存在”だった。
「……まさか」
リーナが息を飲む。
「蓮、あなたは……すでに、“神に至る系譜”に組み込まれている」
「そんなの……冗談だろ」
笑おうとした蓮の目に、ふと浮かび上がったコードが映る。
《識別子:レント・アマギリ》
《物語起源記録:変数登録者》
《生成番号:0x001-Ex》
それは、蓮が“この世界そのものの設計において、最初期から組み込まれていた存在”であるという証明。
彼は異世界に“召喚された”のではない。
最初から“この世界を動かすための変数”として設定されていた。
「俺は……この世界の一部じゃなかった。俺は、この世界の“創造プロセス”そのものだった……?」
眩暈がするほどの真実に、蓮はその場に膝をつきそうになる。
「でも……それでも俺は、この世界で出会った全てが“本物”だと信じてる」
「……うん。私も」
イリスが、そっと蓮の背中に触れる。
「蓮が“創られた存在”だったとしても、私たちが一緒に歩いた時間は、全部ほんものだよ」
シャムも、静かに目を閉じて頷く。
「どんな出自であれ……お前が選んだことが、お前だ」
リーナは目を伏せながら、微笑んだ。
「存在を定義するのは、構造じゃない。選択と、記憶と、関係性よ」
そして、第四の間へと至る。
そこは神殿の最奥、誰も到達し得なかった空間。
そこにあったのは、空白の書――《コード・ゼロ》。
白紙のように見えるその書物を手に取った瞬間、蓮の意識が世界と接続する。
【創造の鍵を持つ者よ】
【語れ、世界の再定義を】
【幻想超結晶を通じ、選び取った現実を――記せ】
蓮は震える手で、筆を取る。
そこに記すのは、自分自身が選び取ってきた物語の全て。
傷、涙、希望、出会い、裏切り、信頼――すべてをその一文字に込めて。
「俺は、俺たちの未来を創る。誰かに定義された物語じゃない。俺たち自身で、決める」
記された文字が、世界を震わせる。
《再構成プロセス開始》
《幻想超結晶により物語再定義フェーズ移行》
《新世界生成権限:付与》
蓮たちは、物語の“再構築権限”を手に入れた。
神殿の扉が静かに閉じられる。
その奥には、新たなコードとともに、彼らの名が刻まれていた。
《創造者:レン=アマギリ》
《記録守護者:イリス・リーナ・シャム》
《次元融合計画:起動準備完了》
物語は、いよいよその終焉と、再始動の領域へと歩み始める。
世界をただ生きる者から、世界そのものを選び取る者へ――
“語られる存在”から、“語る存在”へ。
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