第143話 多層世界融合
いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。
世界は一つではない。
それは誰かの夢か、あるいは何億と分岐した“もしも”の結末か。
確定されなかった未来たちは、虚数層の深奥で共鳴し、ある時、世界そのものの境界を震わせる。
それが、“リンク”の始まり――。
〈イマジナリー・オリジン〉の成立から数日後。
蓮たちは“空間震”に襲われていた。
「座標が……座標情報が連続的に崩壊してる!? これ、空間そのものが別の次元と混ざってるんじゃ……!」
リーナが叫び、魔導端末を操作するも、計測値は次々と破綻していく。
「いや、これはただの次元混線じゃない。根本的に、世界の構造が……“リンク”されてる」
シャムの声に、全員が背筋を凍らせた。
世界の構造が“繋がっている”。
つまり、複数の異なる層――並行世界、過去世界、未来世界、あるいは想像上の世界までもが、この空間に干渉しているということ。
「そんなことが……現実に?」
「可能になったんだ。俺たちが、“虚数生成”を認めた瞬間に」
蓮は静かに言った。
「可能性を許容するということは、“他の可能性”もまた接続される余地を持つ。今、この世界は“多層世界融合”――つまり〈マルチプレクサ・リンク〉の発生点にいる」
全ては、運命の“余白”を記述したことで始まった。
存在しなかったはずの物語たちが、リンクを求めて揺れ動いている。
そして、その“兆候”は、視覚として現れ始めた。
まず現れたのは“裂け目”だった。
空間に走る光の亀裂。
だが、それは単なる破損ではない。
向こう側には、明らかに異なる“世界の断片”が映っていた。
都市文明が機械化された未来世界。
剣と魔法が対立する古代戦乱。
果てには、蓮に酷似した存在が君臨する“異形の帝国”。
「見えてるのか……“別の俺”たちの世界が……」
イリスが竜眼を開き、次元の深層を覗く。
「これは……数百、いや数千層の“蓮”の世界が、同時に干渉してる……!」
「このままじゃ、リンクは融合を越えて――“衝突”に至るわ」
衝突――世界同士の自壊を意味する最悪の未来。
だがその時、一つの亀裂から“誰か”が姿を現した。
それは“蓮”だった。
だが、目の前の彼は、こちらの蓮ではない。
その姿は銀色の外套を纏い、瞳は冷たく凍っている。
「ようやく会えたな、“俺”」
銀の蓮――否、《レイン=カデン》と名乗るその男は、世界を統べる“支配者”だった。
「俺は、選ばれなかった“決断”をし続けた蓮だ。正義よりも勝利を優先し、情よりも秩序を選んだ、もう一人のお前」
彼が歩んだ世界は、侵略帝国を打倒するどころか、制圧し、自らがその帝王となった結末だった。
「世界を救うには、強さだけが必要だった。感情も、希望も、仲間も……全てを切り捨てた。だが、その“空白”が、俺をここに呼んだ」
「なぜ、ここに?」
蓮が問いかけると、《レイン》は答えた。
「……お前が、“虚数の価値”を認めたからだ」
その一言に、全員が息を呑んだ。
「俺の世界では、“虚構”は害悪とされた。選ばれなかった未来は即座に消去され、非効率な可能性は排除された。だが……お前の世界では、それを許容し、残した。記録し、受け入れた」
レインの瞳に、かすかに“憧れ”のような色が浮かんだ。
「俺は……羨ましかった。お前が“選べなかった全て”に意味を与えたことを」
蓮は、ゆっくりと歩み寄る。
「じゃあ、どうする? このリンクを壊すのか、それとも――」
「――試させてくれ。俺とお前、どちらの“選択”が世界を導くかを」
レインの手に現れたのは、黒銀の剣――虚数層に記述された、記録にない武器。
「これは、“もう一つの世界の記述ペン”だ。お前と同じ力を持ち、ただし、その運用方法は違う」
蓮もまた、白銀のペンを構えた。
「記述で語り、力で交わす。……いいだろう、“もう一人の俺”。答えを、この戦いで証明しよう」
戦闘、開始。
世界そのものが戦場と化す。
重力が反転し、時空が折り重なり、記述が空間そのものを書き換える。
蓮は仲間たちと連携し、術式を編みながら戦うが、レインは“孤高”の戦術で全てを打ち払う。
「仲間に頼るな。世界を守るとは、己一人で全てを背負うということだ」
「違う、レイン。俺は、仲間と共にいるからこそ、書ける未来がある!」
蓮は一筆を走らせる。
――《記述術式・未来交差:双重解放〈デュアル・オープニング〉》!
空間が光を放ち、蓮とレインのペンが交錯する。
激突の果てに、静寂が訪れる。
二人は傷だらけのまま、向き合っていた。
レインの顔に、薄く微笑みが浮かぶ。
「……認めたよ。“選ばなかったものたち”にも意味があるということを」
「レイン……」
「このリンクは、衝突じゃなく“接続”に変えられる。……お前が、それを望むならな」
蓮は頷いた。
「もちろん。“全ての可能性に、生きる価値がある”。それが……俺の物語だ」
次の瞬間、レインの姿は光へと変わり、リンクの裂け目に吸い込まれていった。
その光は、世界を包み、複層世界同士を繋ぐ“穏やかな回廊”として再構成されていく。
世界の地平が変わった。
複層世界の断片が、接続されることで多様な情報が行き来する。
それは混乱であり、可能性であり、進化でもある。
リーナがぽつりと呟いた。
「……これから、私たちの世界も、何千もの“物語”にさらされることになるんだね」
蓮は、空を見上げて言った。
「その中で、俺たちが選んだ“物語”を、語り続けよう。何度でも。どんな未来にも、届くように」
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