第139話 深界の影
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新作『定年異世界転生 ~家電の知識で魔法文明をアップデート!~』を投稿しました。
疲れたあなたに、ちょっと息抜きの作品です。ほのぼのしてください~。
深界源層〈ディープ・コア・レイヤー〉――そこは、世界の因果と根源が交錯する、あまりにも異質で、異様な空間だった。
蓮たちが〈深界核解放〉によって歪みを修復し、再構築の工程に踏み出したその最中――
“それ”は、密やかに姿を現した。
「……気配が変わったな」
鋭敏な感覚を持つイリスが、周囲を警戒する。
辺りには再構築が進む光と、因果の糸が織り成す複雑な構造が広がっている。
だが、その一角にだけ、不自然な“影”が蠢いていた。
それは、あまりにも純粋な“否定”の存在。
世界の法則すら蝕む、深界の影〈ディープ・シャドウ〉――
「これは……」
蓮のアイテムボックスが自動的に反応し、結界装置と解析機能が展開される。
そこに映し出されたのは、不可解な存在因子の集合体。
世界そのものに寄生し、隙間を縫って浸食を広げる影の群れだった。
「こいつ……今までの敵とは……違う」
シャムが苦々しく呟く。
これまで戦ってきた魔族や侵蝕因子、果ては深界の怪異ですら、この存在とは比較にならない。
まるで――
「……影そのものが、意志を持って動いている……?」
イリスの直感は正しかった。
この〈ディープ・シャドウ〉は、再構築に反応して活性化した“負の情報”の集積体。
かつて崩壊した因果、失われた歴史、滅びた文明、忘却された存在――全ての負の残滓が、意志を宿し、蓮たちの前に現出したものだった。
「つまり……俺たちの敵は、“世界の闇”そのものか」
蓮の言葉に、一同の緊張が高まる。
そして次の瞬間、影は無数の触手のように広がり、周囲の空間を呑み込もうとした。
「来るぞ!」
即座にアイテムボックスから〈聖域防壁装置・改〉を展開し、蓮は影の侵食を防ぐ。
だが、その動きは止まらない。
「やれやれ……これ以上、アイテムボックス頼りも限界か」
蓮は苦笑しながらも、新たなアイテムを呼び出す。
〈陽光結晶砲〉――
深界核から採取した特殊素材によって創り上げた、影対策用の兵器。
それが巨大な光の砲身を展開し、蓮の指示でエネルギーを収束させていく。
「撃て――!」
放たれた光線が、影の本体を貫いた。
だが――
そこから現れたのは、より濃密で、より純粋な“核”を持つ存在だった。
影の王――〈シャドウ・ロード〉
「自己進化型の存在か……厄介だな」
リーナが苦々しく言い放つ。
蓮はすでに理解していた。
この戦いは、単なる戦力のぶつかり合いではない。
これは――
「情報戦……そして因果戦争だ」
因果を操る敵に対抗するには、こちらも因果に干渉しなければならない。
蓮はすぐに、深界核から収集した“再構築因子”を用いて、新たなアイテムを創造する。
〈因果制御装置・プロトタイプ〉
「よし……間に合え!」
蓮が装置を起動すると、世界そのものの法則に干渉する“力場”が発生する。
それによって、〈シャドウ・ロード〉の動きが一瞬鈍った。
「今だ! 総攻撃!」
イリスの龍炎。
リーナの魔槍。
シャムの多重結界。
そして蓮の陽光砲撃が一斉に放たれ――
深界の影は、断末魔のような絶叫と共に霧散していった。
だが――
「……まだ終わっていない」
イリスの言葉通り、深界には未だ消えぬ闇の残滓が漂っている。
あれは単なる先触れに過ぎないのか、それとも――
蓮は深く息を吐き、再び歩き出した。
「行こう。世界の再生は、まだ……始まったばかりだからな」
そしてその足取りは、誰よりも強く、誰よりも確かに――未来へと踏み出していた。
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