番外編 異世界召喚者、シャム
唐突ですが、番外編として「シャム」が召喚から「蓮」と出会うまでを一話完結でまとめてみました。
「……っ!」
強烈な眩しさに目を細めながら、シャムはゆっくりと意識を取り戻した。
石造りの巨大な広間。壁には豪奢な装飾が施され、目の前には複雑な紋様が輝く魔法陣が広がっている。そして、周囲を取り囲む人々——甲冑をまとった兵士たちと、気品ある衣装に身を包んだ貴族たち。
「これは……?」
シャムが戸惑いの声を漏らした瞬間、壇上に立つ老人が口を開いた。
「異世界より招かれし勇者よ。我らグランベル帝国のために、その力を示せ」
「……異世界?」
シャムは眉をひそめた。
「つまり、俺は無理やり連れてこられたってことか?」
「そうだ。そして貴様は帝国のために戦うのだ」
その傲慢な物言いに、シャムの中で怒りが湧き上がる。
「ふざけんな……!」
立ち上がろうとするが、身体が異様に重い。しかし、その時——シャムの前に眩い光が集まり、純白の剣が現れた。
「ほう……『聖剣の適性』か」
貴族の一人が興味深そうに呟く。シャムは直感的にその剣を握った。すると、剣が彼の意志に応じるように淡く輝く。
「……面白え」
シャムは剣を構え、目の前の兵士たちを睨みつけた。
「そんなに俺の力を見たいってんなら……見せてやるよ!」
それから数週間、シャムは帝国の監視下で徹底的に戦闘訓練を受けた。剣技だけでなく、魔法の素養もあることが判明し、すぐさま帝国の戦力として扱われることになる。
しかし、それは「勇者」としての扱いではなかった。
「お前はただの道具だ。我らの命令に従い、戦場で戦え」
帝国の将軍はそう言い放ち、シャムを戦地へと送り込んだ。
そして、戦場でシャムが見たのは——理不尽な蹂躙だった。
帝国軍は「異民族」と称して、無抵抗の村を襲い、抵抗する者は容赦なく殺し、女や子供は奴隷として連れ去った。
「……これが、帝国のやり方か」
剣を握りしめる手が震える。自分はこんな世界に呼ばれ、ただ命令に従って戦うだけの存在なのか?
「クソが……こんなの、俺が望んだ人生じゃねえ……!」
その夜、シャムは決意した。
(逃げるしかねえ……こんな連中の道具で終わってたまるか)
帝国軍の目を盗み、戦場から逃亡したシャムは、山岳地帯へと身を隠した。
食料も水もなく、ただ彷徨う日々。
やがて、限界を迎えた彼は、一つの小さな村へと辿り着いた。そこに住むのは、戦争で家を失った流民たち——帝国から見放された者たちだった。
「助けてくれ……何でもする……!」
村人たちは警戒しながらも、シャムに食事を与えた。
「ここは帝国から逃げた者たちが身を寄せる村だ。お前も帝国に追われているのか?」
「……ああ」
シャムは全てを話した。帝国に召喚され、兵器として扱われ、そして逃げ出したことを。
すると、村の長老が静かに言った。
「ならば、お前にも選択肢はない。生きるためには、我々と共に戦うしかない」
「……戦う?」
「この村には食料も金もない。我々は生き延びるために、他の村から奪うしかないのだ」
シャムは息を呑んだ。だが、もはや選択肢はなかった。
(結局俺は、こんな生き方しかできないのか……)
それから、シャムは盗賊として生きることを決めた。
それから数ヶ月、シャムは村人たちと共に盗賊として生きた。
村を襲い、食料を奪い、抵抗する者は殺す。
やっていることは、帝国と何も変わりはなかった。
初めは躊躇いがあった。しかし、生きるために必要な行為だと言い聞かせることで、次第に心が麻痺していった。
そんなある日——
「次の標的は、獣人たちの村だ」
獣人は帝国に虐げられ、辺境で細々と暮らしている。帝国の支配が及ばない分、彼らの村にはそれなりの食料があるはずだった。
「悪いが……生きるためだ」
シャムは仲間と共に、獣人の村へと向かった。
だが——
村に辿り着いた時、彼らの前に一人の男が立ちはだかった。
黒髪の青年。異様な気配を纏い、鋭い目つきでシャムたちを睨んでいる。
「ほう……お前が獣人の助っ人か?」
男はニヤリと笑い、蓮を値踏みするように見つめた。
戦いの中、シャムの中にかすかな記憶が蘇った。
(この雰囲気……まさか、こいつも……!)
シャムは、心臓が高鳴るのを感じた。




