第132話 因果交錯領域
いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。
──それは、世界の「裂け目」であった。
魔の森を越え、新たな国家〈グランディア〉が誕生した地。
その地下深く。
蓮たちの知らぬ遥か過去より存在し、幾千年に渡り封じられていた存在が、ゆっくりとその姿を現し始めていた。
地中に刻まれた無数の環状魔紋。
回転するそれは、まるで絡み合う歯車。
だが、歯車は噛み合っているわけではない。
互いに干渉しながらも、決して接触しない。
不可能なはずの構造。
そこは──
「因果交錯領域〈カレイド・ノット〉」
オルフェウスがそう名付けた場所だった。
帝国との戦いを終え、新国家の建設を進める蓮たち。
しかし、その裏側で静かに進行していた世界の異変は、次第に彼らの前に顕在化しつつあった。
その始まりは、ごく些細な兆候だった。
「……イリス。これ、見てくれ」
蓮は魔の森近郊で発見された一片の鉱石を差し出した。
だがそれは、鉱石とは呼べぬ異質な輝きを放っていた。
金属でも宝石でもない。
それでいて、確かに物質であると認識できる存在。
「これは……時界鉱……? いや、違う。もっと……根源的な……」
イリスの蒼い瞳が細められる。
竜の知識をもってしても、正体を断言できない。
それは世界に存在するはずのない物質。
──異界の物質。
そう、これこそが〈カレイド・ノット〉の影響であった。
「オルフェウス、これはお前の言っていた“接続痕”ってやつか?」
蓮の問いに、〈世界渡り〉はゆるりと首肯する。
「正確には、“漏洩”だな。世界を繋ぐ門が、完璧に閉じられたことなど、一度もない。そこには常に微細な断裂があり、あらゆる時空の因果が滲み出している……だが、問題はその規模だ」
「この漏れ方は異常、ってことか」
「異常どころではない。何者かが意図的に〈カレイド・ノット〉を稼働させ、異界の情報を流入させている。……この領域が完全に開かれれば、異界の存在が直接この世界に“侵入”する」
イリスの顔が険しくなる。
「異界の存在が……この世界に?」
「ああ。例えば、神話の時代に封じられた“名もなき神”や、“世界律外の獣”すら、だ」
その言葉に、場が静まり返る。蓮もまた、戦慄を隠せない。
(帝国との戦いすら……序章に過ぎなかったというのか)
そして──事態は待ってはくれなかった。
突如として、魔の森の奥から轟音が響いた。
地鳴り。
咆哮。
天地を割るような揺れ。
シャムが駆け込んでくる。
「蓮! 森の奥で“歪み”が発生した! 魔獣じゃねぇ……もっとヤバい。あれは──」
その瞬間、空間が裂けた。
否、裂けたのは“空間”ではない。
世界そのものが、破られたのだ。
「うわあああああああああっ!!」
開拓団の一人が、呑み込まれる。
そこには、紫紺と黄金が混ざり合う螺旋の渦。
触れた者の存在すら、瞬時に解体する因果の奔流。
「因果歪流!」
オルフェウスが叫ぶ。
「皆、下がれ!! アレに触れれば存在が“未定義”にされるぞ!!」
だが、蓮は踏み出した。
迷いなく、前へ。
「……そんなもんがあろうと……! この世界を……この国を……オレは守るって決めたんだよ!!」
イリスが後に続き、リーナが魔法陣を展開し、シャムが刀を抜く。
「行こうぜ、蓮!」
「おう!」
彼らが目指すは、因果交錯領域〈カレイド・ノット〉──
世界の“根”へと至る戦いが、いま、幕を開ける。
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