第131話 神骸の座標
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――そこは、世界の理が歪む場所だった。
奈落域〈アビス・ゾーン〉。
魔の森のさらに深奥、古来より禁忌とされ、誰も足を踏み入れなかった領域。
その中心に、蓮たちは立っていた。
黒き霧が漂い、大地は砕け、空すらも亀裂を刻まれる異常領域。
重力も、時間も、空間すら狂い始めている。
イリスが鋭く目を細めた。
「……完全に"向こう側"の影響ね。深界〈ディープ・ワールド〉とこちら側が干渉を始めている」
リーナが解析装置の魔術端末を操作しながら、呻いた。
「この座標……通常空間の物理法則が適用されてない。言い換えれば……この中心に、何かがある」
シャムが剣を肩に担ぎながら、不敵に笑った。
「さて。お出ましだぜ……『異界の王』とやらがよ」
だが。
そこに、待ち受けていた存在は――彼らの予想すら超えていた。
――巨骸。
それは、まさしくその言葉が相応しかった。
奈落域の中心に存在する、半ば崩壊しかけた巨大な遺骸。
しかし、それはただの死骸ではない。
全長数百メルタを誇る異形の構造体。
まるで都市そのものが骨格となり、無数の魔術回路と異界の紋章が刻まれた、異質なる遺構。
イリスが息を呑んだ。
「……これは……神骸……!」
リーナが震える声で呟く。
「オルフェウスが言ってた……『彼の座より目覚める者』って……まさか、これ……?」
蓮は、その巨骸の中央、心臓部にあたる位置で脈動する光を見据えた。
そこに刻まれていた文字は――この世界のものではない。
〈NEXUS CODE SYSTEM〉
〈DEEP WORLD ACCESS ENABLED〉
〈GENESIS PROTOCOL STANDBY〉
シャムが苦々しく笑った。
「……なんだよ。まるで神話の世界じゃねぇか」
イリスが真剣な声で告げた。
「これは……異界に存在した、超古代の神機。おそらく……"神骸兵装〈ネクサス・コード〉"」
リーナが解析を進め、青ざめた顔で振り返る。
「やばい……このままじゃ……この神骸が起動すれば、深界そのものがこの世界を押しつぶしてしまう!世界法則が上書きされるわ!」
シャムが剣を構え、笑う。
「つまり……壊しゃいいんだろ。こいつをよ」
だが、蓮は首を振った。
「違う」
彼の目は鋭く、確信に満ちていた。
「壊すだけじゃ……ダメだ。これはただの兵器じゃない。これは――鍵だ」
イリスが目を見開く。
「鍵……?」
「そう。オルフェウスが最後に言った。"まだ知らない"って」
蓮は一歩、神骸の前に進み出る。
「この〈ネクサス・コード〉は……世界と深界を繋ぐ接続端末。でも逆に言えば――制御できれば、深界への干渉を防ぎ、この世界を守ることもできる」
リーナが息を呑む。
「まさか……制御するつもり?」
「やるしかないだろ。このまま放置すれば、侵食は止まらない。なら、俺たちがこの"神骸"を管理下に置く」
蓮は静かに告げた。
「それが――この世界の未来を守る唯一の手段だ」
その瞬間。
神骸が応えた。
轟音と共に、無数の魔術障壁と守護兵が起動する。
深界の守護者〈ガーディアン・コード〉。
異界の技術で造られた、戦闘特化の機械生命体。
蓮たちは、即座に戦闘態勢に入った。
「来るぞ!」
シャムが剣を振り抜き、イリスが竜炎を纏い、リーナが魔術結界を展開する。
蓮は――その中心で、神骸への接続を開始していた。
無数の攻防が交錯する戦場。
しかし、蓮は迷わなかった。
彼が持つのは、オルフェウスから渡された、白い鍵と小さな金属片。
そして金属片に刻まれた文字が、今、神骸と共鳴していた。
〈MASTER AUTHORIZATION DETECTED〉
〈REN=ASGARD〉
〈ADMIN ACCESS GRANTED〉
蓮は呟いた。
「なるほど。オルフェウス……これは、お前からの継承ってわけか」
神骸が静かに沈黙し、全ての機能が停止していく。
そして――
〈NEUTRALIZATION COMPLETE〉
〈NEXUS CORE STANDBY〉
蓮の背後に、イリス、リーナ、シャムが集う。
イリスが呆れたように笑った。
「……本当に、やってのけたわね」
シャムが肩を竦める。
「これだから、うちのボスは化け物なんだよ」
リーナが小さく呟く。
「……神骸を制御する男。蓮……」
蓮は静かに、神骸の中心に浮かぶコアを見据えた。
そこに、新たな文字が浮かび上がる。
〈NEXUS SYSTEM ONLINE〉
〈NEW WORLD COORDINATES REQUIRED〉
新たなる選択。
新たなる座標。
――この神骸が示すのは、世界の可能性そのものだった。
蓮は告げる。
「よし。だったら、次は……この世界を守る"防衛拠点"として、こいつを再構築しようか」
そして。
物語は、さらに深層へと突き進んでいく。
世界の真実と、異界の理が交わるその時――
すべての戦いは、新たなる局面を迎えることになるのだった。
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