表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

132/201

第130話  深界出現

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

――それは、静かなる侵食であった。


世界は、音もなく蝕まれていた。


かつて〈魔の森〉と呼ばれた地――新帝国フェルマータの建設が進むその裏側で、誰もが知り得ぬ異変が確かに進行していた。


それは、魔力の逆流。

それは、世界の底から滲み出る異質な波動。

それは、深界ディープ・ワールドという未知の領域からの、確かな来訪者の足音。


そして――その兆候は、ついに臨界点を迎える。


 


「……始まる、か」


グラン=アークの王城最上階。


蓮は城のバルコニーから、遠くを見据えていた。


その視線の先には、森の更に奥。


奈落域アビス・ゾーン〉と呼ばれる禁断の地。


そこから、立ち上る黒い霧。


渦巻く魔力の奔流。


そして――巨大な“門”。


それは、大地そのものが裂け、天空までも歪めるような異常な存在だった。


 


「……あれが……“門”?」


隣に立つイリスが呟く。


彼女の蒼き竜瞳が、僅かに震えている。


普段の彼女なら決して見せない、明確な“恐怖”の色があった。


リーナが、震える声で解析結果を告げる。


「間違いないわ。魔力波形は……完全にオルフェウスと同一系統……でも、それ以上。これは……異界ではない。もっと……もっと深い場所……」


 


深界ディープ・ワールド……」


シャムが低く呟く。


その声は、剣士としての本能を刺激された獣のように、研ぎ澄まされている。


「“彼の座”から来る者たち……か」


蓮の脳裏に、オルフェウスが残した最後の言葉が蘇る。


それは警告であり、予告だった。


いずれ、世界の奥底から目覚め、現界する者がいると――


 


その時だった。


大気が、世界が、音を立てて“割れた”。


――ギィィィィィィィィン……!!


耳鳴りのような、悲鳴のような、世界そのものの断末魔。


そして――


〈深界の門〉が、完全に開いた。


 


「……来るぞ」


蓮が、静かに宣言した。


 


門から、最初に現れたものは――“影”だった。


それは黒煙のように蠢き、形を持たぬ混沌そのもの。


だが、次の瞬間――その“影”は、形を取った。


それは……異形。


この世界には存在しない、“概念”すら超越した存在。


六本の腕。

三つの顔。

翡翠と紫に輝く双眸。

そして全身から流れ出す超界の波動。


 


〈深界の眷属〉――


その存在は、オルフェウスすら遥かに超える“異物”だった。


 


「……なんだ、あれ……」


シャムが戦慄する。


戦場を幾度も潜り抜けた剣士の本能が、あれを“戦ってはいけない存在”と警告していた。


イリスが、竜としての威厳をもってそれを睨む。


「……あれは、旧き神々(アーカイヴ)に連なる者……この世界のことわりを超えた、“深界種ディープ・スペシーズ”」


 


その時。


異形は、声を発した。


――■■■■■■■。


意味不明。

理解不能。


だが、その音が響いた瞬間。


グラン=アークの結界が、一瞬で粉砕された。


 


「――ッ!」


リーナが悲鳴を上げる。


シャムが即座に飛び出そうとする。


だが――それより速く。


蓮が前に出た。


 


「……やれやれ」


その表情は、微笑みですらあった。


だが、その瞳の奥には――かつてないほどの闘志と覚悟が宿っている。


 


「……だったら、やるしかないだろ?」


 


〈黒曜の魔剣〈カース・オブ・ナイト〉〉を抜く。


その刃に、己が全ての魔力と意思を込める。


「……俺が、この世界の“壁”になる」


 


次の瞬間。


蓮の周囲に、数多の魔法陣が浮かび上がった。


古代魔術。

超界術式。

召喚式。

そして――深界対抗式。


それは、蓮が異世界の技術と遺産、全てを統合して編み出した、最終の防衛魔法。


 


「いくぞ――」


 


蓮の一歩と同時に、世界が震えた。


魔力が爆発的に迸る。

空間が歪む。


世界の深層と、この地上を繋ぐ〈門〉へと、真紅の斬撃が放たれた。


 


「――〈黎明絶界陣クリムゾン・フォートレス〉!!」


 


それは――蓮という存在が、この世界に刻む“拒絶”の宣言だった。


 


爆音。衝撃。

そして――沈黙。


異形の姿は――そこには、無かった。


ただ。


深界の門は、未だ完全に閉じてはいない。


 


「……まだ、終わりじゃない」


蓮は呟く。


イリス、リーナ、シャムが彼の元に集う。


 


「やっぱり……来るんだな。“彼の座”から……本格的に」


「世界の深層……本当の意味で、未知の世界」


「俺たちは……それと、向き合う覚悟が必要だ」


蓮は、静かに微笑んだ。


「だったら、行くしかないだろ? 俺たちの――この世界の未来のために」


 


そして――



深界の出現は、これから始まる長い戦いと冒険の、ほんの序章に過ぎないことを。


彼らは、まだ知らなかった――。

ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!

モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ