第127話 建国儀礼
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魔源域の主〈ロード・オブ・ウィルド〉を討ち倒し、魔の森の支配から解放された蓮たちは、新たな国の建設に向けて動き始めていた。
彼らは周辺の諸族と連合を結び、共に「始まりの地」を築くことを決意する。
その象徴として、建国の儀式「フェルマータ・グランディア」を執り行うこととなった。
儀式当日、森の中央に位置する広場には、各地から集まった人々が集結していた。
エルフ、ドワーフ、獣人族、人間――多種多様な種族が一堂に会し、新たな国の誕生を祝おうとしている。
広場の中央には、巨大な古代の石碑があり、これが新国家の象徴となる予定であった。
蓮は、仲間たちと共に石碑の前に立ち、深呼吸をした。
彼の隣には、竜の姿から人間の姿に戻ったイリス、弓を携えたリーナ、影を纏うシャムが並んでいる。
彼らは共に数々の困難を乗り越えてきた戦友であり、家族同然の存在であった。
「皆さん!」蓮は声を張り上げ、集まった人々に呼びかけた。
「今日、この日を迎えられたことを心から感謝します。我々は種族の壁を越え、共に手を取り合い、新たな国を築こうとしています。これは容易な道のりではありません。しかし、互いに信じ、支え合うことで、必ずや理想の国を実現できると信じています。」
人々からは歓声と拍手が沸き起こった。
蓮は続けた。
「今、ここに我々の決意を示すため、建国の儀式『フェルマータ・グランディア』を執り行います。この儀式を通じて、我々の絆をさらに深め、未来への第一歩を踏み出しましょう!」
儀式が始まると、各種族の代表者たちが順番に石碑の前に進み出て、それぞれの種族の伝統的な祈りや踊りを捧げた。
エルフの代表者は美しい旋律の歌を歌い、ドワーフの代表者は力強い槌の音を響かせ、獣人族の代表者は勇壮な舞を披露した。
それぞれの祈りや踊りは、種族の誇りと新国家への期待を表していた。
蓮たちも、石碑の前に進み出た。
彼は剣を抜き、石碑に向かって誓いの言葉を述べた。
「我々は、この地に平和と繁栄をもたらすことを誓います。種族の違いを超え、共に手を取り合い、この“始まりの地”を未来へと繋ぐ礎とすることを、ここに誓約する!」
──蓮の声が、広場の隅々まで響き渡った。
剣の切っ先が石碑に触れる。
瞬間──淡く、しかし確かな輝きが石碑の中心から波紋のように広がった。
それはこの地に満ちる“誓いの魔力”──各種族の代表たちが祈り、願い、命を懸けて紡いだ想いがひとつとなり、石碑に宿り始めている証だった。
やがてイリスが歩み出る。
その白銀の髪と紅の瞳が、古代竜としての威厳と、仲間としての微笑みを同時に湛えていた。
「竜族の名において、我はここに加護を与える。この大地が未来永劫、力と知恵と調和に満ちるように──」
イリスの掌から、青白い炎が舞い上がる。
それは〈時の竜炎〉──古代竜のみが行使する特別な祝福の火。
炎はゆっくりと石碑を包み、その表面に紋章が浮かび上がる。
《〈ネメシス・レガリア〉認証完了──新たなる盟約地、成立を確認》
古代遺跡のような淡い機構音が、誰にも知らされていなかった声として鳴り響いた。
「……これは?」
リーナが目を丸くする。
ドワーフの族長が呻くように呟いた。
「まさか……この石碑、ただの記念碑じゃねぇ……遺失文明の、何かの装置か?」
シャムが影の中から囁く。
「──いや、違う。これは……“門”だ」
「門?」
蓮が反応する。
「いずれ開く。いや、開かせるために……ここに置かれていた。ずっと、誰かを待っていたんだ。この場所で、“約束”が果たされる日を」
そのときだった。
大気が震えた。
それは自然のものではない。
空間が裂け、光が歪む。
──異界からの来訪者だ。
「!?」
広場の頭上に、光の環が生まれる。
それは静かに、しかし抗えぬ存在感を放ち、やがてそこから──
「……ああ。まさか、本当にこの地で再会するとはな」
降り立ったのは、一人の青年だった。
だが、その存在感は人間のものではない。
身にまとう衣は異国風でも王族風でもない。
彼の背には、小さな──けれど無数の光の輪が浮かんでいた。
「君が……蓮、だな?」
蓮は剣を構える。
「お前は……何者だ?」
青年は微笑む。
どこか、哀しげな、どこか、懐かしむような──それでいて、恐ろしいほどの格の違いを感じさせる笑みだった。
「名乗るなら、そうだな……“世界渡り(クロスゲート)”のオルフェウス、でいい」
ザワッ──と、周囲の空気が揺れる。
それは──
〈異界召喚〉の起源に名を残す、伝説の存在。
この世界に「外界の門」を開き、数多の異世界を渡り歩いたとされる、半ば神話の人物。
「嘘……そんな、存在するはずが……」
イリスが僅かに震える。
オルフェウスは、石碑を見下ろした。
「ようやく起きたか、“約束の遺構”。ここが、最初の座標だ。ここから──『世界の未来』を決める戦いが始まる」
「戦い……?」
蓮が眉をひそめる。
「建国など序章に過ぎない。この地が“始まりの地”であると同時に、“境界線”でもあることを、忘れるな」
オルフェウスの瞳が蓮を射抜く。
「君に問う──“君は、どの未来を選ぶ?”」
──静寂。
──緊張。
──新たなる予兆。
フェルマータ・グランディア──建国儀礼は、世界の歴史の真実へと至る“門”をも開いた。
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