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第125話  魔の森開拓戦線

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

帝国の崩壊から数週間が経過した。


新たに建国された国家は、蓮が指名した適任者のもと、王国の支援を受けて順調に歩み始めていた。


しかし、蓮たちはその地に留まることなく、かねてより計画していた「魔の森」での新たな国造りを目指していた。


朝靄が立ち込める中、蓮たちは帝都の外れに集結していた。


イリス、リーナ、シャム、そして数名の信頼できる仲間たちが、これからの旅路に備えている。


「いよいよ出発ですね。」


リーナが感慨深げに呟く。


「ああ。新たな未来を築くために。」


蓮は力強く頷いた。


シャムは静かに周囲を見渡し、警戒を怠らない。


「よし。気を引き締めていこう。」



かつて、“終焉の竜”イリスが封印されていた禁断の地──魔の森。


黒く蠢く木々と、濃密な魔力が渦巻くこの森は、人々から忌み地として恐れられてきた。


だがその中心に、今──新たなる国家の鼓動が、静かに産声を上げようとしていた。


「……ここが俺たちの、新しい国の始まりか」


森の外縁部に立ち、蓮は深く息を吐いた。


背後には、イリス、リーナ、シャム──そして、少数ながら彼らの志に賛同した仲間たちが立っている。


「まさか、建国の地が“魔の森”とはな……。お前さんらしいって言えば、それまでだが」


苦笑しながら呟くのは、かつて盗賊団に身を置いていたシャム。


今は蓮の参謀格であり、戦闘隊長でもある。


「ここは……わたしの、眠っていた場所。だけど……今は、違う」


イリスはかつて封印されていた遺跡の跡に向かい、静かに目を閉じる。


それは既に力を失い、ただのがれきとなっていたが……彼女にとっては原点でもあった。


「森の拡張は止まっている。でも、魔獣の気配は……まだ濃いわ」


リーナが魔力感知を展開する。


森の奥深くから、咆哮や蹄の音、羽ばたきの轟音が響いている。


「まずは安全圏の確保だな」


 蓮は振り返り、皆に声をかける。


「──この森を、俺たちの国の礎にする。魔獣を退け、森を開き、道を拓く。ここに誰もが安らげる、新しい未来を築くんだ」


その言葉に、全員が頷いた。


かくして──  “魔の森開拓戦線フロンティア・オブ・ダスク”が始まった。




開拓の第一段階は“魔獣掃討”だった。


森に棲む魔獣は、かつてイリスの封印によって呼び寄せられた魔力の残滓により、異常な進化を遂げた種が多い。


巨大な牙を持つ狼──〈魔狼フェル・ウルフ〉。  


黒き甲殻に覆われた大蜘──〈影獣蜘蛛シャドウ・アラクネ〉。


飛翔する蛇──〈浮牙竜レヴィア・スネーク〉。


「来るぞ! 三時方向、魔狼群!」


シャムの号令と共に、迎撃戦が始まる。


蓮は右腕に刻まれた異界紋を輝かせ、召喚剣〈カラドボルグ・レプリカ〉を展開。


イリスは黄金の竜翼を広げ、炎の息吹を吐き、リーナは結界術と治癒魔法で後方支援を担う。


「退け──ここは俺たちの未来の地だ!」


戦いは熾烈だったが、帝国との死闘を乗り越た蓮たちの戦力は、魔獣程度には決して劣らない。


一体また一体と魔獣を倒し、森の一角に安全圏を確保していく。


だが──




「……見ての通り、この森は人の手を拒む」


シャムが呟いた。


掃討したはずの魔獣が、夜の間に戻ってきている。


森そのものが、魔力によって侵食された異界の性質を持っているからだ。


「単に魔獣を倒すだけじゃダメってことね」


リーナが地形調査の結果を示す。


「森の核となる魔力の泉──“魔源域”を封じ込めないと、根本的な解決にはならないわ」


「なら、その“魔源域”を探って、制圧するしかないか」


蓮は決断した。


「その上で、道を拓く。開拓地を広げて、村を築き、人が住める環境にする。そして、近隣の人々と繋がる──それが俺たちの建国の第一歩だ」




情報を集める中で、蓮たちは森の外縁である人物と出会う。


──獣人族の戦士、ガロン。


灰色の狼の耳と尾を持つ屈強な男で、かつて魔の森周辺に暮らしていた獣人の一族の生き残りだった。


「お前たち……本気でこの森に国を作る気か」


「ああ」


蓮は真っ直ぐに答える。


「この森はただの恐怖の象徴じゃない。可能性の地だ。誰かが恐れを超えて、踏み込まなきゃ未来はない」


ガロンはしばらく沈黙した後、苦笑する。


「面白ぇ。なら、俺たち獣人族も力を貸そう」


こうして、魔の森開拓戦線は次の段階へ──  “他種族との連携”が始まろうとしていた。




その夜、仮設の拠点に焚き火の灯が揺れていた。


イリスがぽつりと呟く。


「……かつて、わたしが眠っていたこの森に。こうして人の灯りが灯る日が来るなんて、思わなかった」


「それは、イリスがここにいてくれたからだよ」


蓮は微笑む。


「お前がいたから、俺はこの森を選んだ。お前と、みんなと……未来を作るために」


イリスは目を細め、静かに笑った。


「……蓮。わたしも、この森を守る。かつての封印の地じゃなく──新たな国の、大地として」


魔の森はまだ荒ぶり、魔獣は夜の闇に蠢いている。


だが確かに、ここには──未来を拓く者たちの鼓動があった。

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