第122話 異界殲滅兵器〈ラグナ・コード〉起動
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――黒曜の獄将〈オブシディアン・ウォーデン〉を打倒したその直後。
戦場に沈黙が訪れることはなかった。
帝国中枢〈至聖書庫〉の奥底から――異様な震動が、脈打つように広がり始めたのだ。
「……これは」
蓮は思わず振り返った。
剥き出しとなった黒曜の残骸。
その奥に、かすかに紅の光が滲み出している。
「まさか……封印装置か!」
イリスの竜眼が鋭く細められる。
古代竜である彼女にしか感じ取れない、異界の根源に触れるような邪悪な波動。
それは異界門域〈ゲート・ネメシス〉に至る前兆と酷似していた。
「違う。これは……もっと、暴力的で……破壊に特化した“異界”だ」
シャムが呟く。
その指先には、解析の魔方陣が浮かび上がっていた。
「解析完了。コア名称――《異界殲滅兵器〈ラグナ・コード〉》。……旧帝国が、異界技術によって開発した、最終兵器」
リーナが凍りついた声で告げた。
「異界そのものを、武器に転用した……だと?」
帝国の狂気は、予想を遥かに上回っていた。
古代異界の叡智を盗み、ねじ曲げ、兵器化するという禁忌。
〈ラグナ・コード〉は、その結晶。
「これを起動させれば、異界門域は暴走する……この世界そのものが崩壊するわ」
リーナの言葉に、イリスも頷く。
「否……この兵器は、それすら超えている。異界を喰らい、異界を糧とし、この世界を侵略の礎に変える……」
蓮は決断した。
「止めるぞ。これが動き出せば、俺たちの目指す未来は二度と来ない」
「当然です、マスター」
シャムが微笑み、
リーナが魔術回路を展開し、
イリスがその巨大な翼を広げる。
「古代竜の名にかけて。この狂気を断つ」
しかし――帝国は、最悪のタイミングでそれを起動させた。
〈ラグナ・コード〉起動。
その瞬間、帝都全域に赤黒い光が奔り、異界の裂け目が現出した。
「はじまった……っ!」
天が割れ、地が哭き、都市そのものが異界の触手に絡め取られていく。
帝国の残存兵たちすら逃げ惑う中、中央制御室にたどり着いた蓮たちは、その中心に立つ人物を目にする。
「……帝国宰相、アルゲン・ヴァルト」
蒼白の顔。
狂気の瞳。
「我らが新帝国は、異界そのものを征服する!〈ラグナ・コード〉こそ、真なる覇道の証だッ!」
「その道は、破滅へと続いてるだけだ!」
蓮が叫ぶ。
アルゲンは笑った。
「破滅?上等だ。滅ぼせ。殺せ。侵略せよ。征服せよ。これが“帝国”の本質!」
中央制御室。
その中心に浮かぶ、紅黒の異界核。
それが〈ラグナ・コード〉の心臓部。
「制御には“異界鍵”が必要だが……蓮、お前なら接続できるはずだ!」
シャムが魔術コードを展開する。
リーナが周囲の結界を制御し、イリスが異界の干渉を防ぐ。
「いけ、蓮!」
「――応ッ!!」
蓮の掌に、“異界継承〈ネメシス・レガリア〉”が宿る。
その輝きは、すでに一人の人間を超えた――異界と共鳴する存在の証。
異界核へと接続した瞬間――
――全ての異界情報が、蓮の脳内に流れ込んだ。
光。
闇。
虚無。
創生。
破壊。
〈ラグナ・コード〉は、あらゆる異界因子を武装化する最悪の兵器。
だが同時に――“異界そのもの”でもある。
「ならば」
蓮は叫ぶ。
「異界の力は、破壊じゃない――未来を創る力だ!」
コード書き換え開始。
“殲滅”から“創生”への転換。
だがその瞬間。
アルゲン・ヴァルトが、異界核へと飛び込んだ。
「破壊こそが美だあああああああ!!」
「させるかっ!!」
イリスが咆哮し、蓮が全力で書き換えを完遂する。
全てのコードが塗り替えられた。
「発動――異界創生モード」
〈ラグナ・コード〉が、その姿を変える。
赤黒い異界の奔流は、今や澄み渡る光となり、帝都全域を包み込んだ。
――浄化。
――再生。
そしてそには、ひとかけらの結晶が残されていた。
「これは……零なる因果結晶……」
イリスが呟く。
「……終わった、のか」
アルゲン・ヴァルトは消滅し、異界の暴走は収まった。
だが、それはほんの序章に過ぎない。
帝都は焼け落ち、帝国は無力化され、これからが本当の戦い――新たな帝国の創造と建国が始まるのだ。
蓮は、イリス、リーナ、シャムと共に、静かに呟いた。
「俺たちの戦いは……まだ、これからだ」
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