第121話 黒曜の獄将
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――帝国中枢、最奥の監獄区画。
そこは、古代より存在する最終防衛領域。
異界と接続した〈ゲート・ネメシス〉の暴走を防ぐため、かつての帝国が創り出した最後の監獄だった。
その名は――〈黒曜の牢獄域〉。
暗黒の迷宮。光すら飲み込む黒き石で築かれたその場所に、蓮たちは足を踏み入れていた。
「……妙だな」
先頭を行く蓮が呟く。
彼の足元には、無数の亀裂が走り、破壊の爪痕が刻まれていた。
かつて暴走した異界兵器や実験体によるものか、それとも……。
「まるで、何かが暴れ回った跡みたいね……」リーナが険しい表情を浮かべる。
「けど、それだけじゃない」
イリスが静かに視線を上げた。
「これは、“誰か”が“何か”を封じ込めた跡でもある」
彼女の竜の本能が告げていた。
ここはただの監獄ではない。
ここには、“存在そのものが災厄”とされる存在が眠っている。
そして、それを護る番人がいる。
その名こそ――〈黒曜の獄将〉。
蓮たちが進んだ先。
黒曜石の大広間。
そこに“それ”はいた。
漆黒の鎧に包まれた巨人。
全長五メートルを超える異形の騎士。
無言。
無動。
だが、その存在感は空間そのものを圧迫する。
「……来たな。最終防衛領域の守護者か」
蓮が構えた瞬間、巨人が動いた。
重力すら歪めるかのような一歩。
大剣が、雷鳴の如く振り下ろされる。
「くっ……!」
蓮が飛び退き、リーナとシャムが左右に展開する。
だが、〈オブシディアン・ウォーデン〉の攻撃は質量そのものが違った。
大地を砕き、衝撃波が周囲を飲み込む。
「物理防御特化……いや、それだけじゃない!」
イリスの瞳が鋭く光る。
黒曜の鎧が、異界由来の魔力波動を無効化している。
魔法防御すら最高峰。
「じゃあ、どうするのよ!」リーナが叫ぶ。
蓮は短く息を整え、静かに告げた。
「奴のコアは……内部じゃない。背中、中央部。外装の“黒曜”は異界素材だが、その一点だけ、封印術式が組み込まれている」
「見抜いたのね……さすが」
イリスが微笑む。
蓮の眼は、異界と帝国技術の融合すら見抜きつつあった。
「行くぞ――突破する!」
蓮たちの総力戦が始まる。
シャムの幻影斬が〈ウォーデン〉の視界を乱し、リーナの雷撃が間合いを制圧する。
イリスは竜形態へと変化し、空中から牽制。
そして、蓮が疾走した。
黒曜の巨人が剣を振るう。
だが――その刹那。
「〈静的干渉・零域展開〉!」
蓮が特殊技術を展開。
空間そのものの流れを一瞬だけ止め、巨人の隙を生む。
背後へ。
コアへ。
「ここだ――!」
蓮の剣が、黒曜の獄将の封印核を撃ち抜いた。
轟音と共に、〈オブシディアン・ウォーデン〉が崩れ落ちる。
その残骸の中、ただ一つ、輝くものがあった。
古代帝国の最深鍵――〈アーク・コード〉。
〈ゲート・ネメシス〉への最終アクセス権限。
「……これで、行ける」
蓮がそれを手にする。
だが、その瞬間――空間全体が震えた。
『警告。異界接続領域、安定度……低下』
『〈ゲート・ネメシス〉、制御領域への侵蝕が加速』
帝国最深――最後の戦いが、いよいよ幕を開けようとしていた。
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