第114話 〈異界叡書(ネメシス・コード)〉の解読
いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。
――異界門域〈ゲート・ネメシス〉。
そこは、世界と異界が接続された特異空間であり、かつて古代帝国ヴェルディアが異界召喚術を極めようとした最後の到達点でもあった。
蓮たちは今、その中心にいる。
眼前に浮かぶのは、巨大な構造体――〈異界叡書〉。
形容するなら、それは“書”という概念を超越した存在だった。
無数の光と影が網のように編まれ、立体的な螺旋を描きながら宙に浮かんでいる。
古代文字、異界文字、図式、波動パターン、果ては存在そのものを情報化したような記号が、絶え間なく循環していた。
「……これが、〈異界叡書〉……」
リーナが呟く。
「もはや“本”ってレベルじゃねえな……」
シャムも苦笑混じりに言葉を漏らすが、その目は真剣だった。
「アクセスできそうか?」
蓮は隣のイリスに問う。
彼女は真剣な表情で魔導端末と異界用解析装置を操作していた。
帝都中央図書館〈至聖書庫〉から得た知識、〈蜘蛛の巣〉の記録、セラフィアの情報。
すべてを総動員し、アクセスコードの解析を試みる。
「……うん。何とか“読める”可能性はある。ただし……」
「ただし?」
「解読を試みた瞬間、私たち自身の存在情報が逆探知される可能性が高いわ」
それはつまり――異界側に蓮たちの存在が知られる、ということ。
「来るなら来い、だろ?」
シャムが笑った。
「この距離、この状況で逃げ切れるわけないしな。だったら、解読して全部持って帰る。それが俺たちの勝ち筋だ」
その言葉に、イリスも頷いた。
「わかった。始めるよ――〈異界叡書〉、解読開始!」
解読は、想像を絶する戦いだった。
文字ではない“概念”を読み解き、思考そのものを情報として受け取り、意味を構築していく。
流入する情報は圧倒的だった。
知識ではない。
構造でもない。
異界の存在そのものが持つ“理”の奔流。
蓮たちの思考は、その波に晒されながら必死に浮かび上がろうとする。
(くそ……! これは……意識が……)
まるで自我が崩壊していく感覚。
何か別の存在になってしまうような、底知れない圧力。
その時――
『――恐れるな。これは“知”だ』
声が響いた。
蓮は思わず顔を上げた。
セラフィアの残響。
あるいは、帝国の遺した思念か。
『未知は恐怖ではない。観測し、理解せよ。それが道を開く』
その言葉が、蓮たちの心に光を灯した。
蓮は叫ぶ。
「イリス! この情報、断片じゃない! 構造を読め! 全体を俯瞰して……相互接続を探すんだ!」
「……なるほど、そういうことか!」
イリスが指を走らせる。
解析装置の魔導紋が変化し、情報の流れが整えられていく。
そして――
「読めた……!」
イリスの声が響いた瞬間、空間が激しく脈動した。
浮かび上がる異界文字。そこには、こう記されていた。
――〈異界叡書〉 主制御構造式
異界との接続原理。
召喚術の根本法則。
異界因子の安定化技術。
精神侵蝕の耐性化。
異界存在との契約体系。
空間座標と時間因果の補正方法。
さらには――
異界門域〈ゲート・ネメシス〉の完全制御権限。
「これは……!」
「全部、ある……! 帝国が求めて、異界が拒絶した“鍵”が……!」
しかし――
その瞬間だった。
異界門域が震えた。
『……読者を確認』
『異界存在、接続を開始する』
冷たい声。
異界の“門”が開かれる音。
蓮は振り返った。
そこには――異界からの来訪者。
影のように歪む巨大な存在が、こちらに歩み寄ってきていた。
〈断罪の異端者〉
異界叡書に記された、かつて帝国を滅ぼしかけた最強の異界存在。
その一体が、蓮たちの前に実体化しつつあった。
「来やがったな……!」
「このタイミングでか……!」
蓮は剣を抜き、仲間たちに告げた。
「時間は稼ぐ。イリス、シャム、リーナ――この〈ネメシス・コード〉を、必ず持って帰るぞ!」
異界叡書の解読と、異界存在との死闘。
その幕が、静かに上がろうとしていた――。
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