第113話 異界門域
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――扉が、開かれようとしていた。
帝国中枢〈至聖書庫〉最深部。制御核〈叡智の輪〉は、蓮の名乗りと意思に応えるかのように、回転する光の輪をさらに輝かせていく。
まるでこの空間そのものが、蓮たちの選択を試しているかのように。
『探求者――蓮』
セラフィアの声は、もはや機械のものではなかった。
そこには、どこか微かな温度と、意思のようなものが宿っている。
『汝に問う。異界とは、何か』
その問いに、蓮はほんの一瞬だけ沈黙した。
異界――この世界の理から外れた未知。
力の源であり、同時に恐怖と災厄の象徴でもあるもの。
「……異界は、“他者”だと思っている」
蓮は言葉を選びながら答える。
「未知の存在。理解し得ないもの。でも、それが敵とは限らない。人と異界は……もしかしたら、共にあれるかもしれない」
『……承認』
セラフィアは静かに応えた。
『ならば、示そう。異界召喚術の本質。かつてヴェルディア帝国が辿り、そして辿り着けなかった場所』
『汝らの前に開かれるは――異界門域〈ゲート・ネメシス〉』
次の瞬間――
〈叡智の輪〉の中心部に、巨大な門が現れた。
「これは……!」
リーナが息を呑む。
それは単なる魔導的なゲートではなかった。
空間そのものが歪み、捻れ、折り畳まれ、異界の気配と混じり合いながら“存在”している。
異界門域〈ゲート・ネメシス〉。
古代帝国が異界召喚術の実験と研究の末に構築した、異界への限定的アクセスフィールド。
制御された異界との接触領域――その試みの名残。
「行く、のか……?」
イリスが蓮に問いかける。
緊張と、わずかな恐怖を押し殺しながら。
「ああ。セラフィアは……この門の先に、“答え”があると言っている」
「でも、そこは……」
シャムが低く呟く。
「異界そのもの……じゃないのか?」
「そうだろうな」
蓮は頷いた。迷いはない。
「それでも、進むしかない。俺たちは……ここまで来たんだ」
リーナも、イリスも、シャムも、短く頷いた。
「よし――行こう」
蓮が一歩を踏み出す。
異界門域〈ゲート・ネメシス〉へと――。
――そこは、異質な空間だった。
重力すら不安定に揺らぎ、時間の流れも一定ではない。
地平はない。
空もない。
上下左右の概念すら曖昧に崩れ去っている。
だが確かに“道”は存在していた。
光と闇が交錯する軌道のような通路。
異界因子が凝縮され、なお制御されている“帝国の意志”の痕跡。
「……これは……」
リーナが呆然と呟く。
「帝国は……異界との“対話”を、本気で目指していた……?」
「そうみたいだな」
イリスが慎重に周囲を警戒しながら言う。
「制御と対話……通常なら両立しないはずのものを、無理やり両立させようとした……」
それはまさに、人類の傲慢であり、同時に純粋な探求心の到達点でもあった。
だが、その空間には“何か”が潜んでいた。
気配。
存在圧。
蓮たちは同時に、それを感じ取った。
「来るぞ――!」
蓮が叫ぶと同時に、空間の奥から“それ”が現れた。
〈異界守衛兵〉。
異界門域の内に配置された、自律的な守護存在。
古代帝国が構築した異界技術の兵器であり、今なお門域の内に残存する“異界と帝国”の混成体。
その姿は、鎧を纏った巨人にも、歪んだ神像にも見えた。
「……避けては通れない、か」
蓮が静かに構えを取る。
異界の本質に迫るための試練。
それが――異界門域〈ゲート・ネメシス〉。
「行くぞ! 全力で突破する!」
イリスが剣を構え、リーナが魔術式を展開し、シャムが影の中から突撃する。
異界と帝国、過去と現在、未知と理解。
すべてが交差するこの空間で――
蓮たちは、戦いの中に“答え”を探し続ける。
そして、戦いの果てに。
蓮たちはその存在を目撃する。
門域の最奥。
そこに浮かんでいたのは、一冊の書。
それは、異界召喚術の本質に至る“最後の鍵”――
〈異界叡書〉。
セラフィアが最後に告げた声が、空間に響いた。
『探求者たちよ』
『汝らは今、選択の扉の前に立つ』
『異界を拒絶するか、受容するか』
『それとも――』
蓮は、ゆっくりとその書に手を伸ばした。
物語は、次なる段階へ。
異界と、この世界の真実を巡る旅は――終わらない。
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