第110話 帝国中枢〈至聖書庫〉への突入
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──帝国地下遺構〈ナグ=シュルート〉、最奥。
古代の封印門が、ゆっくりと開かれつつあった。
響き渡る重低音。石と鉄と、術式の鎖が断たれていく音。
先程までの激闘──影刃ゼクス・ラヴィアとの死闘を終えた蓮たちは、深々とした静寂の中で、ただその光景を見据えていた。
「……開いた、か」
リーナの呟きと共に、門の向こうから──冷たい空気が流れ込んでくる。
だがそれは単なる温度の問題ではない。もっと根源的で、質的に異なるもの。
──知の冷たさ。
──帝国が恐れ、封じ、守り続けてきた、全ての核心。
帝国最大の機密区画〈至聖書庫〉が、今、姿を現した。
そこは、空間そのものが歪曲していた。
無数の浮遊する書架。螺旋を描く通路。上下左右すら曖昧な重力。
大図書空間の遥か彼方に、光る制御リングと浮遊装置がちらついている。
「……これは……」
イリスが思わず息を呑む。
リーナも沈痛な面持ちで呟いた。
「……魔導構造物の極致。空間そのものが一つの巨大な情報制御体として機能してる……まるで、帝国そのものが築いた異界」
その時だった。
──カツン。
乾いた音と共に、何かが現れた。
鎧。
骨。
刻まれた古代文字。
それは、かつて人だったものの亡骸に、知識と守護の命令だけを叩き込まれた兵。
「〈文骸騎士〉……!」
帝国の知を護る、半不死の番人たち。
しかも──一体ではない。
左右の書架から、天井から、床の影から。
次々に現れる骸の守護者たち。
「……これは、さすがに数が多すぎる」
蓮が剣を引き抜いた瞬間──戦闘が始まった。
激突。
イリスの双剣が、一体目の文骸騎士を両断する。
シャムが背後から飛びかかり、その隙を突いて急所を叩き潰す。
リーナは広範囲の重力操作で、敵の動きを歪め、遅滞させ、各個撃破へと持ち込む。
しかし──
「……次から次へと……っ!」
蓮の周囲は、既に包囲されていた。
無限とも思える数の文骸騎士たちが、無感情に剣を振り下ろしてくる。
「──だったら!」
蓮は剣に全力の術式を纏わせ、真正面から突き破った。
爆ぜる鎧。
砕け散る仮初の生命。
連撃、踏み込み、回転斬り。
文字通り、薙ぎ払うように突破する。
「今だ、抜けるぞ!」
「了解!」
「わかった!」
仲間たちも連動する。
蓮たちは、敵を振り切りながら、至聖書庫の中枢へと一気に駆け抜けた。
──そして、その先に。
浮遊する巨大な円環装置。
それこそが、至聖書庫の制御核──〈叡智の輪〉。
……が、その前に。
「侵入者──排除を開始する」
聞き慣れない、無機質な声。
そこに立っていたのは、一人の──老人。
半ば機械と化し、頭部には魔導式の神経接続装置。
片手に異界魔導兵器〈黒曜の杖〉を持つ存在。
名を──
「〈智骸の管理者〉……!」
リーナが顔を強張らせる。
「至聖書庫そのものと一体化した存在……この場所の番人か!」
その瞬間──空間が反転した。
魔導回路が解き放たれ、至聖書庫全体が攻撃結界へと変貌する。
無数の魔導文字が走り、空間制御が襲い掛かってくる。
重力逆転。炎の嵐。情報遮断。位置転移阻害。
「──来い。異界より来たる者たちよ」
智骸の管理者が、杖を振り上げる。
ここから先は──知と知、力と力の全面衝突。
至聖書庫の最奥へと至るための、最後の関門。
「行くぞ、みんな!」
蓮の声と共に、仲間たちは武器を構えた。
この戦いの果てに、何が待つのか──
知を超える者のみが、そこへ辿り着ける。
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