第109話 影刃ゼクス・ラヴィア
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──帝国地下遺構〈ナグ=シュルート〉。その最奥に位置する、巨大な封印門。
扉は古代帝国語で刻まれた封印術式によって閉ざされている。
無理に破ろうものなら、広範囲を巻き込む爆裂結界が起動する仕掛けだ。
蓮が慎重にその構造を観察していた、その時だった。
重く、しかし確実な気配が虚空から降りた。
「……来たか」
イリスが短く呟く。瞬間、空間が揺らぎ、黒い人影がそこに現れた。
男──黒衣の刺客。
〈影刃〉ゼクス・ラヴィア。
かつて帝国の暗殺部隊〈影の牙〉を壊滅させ、一人でその名を轟かせた伝説の暗殺者。
今は帝国すら制御できない、第三勢力に属する存在だ。
「封印門を越える者は──例外なく排除する。それが、俺に課せられた唯一の任務だ」
低く響く声。まるで刃が擦れるような冷たさを孕んでいる。
蓮は、一歩前に出た。
「……あんたが〈影刃〉ゼクスか。目的は?」
「質問に答える義務はない。だが──」
ゼクスは手に一振りの刃を現す。
それは影そのものから形作られた漆黒の短剣〈黒影刃〉。
「……ここは、通さない」
言葉と同時に、彼は消えた。
高速の瞬歩。影と同化するような超速の接近。
「来るぞ!」
蓮が叫ぶと同時に、ゼクスの刃が振り下ろされる。
蓮は咄嗟に〈白銀の刀〉で受け止めたが、その衝撃は予想以上に重い。
剛と柔、静と動。その全てを兼ね備えた暗殺者の剣技。
「ちっ……!」
蓮が後退する。イリスが援護に入ろうとするが──
「動くな」
ゼクスの影から無数の黒い刃が生まれ、イリス、リーナ、シャムの足元に突き立つ。
足止め用の〈影縛陣〉。
「……術式の応用、か!」
リーナが即座に魔力干渉を試みるが、影の刃は半ば自律行動している。
通常の魔法では解除が困難。
その間にも、ゼクスは蓮へと迫る。
「悪いが……」
蓮は口元に不敵な笑みを浮かべる。
「そっちこそ、手加減なしで来い」
白銀の刀が煌めいた。蓮の体術と剣技が、ゼクスの影刃と激突する。
二人の動きは、音速すら超える。
壁が抉れ、床が割れ、圧倒的な戦闘が繰り広げられた。
「リーナ、解除はまだか!」
イリスが叫ぶ。
「やってるわよ……でも、これ、本当に厄介……!」
リーナが苦戦する中、シャムが小さく呟いた。
「──なら、物理で消すだけ」
シャムは〈影縛陣〉の刃を拳で粉砕し始める。
破壊と速度特化のシャムらしい、単純かつ最強の突破法。
「わたしも行くよ!」
イリスも〈煌刃〉を抜き、影の束縛を一刀両断。
リーナがその間に弱点を突き、封印術式を打ち破る。
三人が同時に解放された瞬間──
「蓮!」
「来い!」
蓮がゼクスを引きつけ、イリスとリーナ、シャムが同時に攻撃を仕掛けた。
ゼクスは影を操り、全方位の防御を展開する。だが──
「こいつは突破する!」
シャムの一撃が〈影壁〉を破壊。
リーナの魔術がゼクスの動きを縛り──
イリスの煌刃が、彼の腕を斬り裂いた。
「──ほう」
ゼクスの無表情が、僅かに崩れた。
だが、次の瞬間──彼はその場から飛び退く。
「これ以上は……俺の任務外、か」
影がゼクスの体を包み、彼は再び虚空へと溶けるように消えた。
最後に、静かな声が響いた。
「蓮……お前たちの行く先には、もっと深い闇が待っている」
影だけを残し、ゼクスは消えた。
戦いは終わった。
「……とんでもない奴だったな」
蓮は肩で息をしながら、封印門を見上げた。
「でも、突破できた。次は……」
その先に待つ、帝国最大の機密区画──〈至聖書庫〉。
そこには、帝国と異界を繋ぐ真実が眠っている。
蓮たちは再び歩き出す。
この戦いは、まだ序章に過ぎないことを、全員が理解していた。
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