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第103話  帝都に消えた工房

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

アドリス王都の宿――薄明かりの灯る部屋には、沈黙が満ちていた。


テーブルの上に広げられた羊皮紙。その一枚に、四人の視線が集中している。


蓮、シャム、リーナ、そしてイリス。いずれも険しい面持ちで、手に入れた報告を読み解いていた。


「……これが、例の“工房”に関する記録か」


蓮が静かに問いかけると、リーナが頷いた。


「公式な帝国の記録には何も残っていない。でも、流通記録の空白と近隣住民の証言を照らし合わせると……確かに、帝都の外縁部に“何か”が存在していた形跡があるわ」


「第五魔術研究区……だったな?」


イリスが唇を噛みながら呟いた。


「あそこは数年前から封鎖されてる。“疫病の発生”って名目で。でも、実際に病が流行った痕跡はどこにもない」


「つまり、隠す理由があったということだ」


シャムが地図に視線を落としながら言う。


「異世界転移者の召喚術……。帝国はそれを、再び再現しようとしてる可能性がある」


その言葉に、部屋の空気が一段と緊張を帯びた。


「もしそうだとすれば……また誰かが、俺たちのように巻き込まれるってことだよな」


蓮の声に、イリスがうつむきながら呟いた。


「……そんなの、もう繰り返しちゃだめ。あたしたちは、それを止めるためにここまで来たんじゃないの?」


リーナは深く頷いた。


「この“消えた工房”は、ただの研究所じゃない。出入りしていたのは帝国直属の錬金術師と魔術技師。それに、近隣で記録された“魔力反応”は尋常じゃない強さだったわ。明らかに、何か異常な実験が行われていた」


「……設備ごと、一夜で消えたってのも気になる。破壊された形跡もなく、ただ“消滅”した……まるで空間ごと引きちぎられたような」


シャムが呟くと、イリスの眉がぴくりと動いた。


「異空間転移……まさか、それを試したの?」


「可能性はあるな。もし帝国が空間転移を掌握しているなら……」


蓮の声が少しだけ低くなる。


「戦場に兵士を瞬間移動させることも可能になる。そんなものが完成すれば、もはや城壁も防衛線も意味を成さない」


「その上、異世界から人を呼び出す術まで確立されたら……最悪よ」


リーナの声には、焦りが滲んでいた。


「それに、あのカール・バルトが関与している可能性が高い。新たな召喚計画の主導者。あいつが動いているってことは、帝国の中でもかなり上層の話ってことね」


「じゃあ、どう動く?」


蓮が問いかけると、シャムが迷いなく答えた。


「……グレンだ。彼の言っていた“情報屋”に会う。帝都の深部に通じてる可能性がある」


「グレンって、あの胡散臭い密輸商人でしょ?」


イリスが口を尖らせると、シャムが小さく笑った。


「胡散臭いが、情報の扱いは一流だ。今回はそれを利用させてもらう」


「決まりね」


リーナが立ち上がった瞬間、蓮も静かに立ち上がった。


「まずはその情報屋に接触だ。帝国の闇に踏み込む以上、時間は限られてる」


イリスも立ち上がり、肩を回しながらぼやく。


「ほんっと、ろくでもない場所に首突っ込んでる気しかしないんだけど……まあ、今さらだよね」


シャムが肩をすくめ、冗談めかして言った。


「今さら慎ましく生きる性格でもないだろ?」


「……うっさい」


イリスがそっぽを向きながらも、口元に微かな笑みを浮かべる。


そんな彼らの様子を、リーナは真剣なまなざしで見つめていた。


「でも、気を付けて。帝都の情報屋は腕も度胸もある分、癖も強いわ。下手に動けば、逆にこちらの情報を売られる可能性もある」


「だからこそ、こっちも駆け引きでいくしかない」


蓮は短く言い切ると、テーブルにあった羊皮紙を手早くまとめ、腰に装備したポーチへと仕舞い込んだ。


イリスがちらりと問う。


「で、そのグレンって情報屋……どこにいるの?」


シャムが苦笑しながら答える。


「帝都でも特に危険な地区――〈赤灯の裏通り〉だ」


イリスがあからさまに嫌そうな顔をする。


「あー……絶対ろくでもない場所……」


「ろくでもないけど、ろくでもない情報ほど役に立つ。そういう世界だ」


蓮が扉に手をかけ、振り返る。


「行こう。帝都に消えた工房の真実を暴くために――そして、二度と誰も巻き込ませないために」


四人はそれぞれに決意を胸に、静かに部屋を後にした。


外はすでに夜の帳が降りている。


だが、彼らの歩む先には――帝国の闇よりもなお深い、真実と陰謀が待ち受けていた。

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