第100話 交易都市アドリスへの潜入
いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。
第99話の投稿でちょっともたつきました・・・申し訳ありませんでした。
三日間の準備期間を経て、蓮たちは帝国東部に位置する交易都市アドリスへと向かうこととなった。
アドリスはかつて独立した商業都市であり、帝国に併合された今も自治を保つ都市である。交易が盛んで、多種多様な商人が行き交い、情報の流れも速い。帝国の完全な支配下にはないため、内部に反帝国的な思想を持つ者がいる可能性が高い。
今回の目的は、帝国の内部情報を収集すること、密輸ルートを確保すること、そして帝国に反発する勢力を探すこと。そのために、蓮たちは商人に扮して街へ潜入することにした。
早朝、蓮たちはアドリスへと続く街道を馬車で進んでいた。
馬車は蓮のアイテムボックスから取り出したもので、見た目は質素だが、中に積まれている商材は帝国では希少な品ばかりだ。
「帝国で手に入りにくい品を持ち込めば、自然と注目を集められるはずだ」
蓮はそう言って、今回の商材として香辛料・魔道具・加工された織物を用意していた。
特に香辛料は帝国では貴族層を中心に高値で取引されており、流通が制限されているため希少だ。魔道具もまた帝国では生産が少なく、一般市民にはほとんど手に入らない貴重品である。
「蓮のアイテムボックス、ほんと便利よね」
イリスが馬車の中で微笑みながら言った。
「普通ならこんな高級品を揃えるだけで何ヶ月もかかるのに、一瞬で用意できるんだから」
「ま、便利だろうな」
シャムが笑いながら肩をすくめる。
「でも、問題は帝国の商人連中が素直に受け入れてくれるかどうかだ」
「その点は大丈夫。商人としての信用を得るために、まずは小規模な取引から始める」
蓮はそう答えた。
「帝国の支配下とはいえ、アドリスの商人たちは利益を最優先にするはずだ。儲けられると分かれば、俺たちに対する警戒も解けるだろう」
正午過ぎ、蓮たちはアドリスの城門前に到着した。
城門は高さ五メートルほどの石造りで、門番が数名、監視塔の上にも弓兵が配置されている。
「入城税は馬車一台につき銀貨五枚、人間一人につき銀貨二枚だ」
門番の一人がぶっきらぼうに言う。
(思ったより高いな)
蓮は内心で呟く。
入城税が高いのは、帝国が交易を管理しようとしているからだろう。だが、商人たちはそれでもアドリスに集まる。なぜなら、ここでしか手に入らない品や取引があるからだ。
「銀貨十三枚だな」
蓮は素直に銀貨を渡した。
「通れ」
門番が通行を許可する。
門をくぐると、そこには活気のある商業地区が広がっていた。
アドリスの街は大通りを中心に広がり、その両脇には商店が軒を連ねている。行き交う人々は多く、異国の言葉も飛び交っていた。
「さて、まずは宿を確保しよう」
蓮は仲間たちにそう言った。
「それから、商人としての足場を作るために、市場で動向を探る」
「シャムは密輸商人の情報収集、私たちは商人として取引の機会を探る……でいいわね?」
リーナが確認する。
「ああ、その通りだ」
蓮は頷いた。
アドリスの市場は広く、多種多様な品が並んでいた。帝国産の武器や防具、農作物、異国の宝石や織物……。
蓮は市場を歩きながら、商人たちの動向を観察する。
(帝国の統制が厳しいとはいえ、ここはまだ自由な空気が残っているな)
そう感じていた矢先、商人の一人が話しかけてきた。
「お客さん、新顔だね? どこから来た?」
中年の男で、身なりからしてそこそこの商人だと分かる。
「西のほうから来た。珍しい品を持ち込んでるんだが、売り先を探していてね」
「ほう? 何を扱ってる?」
「香辛料と魔道具、それから高級な織物だ」
「そりゃあいい! 帝国じゃ手に入りにくい品ばかりじゃないか」
男の目が輝いた。
「よければ、うちの店で取引しないか? うまくやれば、帝都の貴族にも売れるかもしれないぞ」
「興味深い話だな」
蓮は微笑みながら答えた。
(これで帝国の貴族層の情報に近づけるかもしれない)
そう考えながら、蓮は商人と共にその店へと向かった。
一方、シャムは裏路地で密輸商人の情報を探っていた。
「ここに密輸ルートがあるって話だが……」
彼は慎重に辺りを伺いながら、酒場へと足を踏み入れた。
そこは薄暗く、無骨な男たちが酒をあおっている。
「おい、あんた」
シャムはカウンターの男に声をかけた。
「ここで密輸の話を聞いたことがあるんだが……」
男は一瞬シャムを見つめ、そして笑った。
「……話次第じゃ、面白い取引ができるかもしれねぇな」
こうして、蓮たちは交易都市アドリスでの潜入を開始した。
帝国の内情を探るために――。
ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!
モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!




