第10話 帝国の反撃
帝国軍の駐屯地を制圧した蓮たちだったが、帝国は即座に精鋭「白狼騎士団」を含む500の部隊を派遣。蓮は森の地形を活かした奇襲作戦を展開するが、白狼騎士団は動じず、ついに騎士団長カールとの激突が始まる。
駐屯地の制圧が終わり、森の中は静寂に包まれていた。
蓮たちは戦いの疲れを癒すため、焚き火を囲みながら一息ついていた。
「……ようやく一段落か」
シャムが安堵のため息をつき、火の揺らめきを見つめる。
彼の背後には、元盗賊団の仲間たちが集まり、疲れた様子ながらも笑顔を浮かべていた。
「俺たち、本当に勝ったんだな……」
「もう逃げ回らなくていいのか……?」
そんな言葉があちこちで聞こえ、彼らがどれほど追い詰められていたかが蓮にはよく分かった。
(……だが、これで終わりじゃない)
帝国軍の駐屯地を落としたことで、彼らは一時的に自由を得た。
しかし、それは帝国側にとっては「反逆」の宣戦布告でもある。
「……蓮」
隣で静かに腰を下ろしていたリーシャが、小さな声で呼びかけた。
「うん、分かってる。……帝国が動く前に、こっちも準備しないとな」
蓮の表情は険しいものになっていた。
翌朝、森の見張り役が駆け込んできた。
「大変だ! 帝国軍が動いた!」
その言葉に、蓮とシャムは即座に立ち上がる。
「詳細を頼む」
「南の砦から帝国軍の部隊が派遣された! 総勢およそ500……先頭に“白狼騎士団”がいる!」
「白狼騎士団……!」
シャムが表情を強張らせた。
「奴らは帝国の精鋭部隊だ。戦場での機動力と統率力は帝国随一……生半可な手では通用しねぇ」
「しかも、500人……俺たちはどう見ても数で劣勢だ」
蓮は腕を組み、状況を整理する。
「ここでまともに戦えば、確実に潰されるな」
シャムが悔しそうに歯を食いしばる。
「くそっ……やっと自由を手に入れたのに、もう終わりなのかよ……」
その言葉に、蓮は静かに首を振った。
「……いや、終わりじゃない」
「何?」
「俺たちには、“この土地”がある。帝国軍が相手でも、戦い方次第で勝てるはずだ」
蓮の目は揺らぐことなく、確かな決意を宿していた。
「地の利を生かして迎撃する」
蓮は地図を広げ、森の地形を確認する。
「俺たちはこの森の中にいる。敵は開けた道を進んでくるはずだ。ならば、そこを罠に変える」
シャムが地図を覗き込みながら頷く。
「確かに、この道は狭いし、馬の機動力も落ちる。だが、それでも正面からぶつかれば厳しいぜ?」
「だから、俺たちは正面からぶつからない」
蓮は指でいくつかのポイントを示した。
「まず、ここに落とし穴を仕掛ける。ここは道幅が狭く、騎馬隊が進行する際に密集するポイントだ。落ちたら最後、身動きが取れなくなる」
「なるほど……」
「次に、こことここに伏兵を配置する。敵が混乱したところを狙い、側面から強襲する」
シャムの目が鋭くなる。
「奇襲と罠を組み合わせて、一気に主導権を握るってわけか……いいじゃねえか!」
「ただし、問題は“白狼騎士団”の動きだ。奴らは並の兵とは違う。罠が効かない可能性も考慮しないと」
リーシャが静かに呟く。
「白狼騎士団の指揮官は誰?」
「“カール・フォン・グレイヴェル”。王国軍でも名高い戦士で、冷静かつ苛烈な指揮を取る男だ」
シャムの顔にわずかに険しさが増す。
「白狼騎士団が本気を出せば、俺たちの奇襲も崩される可能性がある」
蓮は少し考えた後、静かに口を開いた。
「……ならば、俺がやる」
「お前が?」
「白狼騎士団の指揮官を引きつける。敵の指揮系統を乱せば、俺たちの作戦はより効果的になる」
「……いいだろう。だが、無茶はするなよ」
「もちろん」
帝国軍の部隊が森の入り口に到達する。
その瞬間――
「今だ!」
シャムの合図と同時に、落とし穴が発動した。
騎馬隊の先頭が崩れ、混乱が生じる。
「くそっ、罠か!」
その声と同時に、森の中から矢が一斉に降り注いだ。
「伏兵だ! 迎撃しろ!」
帝国軍は必死に態勢を整えようとするが、狭い地形が災いし、思うように動けない。
その時――
「どけぇぇぇぇぇ!」
白狼騎士団の隊列が前に出た。
「こいつら……」
シャムが舌打ちをする。
白狼騎士団は罠を回避し、正確に戦線を立て直していた。
「やはり、甘くはないか……!」
蓮は剣を構え、白狼騎士団の先頭に立つカールを見据えた。
「貴様が賊の頭目か?」
「いいや、ただの通りすがりさ」
蓮は軽く剣を回し、構えを取る。
「だが、お前を止めるためなら、俺は剣を振るう」
カールの目が鋭く光る。
「ならば、その覚悟、試させてもらうぞ!」
次の瞬間、二人の刃が交差した。
カールの剣は重く、速い。
蓮は受け流しながら、隙を伺う。
「ほう、やるな」
「そっちこそ……!」
二人の剣が激しく火花を散らす。
蓮は僅かな隙をついて魔法を放った。
「≪フレイム・スラッシュ≫!」
炎の刃がカールを襲うが――
「無駄だ」
カールは冷静に剣を振り、炎を断ち切った。
(こいつ……強い!)
蓮は歯を食いしばり、再び剣を構え直す。
ここで負けるわけにはいかない。
「行くぞ!」
森の戦場で、決戦の火蓋が切られた。
タイトルとあらすじの「王国」を「帝国」に修正しました。