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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今、流行りの「君を愛することはない」と言われましたわ

作者: Ash

「君を愛することはない」


 よく聞くあの言葉をアタクシも聞きました。初夜のご定番ですわね。

 え?

 なんで愛することはないがよく聞く言葉ですって?

 それも初夜の定番(笑)。

 物語によくあるなら、あなたの国、病んでおりますわよ。

 アタクシの国はもう駄目駄目だから、初夜にそんな台詞が定番になってしまいましたの。


 意味がわからない?

 そうね。

 愛することはない宣言された新婚の女性の話なんて、この国の王宮では腐るほどありますの。顔の良い男と結婚したほぼ全員が聞いておりますわ。

 何故なら、王太子の婚約者の座を略奪した女が他の男の心も奪っていったのです。

 ウフフフフ。

 笑える話でしてよ。女一人に熱を上げている男は数多。婚約解消する頭も度量もない顔だけ男ばかり引っかかって、結婚初夜に愛することはない宣言いたしますの。

 略奪女にのぼせ上がっている姿を見て愛する気持ちが微塵も残っていないというのに、愛されていると信じ込んでいるお粗末なオツムの男。

 仕事ができる?

 できたの間違いですわ。

 略奪女に心奪われて、略奪女に貢ぐしか頭の動かなくなった無能な男。それが今の評価でしてよ。

 ウフフフフ。


「何を笑っているんだ、気持ち悪い」


 あら。頬が緩んでしまったみたいですわ。


「何でもございませんわ」

「せいぜい、私に迷惑をかけないようにするんだな!」


 言い捨てて部屋を出て行きましたわ。

 略奪女が権力の中枢を掌握してお花畑空間になってしまった国なんて、何年保つかしら?

 貴族の義務など、アタクシたちは果たす気もございませんし、貴族の中には他国に拠点を移し始めた者もおりましてよ。

 家同士の契約を破棄するデメリットから結婚しているだけですの。当然、白い結婚ですわ。親に自害用の毒や小剣を渡されておりますの。

 白い結婚するのに、自害用の道具が花嫁道具とは面白い話でしょう?

 でもね、仕方がありませんの。

 拠点を他国に移し始めても、そこで結婚相手を探しても優良物件は売約済み。略奪婚でもしようものなら、不慣れな異国で排除されても仕方がありませんの。

 新参者は新参者らしく、ゴマを擦って生きていかなくてはいけない上に、嫁き遅れになった娘が買い叩かれて後妻や愛人になるよりは、お花畑の一員と白い結婚するほうがマシという判断ですの。

 他国の未婚の元貴族令嬢より、他国の元貴族夫人のほうがまだ与えられる権利が多いですもの。

 堅苦しい恋愛をする必要もなく、自由で楽しい恋愛をして、好きでもない相手との結婚も避けられる。

 本当に娘思いの良い親でしてよ。

 アタクシを除いては。


 アタクシの場合は、兄の恋人を虐めたからと、監視する目的で略奪女に心奪われたお花畑な婚約者と結婚させられましたの。

 どこぞの女王のように愛人侍らかす王太子の婚約者に意見できるのは、王女の仕事でしてよ。

 略奪女の虜になって婚約者を蔑ろにしておいて、どの口が言えるのやら。

 兄の婚約者だった哀れな公爵令嬢は、傷心旅行先で見初められて、さっさと婚約解消。異国で幸せな結婚生活を送っておりますわ。

 ウフフフフ。




 ◇◆◇




「お待ちください! 奥様の来客は受け付けておりません!」

「客ではなくてよ! 侍女ですわ!」


 玄関ホールから聞こえてくる筆頭執事の叫び声と女性の声にアタクシの頬が緩んだわ。

 さあ、行きますわよ。

 手荷物はお気に入りの扇のみ。

 手提げ袋(レティキュール)

 既に詰め込まれておりますわ。


「侍女も受け付けおりません!」

「貴方、無礼でしてよ。たかが執事がワタクシたちの足を止めるなど、烏滸がましい!」


 玄関ホールにいたのは、最近できたアタクシの侍女という名のお友達。貴族の夫人たち。

 公爵家とはいえ、たかが執事が口答えして良い相手ではありませんわ。

 一人では多勢に無勢。筆頭執事以外の執事たちも来て、彼女たちを押し留めているわね。

 公爵家の権力を笠に着ている筆頭執事だけど、わかっているのかしら?

 貴族かそうではないか。爵位持ちかそうではないか。

 たかが執事如きに貴族を抑制する力などない。他家の使用人を処罰することが品の無い行為だから、彼女たちがしていないだけだということを。

 他家での狼藉はたとえ、それをしたのが王族だろうが、たとえ、それをされたのが男爵家であろうと、一族挙げての報復が許されている。それをしない者は貴族として認められない。

 身分の差?

 自分の城を荒らした狼藉者は、身分なんて考慮されなくてよ。ただの敵。

 王家もそれを擁護できなくてよ。

 そうでなくては、見目の良い妻子のいる下位貴族は、高位貴族に押しかけられて弄ばれても泣き寝入りするしかないでしょ?

 彼女たちは貴族だから、執事たちに暴挙を働けないの。そんなことをしたら、自分を守ろうとしてくれた家族に迷惑がかかるから。


 使用人の不始末は雇っている主人の不始末。躾のなっていない使用人の無作法は主人の顔に泥を塗る行為ですけど。

 お花畑な公爵だけあって、使用人の躾もできていないわ。

 まあ、前任の筆頭執事は前公爵夫妻に付いて行ってしまったから、気心の知れているお花畑男の専属執事が筆頭執事になったようだけど。


「その通り! 待っていたわ、貴方たち!」

「奥様! 奥様の来客は旦那様が許可されておりません」

「許可など必要なくてよ」

「いいえ! この家の主人は旦那様でございます。奥様は旦那様がお決めになったことに従ってください」

「馬鹿ね。結婚しようが、王女は王女でしてよ。旦那様の命令に従え? 王女に公爵の命令を聞けと? それこそ、無礼千万!」

「!!」


 お友達が獲物を仕留める笑顔で言う。


「公爵家の執事ともあろうものが、情けない。王族に不敬を働くなんて!」

「なっ?!」


 言葉を失う執事。

 普通なら結婚後は夫の持ち物扱いされて、行動を制限されるものだけど、自国の貴族と結婚した王女は別。王女の意思を制限したり無視したら、王家を軽く見ていると不敬罪を問われるの。

 監視目的で嫁がされた王女なら不敬罪に問われないと思っているようだけど、たかが執事が王女の行動を制限するなんて、殺されても仕方なくてよ。

 あくまで王女を軟禁できるのは夫だけ。爵位もなければ夫でもない執事は、低姿勢でお願いをする立場ですの。


「お花畑公爵の執事がまともな執事なわけありませんことよ」


 略奪女に心奪われて婚約者を蔑ろにした男はお花畑公爵で充分。


「殿下のおっしゃる通りですわ!」

「殿下に対する不敬罪、如何いたします?!」


 口々囃し立てるお友達たち。彼女たちも腹に据えかねているわね。誰に対してかは別ですけど。


「殿下! ワタクシ、この執事に見覚えがございます! あの女狐を抱き締めていた使用人ですわ!」

「あら。この男もお花畑男の一人だったの? ウフフ。笑うしかないわね。主君の恋人に懸想する男が、自分も使用人に裏切られているなんて」

「わ、私は旦那様を裏切ってなど・・・!」

「主人の想いの相手を抱き締めておいて、裏切っていないと?」

「それは、――っ!!」

「専属執事として主人と一緒に行動していたのなら、抱き締める機会などなくってよ」


 主人の想いの相手だ。近くにいる主人が目を離して転倒に間に合わないはずもない。

 なんといっても、初夜に愛することはできない宣言するお花畑男が近くにいる略奪女から目を離しているなんて、想像するのも馬鹿らしい事態だ。

 お花畑男の専属執事が主人よりも略奪女を見ていたなんて、言い訳もできない状況だ。


「抱き止めたとしても、主人の傍を離れて主人の想いの相手と一緒だった時点で、不義密通は成立しているわ。あんなにおモテになった女性が、他の取り巻きも引き連れずに、主人の傍を離れたあなたに抱き止められる状況がどんな状況かおわかり? あなたにコナをかけて篭絡している以外、説明がつきませんわ」


 どんな言い訳も許されない。それが側仕えでありながら、主人の傍を離れて異性と一緒にいた罰。


 だいたい、どの屋敷でも客の目に触れないように使用人専用の階段があるものなの。主人と一緒ではない使用人は客や主人の目に止まらない区域にいかなければいけないというのに、どうやって、お花畑女を抱き止める状況になるのか、問いただしたい。どの建物も中央の階段は客や主人の使う階段。建物の両端の階段は使用人専用と決められているのよ。つまり、主人や客は中央付近の部屋を使用し、使用人が行き来する端の部屋はよっぽどのことがなければ使われることはないの。

 そんな出会うはずがない二人が出会って、抱き止められる状況なんて、故意に近付かない限りはできないのよね。

 証言をしてくれた彼女も、略奪女が単独行動をとっていることを不審に思って後をつけて、不貞現場を目撃したと、以前、言っていたわ。お花畑公爵も兄も略奪女のはしたなさを問題視せず、浮気も端から信じてない、能天気な頭をしている。だから、お花が咲いているんだけど。


「・・・!!」


 味方だったはずの公爵家の使用人たちの目の冷たさに執事は言葉を失った。

 もう、誰も味方がいない。

 誰も味方しない。

 それはそうでしょう。

 いくら筆頭執事とはいっても、主人の想いの相手を抱き締めるなんて許される所業ではないもの。


「「「それでこそ、殿下ですわ!」」」

「皆様、お待たせいたしました! とうとう、予定通り出発できますわ!!」


 そして、アタクシは彼女たちを王女である公爵夫人の侍女として引き連れ、外国に行きましたわ。




 ◇◇◆




 お花畑王太子は妃の不貞に気付いて処刑したそうよ。

 お粗末な話だけど、略奪女は王宮でも姿を晦ませて不貞を重ねていて、警護対象を見失って処罰を受けた恨みから不貞が明るみになったの。侍女はお花畑公爵の元筆頭執事が紹介状なしで追い出された経緯から、略奪女が使用人と密会しそうな場所を探して、騎士たちに教え、騎士たちは密会現場で不貞相手を”王太子妃を襲った慮外者”として斬るようになったの。

 息子や兄弟を切り殺された遺族(下位貴族)が怒り狂って、抗議した数が片手で数えられなくなると、お花畑王太子も、妃が何度も血塗れになった本当の理由をようやく、本人以外から聞いて、姿を晦ませては”王太子妃を襲った慮外者”に逢いに行っていたことを知ったわけ。


 でもね。よ~く思い出して。

 この国の王宮では「君を愛することはない」が初夜のご定番だったということを。

 高位貴族だけでなく、下位貴族も「君を愛することはない」発言をしていて、”王太子妃を襲った慮外者”の妻たちも言われていたわけで。

 夫が罪を犯して死去。死別でも、罪人との婚姻歴を消したいと申し出て、白い結婚を理由に婚姻を解消して、親の公認の下、二度目の結婚は強制されず、実家暮らしをしているらしい。

 他の白い結婚をした女性たちも、略奪女が罪に問われてすぐに白い結婚で婚姻の解消を申し立てたそうよ。

 残ったのは、白い結婚になったことが発覚して、妻を買うしかない男たち。

 だって、婚姻解消で、略奪女の為に「君を愛することはない」なんて言った男たちに自分の娘を嫁がせたい親なんている?

 共同事業をしていても、自分の孫()()の利益にならない共同事業なんて、慈善事業もいいところよ。貴族も、そのあたりはとてもシビアなの。


「君を愛することはない」なんて言った男たちは、他家から信用ができないと見做されたせいで廃嫡され、お花畑公爵のように襲爵済みの者も親戚たちの大反対を受け、地位を退くことになりましたの。


 外国にいたアタクシにも連絡が参りましたわ。王太子になって欲しいと。







お花畑公爵の筆頭執事の末路が抜けていたので、修正しました。

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― 新着の感想 ―
短編にしとくのは勿体無い…是非とも続編が見たい♥ 王女なら王太女ですね〜♥
おぉ、王太子になられるのですね。 侍女さんたちも大量帰国で国を支えるのでしょうか? 楽しみです。 個人的には女の王太子の方が、王国の皇太子より自然だと感じます。
王太子と言うか王太女になったの?
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