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ブックシェルフ

呪いを解いて本当のあなたと

童話風 烏屋ちゃんの吸血鬼√で書こうと思って匂わせだけして結局書かなかったネタのリメイク全年齢版

令和コンプラ的にアウトなところあるかもだがコンセプト的にアレなので


フローラは魔法使いの一人娘。魔法使いの城の中で、元気にお転婆に育ちました。ですが、彼女ももう17歳。結婚のことも考えなければならない年です。なにしろフローラには父のような魔法の才はないので、ずっとこの城にはいられないのです。

「いいか、フローラ。次のお城での舞踏会にお前を連れていく。それまでに淑女としてのマナーや振舞いを身に着けるんだ。なにしろ、王子から直々に、お前に興味があるという招待が来たからな」

「お父さま、そんな突然言われても困ります。僕はそんな、淑女の振舞い方なんて全然知りません」

「だから今日からみっちり教育を受けてもらうんだ。王子の招待は断れないし、お前の嫁ぎ先も見つかるだろうからな」

「そんなぁ…」

フローラはあんまり乗り気にはなれませんでしたが、城主である父には逆らえません。着慣れない足首まであるドレスを着て、ヒールの高い不安定な靴を履いて、朝から晩までみっちり淑女の教育を受けることになりました。毎日厳しく指導されて夜になると疲れ果てて朝までグッスリ眠ってしまうほどで、夢の中までレッスンでいっぱいでしたが、少しずつ形にはなって二月もすれば少しはそれらしく振る舞えるようになりました。そうするとレッスンは少し減らされて美しいレディになるための体磨きが加わりました。剣を振りまわして固くなった手にクリームを塗りこまれたり、外を元気に走り回って手入れもしないので荒れていた肌にケアをしたり。伸ばしっぱなしで適当に切っただけの髪を整えていったり。深窓の令嬢とはかけ離れていますが、レディらしい躯になるように手入れをされ、良くなってきたら化粧の仕方も教えられました。舞踏会の為のドレスも仕立てが始まります。

「私に一から淑女教育するよりも適当な年頃の少女を探した方が早いし手間もなかったでしょうに、何故お父さまは此処までして私をレディに仕立て上げようとしているの?」

「あちらはお前の顔を知っているから身代わりは立てられん。それにお前を気に入ったら、王子の所有するバイコーンを種馬に貸し出してくれる約束になっている」

馬と引き換えに嫁に出されるかもしれないと聞いて、フローラは少し悲しい気持ちになりました。最近まで好き勝手しても放っておかれたのは父が彼女に関心がなかったからだというのはわかっていましたが、父にとっての自分の価値が具象化されたようで嫌だったのです。とはいえ、今更淑女教育に反発するでもなく、日々が過ぎていきます。

そんなある日、いつもなら夜ベッドに倒れるように眠ってしまうのに、その日は眠気がやってきませんでした。疲れていないわけではありませんが、どうも眠くないのです。偶然にもその日は満月で月光が明るく庭を照らしています。

フローラはこっそりと夜の庭を散歩することにしました。寝間着にぺたんこの靴で、久しぶりに足音を立てないように外に出ます。ひっそりとした庭はいつもとは別物に見えました。羽織を掻き合わせて何とはなしに歩いていると、気付けば厩に来ていました。馬たちは眠っているようで静まり返っています。

何気なく厩の中を見回して、フローラは厩の中に一人の美しい少女が立っているのを見つけました。

「…え?」

まるで月の光に人の形を与えたような美しい少女が、彼女の声に気付いてこちらを見ます。彼女を見た少女の目が大きく見開かれました。目が合って、フローラは無意識のうちに少女へと歩み寄ります。

「ああ…お願いです、どうか、魔法の轡を外してください」

「魔法の、轡」

「わたくしの呪いを解けるのは、あなただけです。わたくしのフレン」

それが自然なことであるかのように、少女の前に跪いていたフローラの頬に、少女の零した涙が落ちました。その途端、彼女は…否、()は思い出しました。彼は魔法使いの娘のフローラではなく、この少女、ヴィオレッタ姫を助けに来た彼女の騎士、フローレンスであるのだと。悪い魔法使いに攫われた姫を助けるために魔法使いの城に乗り込んだ彼は返り討ちにあって、それまでの記憶を喪い、偽物の記憶を植え付けられていたのです。筋骨隆々ではないにしろ、幼い頃から騎士として鍛えられてきた彼にレディの振舞いができないのは当然のことでしたし、鍛え上げられた筋肉にふわふわのドレスはミスマッチです。フローラになっている間、剣の鍛錬を怠っていたようなものなので多少筋肉は萎えていますが、彼はどこからどう見ても立派な男性騎士でした。

「…申し訳ありません、ヴィオレッタ姫。魔法使いにまやかされるなど、騎士として未熟の極み。必ずや魔法使いを倒して、あなたをお助けいたします」

「あなたが淑女教育を受けさせられているのは、この厩からも時々見えておりました。もしやあなたは本当はレディになりたかったのかと思い始めていたところです」

「それは誤解です。私は女になりたいと思ったことはありませんでしたし、女と思い込まされていた間も望んで教育を受けていたわけではありません。ただ、それが己の役目なら仕方ないと諦めていただけなのです」

姫と固く約束をして自室に戻った彼ですが、安穏としてはいられません。なにしろ彼は一度魔法使いに負けているのですから、闇雲にリベンジしてもまた返り討ちにされるだけでしょう。それでいて、舞踏会までに決着をつける必要があります。万が一フローラが王子に見初められれば、寄越されるバイコーンが他の馬と共に馬に変えられている姫を穢すかもしれないのです。

「魔法使いといえど、人間なら何か弱点があるはずだ。何か、ないか。なにか…」

フローラとして過ごしていた日々の中に何か突破口がないか、と彼は考え込みます。直接、フローラを指導し、あるいは世話をしていたのは、大体が魔法使いの使い魔たちでした。そもそもが城のことを担っているのは大体、雇われた人間ではなく使い魔たちなのです。それはおそらく、魔法使いがそれだけ人間を信用していないということでしょう。フローレンスの本当の父親は王国の騎士団長で仲間との信頼を大切にしている男ですから正反対です。

「…そうだ、お父さまの部屋と、もう一つ、勝手に入ってはならないと固く言いつけられている部屋があった。あそこに何か、秘密が隠されているかもしれない」

そう思ったところで、しかしもう疲労も限界だったのでベッドに倒れるようにして眠ってしまいました。

そうして朝になって、自分が全て思い出していることを知られない為、いつも通りを装います。いくらひらひらのドレスに身を包もうと、化粧をしようと、彼が男であることは誤魔化せません。

何故自分は女であると疑いもしなかったのかと思うほどに、彼はもう体格からして立派な男です。フローラを所望したという王子がこれを知っているとすれば、大変に趣味が悪いとしか思えません。あるいは舞踏会は彼を辱めるための悪趣味な処刑場のようなものかもしれません。一思いに殺される方が幾分マシなのかもしれません。

兎にも角にも、レッスンの合間の休憩時間に、彼は出入りを禁じられている地下室に侵入しました。

そこには魔神を崇めるための立派な祭壇が設置されていました。魔法使いの邪悪で強大な力はこれが由来であるに違いありません。彼は祭壇に捧げられていた怪しく光る水晶を石床に叩きつけて割りました。それから祭壇自体も破壊していきます。

粗方壊したところで、息せき切った魔法使いが地下室にやってきました。

「貴様、いつから思い出していたのだ…!」

「昨夜からです。さあ、魔法使い、今度こそ私はあなたを倒して姫を取り戻します!」

「小癪な…!」

彼が祭壇まで破壊していたことで、魔法使いは魔神に授かった力どころか元々己が持っていた力まで損なっていました。老いぼれ老人よりも、多少萎えたとはいえ鍛えた体を持つ若者の方がフィジカルが強かったので、騎士は魔法使いに打ち勝つことができました。

「何故一思いに私を殺さなかったのですか、魔法使い」

「…貴様とヴィオレッタ姫が結ばれることで、魔神様を打ち倒す可能性を秘めた勇者が生まれるというお告げがあった。だが、勇者を産む力は、宿主が死ぬか再起不能になれば他の者に移る。魔神様にとって都合の悪い時期に勇者が攻めてこないようにするためには、印持つ者をこちらの手の者の元で生かさず殺さず確保しておく必要があった」

「私と、姫さまが…?!」

確かに、姫を邪悪な魔法使いから助けたという功績があれば、騎士と姫が結ばれることもありえないことではないでしょう。それで勇者が生まれるという託宣があればなおさらです。それでなくとも、二人は昔から惹かれ合うところがありました。騎士が姫を助けるための旅に出されたのも、そのあたりが影響していました。

「ああ、忌々しい。あと一息で、お前たちを生き別れにさせてやれたものを」

「私と姫の愛はあなたたちの邪悪な力には負けないのです」

そう言って、彼は姫の待っているであろう厩へと向かいました。昨夜、姫の立っていた場所に美しい白馬が轡を噛まされて立っています。騎士が轡を外すと、白馬は姫へと変わりました。

「遅くなりましたが、助けに参りました、ヴィオレッタ姫」

「ああ、本当にずっと待っていたのよ、フローレンス」

二人は感極まったようにお互いを抱きしめました。

そのまま暫く抱き合った後、姫がポツリと言います。

「それにしても、随分慌ててきてくれたのね、フレン。ドレスもヒールもボロボロになっているわ」

「随分待たせてしまいましたから、できる限り早く姫様を解放したかったですし…着替える服が城の何処にあるかを知らないのです。元々着ていた服は行方不明ですし」

着替えるドレスなら部屋にあるかもしれないが、姫の前に出るのに騎士服ならまだしもドレスに替える気にはなりませんでした。

「じゃあ、帰る前に着替えを探さなくてはなりませんね」

「それは姫様も同じですよ」

姫はネグリジェにも等しいような薄い衣しかまとっていません。どう考えてもそのまま外を出歩けるような格好ではありません。

「では、揃いのドレスでもいいかもしれませんね」

「全然よくありませんよ…」

そんなこんなで姫と騎士は無事に王国へと帰り着き、祝福と共に迎えられました。そして神託の後押しもあって二人の結婚が決まりました。姫は兄がいるので臣下に降る形です。

二人は仲睦まじい夫婦になり、複数の子供が生まれました。騎士にしては物腰の柔らかな夫と、少しお転婆な妻。妻を夫がよく支え、国の発展に貢献しました。そして、二人の子供の内の一人が神託の勇者となり、魔神を打ち倒すための旅に出たのは、また別の物語です。



R18ルートもある(花園の方に入れてある)けど知らないまま終わっても大丈夫です

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