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Dauphin pourri

作者: 霧間ななき

『ぼく』と『キミ』は普通の高校生。

二人で下校途中に突然目を開くと古びた暗い洋館の広間に立っていた。

なんの前触れもなく、突然。

誰かに連れてこられたなんてこともない。


その広間には彼らを合わせて十六人ほどの老若男女が集まっていた。

シャンデリアには薄暗く頼りない照明が灯されている。

わけのわからなさそうな顔をしてる人もいるが落ち着いた感じの人もいた。

その部屋は使われていた頃には舞踏会でも開いていたのではないかと言うほどに華美な装飾が施されている。

しかし、それも空しくすでに寂れて物置のように様々なものにあふれてごちゃごちゃになっていた。


その中心に黒板があり、その前にサングラスをかけた一人の男が立っている。

白いスーツ姿の彼はふとすればやくざのように見えないこともない。

彼はぼくとキミが彼に注目したところで語り出した。


「わけわからないって顔してるな?まぁ案ずるな。ここにいる連中はほとんどみんなわかってねぇ。

俺か?俺も知ってる情報はある程度あるけどそりゃ前の人に教えてもらっただけだから実際どうなんだかは知らねぇ。

だが実際俺たちはこんなところにいるわけだし、あいつらはもういなくなっちまったんだから信じるしかねぇ。

つーことでま、説明してやるからよく聞けよ?」


そうして彼は説明しながら黒板にまとめていく。


・これから二十四時間、この屋敷内を徘徊している化け物に捕まらなければ生き残れる。

・捕まったら繰り返す。次回の最初からやり直し。それまでの間やつらにいたぶられ続ける。

・時間までにこの屋敷の外に出れば賞金、もしくはなんらかの特典がある。


「時間内逃げ切るのは難しい。やつらは屋敷の中いたるところにいる。そして体力なんてものが存在しない。

だが俺たちの体力は有限だ。屋敷の外に出ることだけ考えろ。

それとこの屋敷は常識に囚われてはいけない。おかしなことが普通に起きる。

いちいち驚いていたら身体も心も持たない。

それと、この屋敷には窓がないが屋上からだけは外をのぞくことができる。

日を拝みたいやつは屋上に行けばいい。

ただし、屋上へはいったら最後、もう逃げ道はない。

屋上は閉じられていて外には出られないからだ。

以上、質問はあるか?」


彼の説明はそこで終わり、誰も質問はしなかった。

そして彼は部屋の壁に掛けられた時計を示す。


「あれが鳴ったら開始だ。健闘を祈る」


そして、言い終わって間もなく。



ゴーン、ゴーンと壁掛け時計には似合わないほど重厚で大きな音が鳴り響いた。



次の瞬間、景色が一気に変わる。

シャンデリアの光が一層弱くなり、周囲に泡が浮かび始めた。


「なんだこれ?」

「しゃぼんだま?」

ぼくとキミは不思議に思ってそれを見つめる。

しかしそれはしゃぼんだまではなかった。


パァン!


風船のように大きな音を立ててそれが破裂する。

その音とともに広間の外、向かって右側の扉の向こうから轟音が響き出した。

地鳴りのような、叫び声のような、地獄のそこから響いてくるかのような低い音。


全員の叫び声が重なる。

明らかにまずいものだと嫌が応にも認識させられる音だった。

何かがこちらに向かってきている!



逆側の扉に全員が殺到した。

サングラスの男を含め数人の姿はもうない。

さっさと逃げていったと言うことらしかった。



ぼくは後悔しながら走ろうとして気付く。

キミがいなくなっていた。

あれ?さっきまで手を握っていたはずなのに、そう思った瞬間――



バァン!!



逆側の扉が吹っ飛んだ。

まずい、そう思って扉からぼくも外に出る。


廊下に出ると違和感を感じた。

暗い、そして静かだ。

後ろの部屋からは轟音が聞こえているはずなのに部屋の中とは違って地面が揺れることもない。



そして理解する。これが常識に囚われるなと言うことか、と。

暗すぎて見えないはずなのに足元だけが見えていて、その先に続く道だけが見える。

しかし壁や突き当りなどはまったく見えない。

そのまま走り出す。


だがおかしい。

自分の前には三人しか人がいなかった。

さっき扉に殺到した時はもっといたはずだが。

後ろにもいたはずなのにその人も消えてしまっている。



ぞっとした。

まさかもう捕まったのか?

何に?何かいるのか?

どこに?暗すぎて何かがいたとしてもまったくわからない。


とは言えこのまま一人になるのはまずい気がした。

だから目の前の三人についていく。



先行しているのはぼくと同じ歳くらいの少年だった。

被ったままのパーカーのフードが風を受けて揺らめく。

右目に医療用の眼帯をしているがそれがあっても十分かっこいい顔をしているように見えた。

その後ろには細身でメガネのおじさん。

もう一人は少しぽっちゃりとした背の低いおじさん。


先行している彼には何かあてがあるのか迷いがなかった。

しかし後ろの二人はきょろきょろと見回しながら不安そうに彼を追っていく。

おじさんたちの気持ちはたぶんぼくと同じなのだろう。

わけがわからない。どうしたらいいのかわからない。とにかく怖い。

頼れるものがあればなんにでもいい、頼りたい気分だった。

だから彼についていく。


彼は突然道を曲がり、そこにあった螺旋階段を昇りだした。

それまでもいくつもの道があったけどそれに見向きもせずに。

これは何か確信があるのだろうと少し安心する。

逃げられるかもしれない。

何からかもまだわからないが何か恐ろしいものがいるのは間違いない。


キミは大丈夫かな。

どこに行ってしまったんだろう。

彼女だけがもうすでに捕まってしまっていたらどうしよう。

でも捕まるのは怖いし。

あんな轟音をさせるやつに捕まったらどうなるかわからない。



不安になった瞬間、視界の端に何かが移って顔を上げた。



「――うわぁあああ!?」

「な、なんだこりゃ!?」

先行するおじさんたちが叫び声を上げ、ぼくは驚きに口が開いたまま閉じることができない。



イルカが、浮いていた。

空中をゆっくりと泳ぐイルカ。


だが、そのイルカは普通ではなかった。



「なんだこれ、腐ってやがる!?」

「うわ、なんかぶよぶよしてません?これ」

そう、空飛ぶイルカは腐っていた。

緑や茶色、黒に染まりながらぶよぶよとした腐肉をまとったイルカがそこにいる。

これが俺たちを捕まえに来る化け物!?


驚いて距離を取る。

腐ったイルカはその動きににごった黒い目を合わせてきた。


ヤバいかな、と思ったのだけど見るだけで腐ったイルカは動かない。



「あぁ、そいつらはそこにいるだけだ。そいつらは何もしてこない」

少年が声を上げる。

少しうんざりしたような声だった。

どうやら階段を腐ったイルカにふさがれてしまって進めないらしい。


「ソレよりその内ヤバいのが来る。早く逃げるぞ」

「ヤバいの?」

これでも十分ヤバく見えるけどなぁ。

気持ち悪いし。


そう思ったら思いっきり嫌悪感を持った視線でこちらを見られる。

「クソが。もう来やがった!」

「え?」



振り返ると、長い髪の女がいた。



その髪は手入れされていないかのようにぼさぼさで、顔も覆い隠してしまっている。

白い布を羽織っているが服といえるのかどうかすら確認できないほどに髪に覆われていた。


長い髪の女の髪の隙間から唇がのぞく。



ニタァ、と、気持ち悪く紫の唇が歪んだ。



「逃げろ!!」



少年が叫んだ瞬間、女が動き出す。

べち、べちと粘着質の何かを足にくっつけたような嫌な音を立てながら女はどんどんぼくに近付いて来た。


気持ち悪い、ヤバい、こいつ、腐ってる!?


何かで見たゾンビのようだった。

身体が腐っている。

死んだ人間が動いているようにしか見えない。


ソレを理解した瞬間、自分の足がようやく動き出す。



上に向かって走り出した瞬間、少年の前にうようよしていた腐ったイルカが退いて、四人でそこを駆け上った。



「クソ、こいつらが邪魔すぎんだよ!」

「あれって触ったらまずいんですかね?」

メガネのおじさんが少年に尋ねた。

「触りてぇなら止めないけどな。まぁこいつらは触っても害はない。だが気持ち悪いんだよ」

不快そうに少年はつばを吐き捨てる。


腐ったイルカはいたるところに浮かんでいた。

その数は十や二十ではない。

特に何もしてこないから見た目がグロテスクな以外ちょっとかわいいとさえ思える外見だった。

しかし、やたらと道にふさがるので邪魔で仕方がない。



おかげでおじさんたちとぼくは腐ったイルカを退かすために触れなくてはならず、手になんか気持ち悪いぶよぶよしたものが付着していた。

階段はまだまだ上に続いて行く。

しかしイルカが多すぎて足の遅い長い髪の女とあまり距離が開かない。

気持ち悪いべちべちという足音がずっと聞こえ続けてきて気が狂いそうだった。



上に行くに連れてなんだかおかしな音が聞こえ出す。



――クス、クス



なんだ?と思って上を見上げるけど暗すぎて見通せない。

金の右目をした腐ったイルカがこちらを見ていた。

また邪魔なとこにいるんだろうか。




――キャハハハハハ




さっきよりはっきり聞こえて、背筋が凍りつく。

空気が冷え始めた。

なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!?



足元にクレヨンで描かれたような白い影が現れ出す。



白い影は一つだけじゃなかった。


足元だけじゃない。

壁にもどんどん増えていく白い影。



――クスクス、キャハハハハハ



白い影は笑い出す。

さっきからの声の正体はこれなのか!?

これは、捕まったらやばいものなんじゃないか?


階段の壁の方へ飛びのいてあとずさる。

すると後ろに廊下が現れた。

そちらは白い影が少ない。



「こっちだよ」



声が聞こえた。

聞き覚えのあるような、ないような。

特徴のない子供の声。

その声には笑みの色が浮かんでいる。



「あっちだよ」



真後ろからの声に驚いて振り返る、が誰もいなかった。



「そっちだよ」



真横から声が聞こえた気がして目だけを移動させる。



すると、そこには口を開けた白い影が――



「うわぁああああああああ!?」



「ぎゃぁああああああ!!?」



「く、来るなぁあああああ!?」



自分の声とほぼ同時に少し上のほうからおじさん二人の声も聞こえてびくりと肩が震えた。

しかし振り返るより前に走り出す。


ヤバい、構ってなんかいられない。

逃げろ、逃げろ、逃げろ!



白い影から少しでも距離を取ろうと廊下に向かって走り出す。


しかし、行き先にもどんどん白い影は増えていった。



そして、皆口それぞれに言うのだ。



「こっちだよ」「あっちだよ」「そっちだよ」



白い影は口を開けてケラケラと笑いながらいろんな方向を指差す。

わけがわからなくなった。


なんなんだこいつら!?


そう思っているうちにどんどん増えて行き、口々に言いながら指を差す。



「こっちだよ」「あっちだよ」「そっちだよ」



そして指差すごとに道が増えていく。

まずい、厄介なのに見つかってしまったのかもしれない。


どっちに行けばいい?こいつらが指差してるのは何?

そっちに行くとまずい気がした。

だとすれば指差していない方だ!


誰も指差していないほうに走り出す。


しかし、直後にそちらにも白い影が増えていった。


「こっちだよ」


そいつらはみんなそちら側を指差す。

怪しすぎるだろ!?

振り返って逆の方に走り出そうとした。


「あっちだよ」


後ろのやつらが声をそろえる。


ゆっくりと首の向きを変えると、そいつらは全員ぼくの行こうとする方向を指差していた。


なんだ!?どうすればいい!?どうすればこいつらから逃げられる!?


「そっちだよ」


そいつらは再び指の向きを変える。

そちら側には道が続いていた。

信じていいのか、信じたらまずいのか、もう、わからなくなる。



しかし、悩んでいる暇がないことに気付いた。


べち、べち、と言う粘着しつな足音が響いてくる。


ヤバい、あいつもう来た!?

さっきから忘れて立ち止まってしまっていたからだ。

まずい、どうする?どっちに行けばいい?

こいつらは罠なのか?何もしてこないのか?

もうわからない。どうしたらいいのかわからない。


しかし、もう、行くしかないだろう。

だって、



長い髪から覗く唇が、ニタァ、と歪んだ。



一気に駆け出す。

最後に白い影たちが示した「そっちだよ」の方向へ進んだ。

信じたとかそういうわけじゃない。

もうどうしようもないから、そちらに向かっただけ。



「ハァ、ハァ……、白い影、もう、いない……?」

足元にも後ろにもあの白い影はいなくなっていた。

撒けたということだろうか。

だとしたらいいんだけど。

でも、まだ長い髪の女がいる。

どうしよう?


そう思った瞬間目の前に階段が現れた。


これ、昇れってことか?

大丈夫なんだろうか。

って言うか他の人はどうなったんだろう。

それに、本当にこの屋敷はどうなってるんだ?

もうわけがわからない。


なんでこんなに道ができたり消えたり突然変わったりする?

ありえないよ、こんなの。



それでも足を止めずに昇っていく。

するとなんだか上のほうから紅い光が漏れてくる気がした。



「も、もしかして……!」

出口が見つかった!?

解放される!

こんな状況から抜け出せるならもうなんでもよかった。

白い影に感謝すら抱ける。

あいつらが最後に指してくれたおかげで逃げられるんだ。

あの時のぼくの判断は間違ってなかったってことなんだな。


ほっとしたら疲れがどっと来る。

あともう少しだ。

あともう少しで解放される。





















夕日のような光がまぶしくて先が見えない。














昇りきった。










そこは、
















「ようこそ、絶望の屋上へ」


「嘘、でしょ……?」


そこは屋上だった。

ガラス張りのドームに包まれたその小部屋にはあの少年がいた。

うざったそうに腰をかけたまま沈みかけている太陽を見ている。

ガラスの外には屋根が見えた。



その下には庭が広がっている。



広がりすぎなくらい広い庭だった。

いや、もはや山と言ってもいいかもしれない。


「ねぇ、これ、外に出ても助からないんじゃ……?」

「さぁな。あのグラサン男を信用するつもりはないがここにずっといるつもりもないんで俺は外に出る」

「こんな森の中からどうやって街に帰ればいいの?って言うかここどこなわけ?」

「うぜぇなぁ。質問してばっかじゃなくて自分で考えろよ」

「う、だって、情報が少なすぎてわけわかんないんだからしょうがないだろ!?」

「能無しを情報のせいにすんなよ」

「い、言わせておけば……!」

「あー、キレるんだ。あっそ、キレればいいじゃん。それで気が済むんならな」

心底呆れたという表情の彼を見て一気に冷静になる。


「ご、ごめん。八つ当たりだった……」

「どうでもいい」

「さっきから助けてくれてたのに変なこと言って……。あ、そうだ、ありがとう。あんたがいてくれたおかげでまだ生きてる」

「助けたつもりはない」

「でも、助かったし。あんた、もしかして良い人なの?」


「ハァ?何言ってんの?何言っちゃってんの?バカじゃね?

ちょっと行きがかり声かけただけで良い人扱いとかどんだけゆとりなわけ?

世界には善人ばっかりあふれてんですか?人は基本的に善意で動いてんですか?

冗談じゃねぇよ。人間は自分のことしか考えてねぇよ。

お前だってそうだろうが。自分さえ助かりゃいいんだろ。

他の二人はもうダメだろうにソレを気にすらしねぇ。

なのに俺を善人扱い?クハハハハ、笑える。おめでたすぎだろお前。

俺はお前みたいな偽善者とか善人信仰者が大っ嫌いなんだよ。さっさとくたばれこのクズが」


言うだけ言って彼はぼくを見下した目で見てくる。

言葉を返そうとして、返せるほど自分が良い人間じゃないことがわかっていて何も返せなかった。

確かに言う通りだ。

ぼくもやっぱりぼく自身が助かることしか考えていない。

他なんて二の次。

今は余裕ができたからこうして考えてるけど、余裕のない時の思考がぼくの本性なのだ。

自分だけ逃げ切れればよかった。

だから、今ここにいる。

誰かにここを知らせようとするでもなく、一人でここに来た。


返す言葉なんて、あるわけもない。


「反省しちゃったか?くふふ、間違いねぇだろ?」

「……」

それでもうなずくのが嫌で、反応するのをやめる。

にやにやと彼が笑っているのがわかった。

「お前、生き残ったらまた遊んでやるよ。おもしれぇ」

「お断り、だよ」

「お前に決める権利はないん――」



にらみ合いそうになった瞬間、ぺち、と言う音とともに二人で黙る。



気のせいだと思いたい。

気のせいであってほしかった。

けれど、今、間違いなくその音が聞こえたのだ。


終焉の足音が。




ぺち、




ぺち、



ぺち、


ぺち、


ぺち、

ぺち、

ぺち、





音が沈む。

ゆっくり昇ってきていたはずの音が消えて、二人で止めたままの息を緩く吐き出していく。

こちらには気付かなかったのだろうか。

だと、いいんだけど。








だけど、そんなにうまく行くわけもなく――








――ぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺちぺち!



バァン!!



閉じられた屋上のガラス扉に長い髪の女が衝突する。



「うわぁああああ!?」

「叫ぶな!」



その声が聞こえた瞬間、



ニタァ、と女が笑った。



ひく、と息が止まる。



怖い、怖い、怖い。

こいつはヤバい。

他のやつとは絶対に段違いだ。

こいつに捕まったらアウト確定だろう。

でも、逃げ道はない。

ここは密室だ。

ガラスも割れる気配のないほどに硬い。


時間までここで乗り切る?


無理に決まっていた。

あんなやつがあそこにいるのにあと恐らく二十時間以上ここで留まるだなんて精神が耐え切れるわけがないだろう。

じゃあ、どうすればいいんだ?


扉を開けて逃げ切る?


足は遅いから開けてすぐ横を通り過ぎれば逃げられるかもしれない。

けど、それは一人だけだった場合だ。

二人も逃げ切れるわけがない。

だとすれば、だ。


少年と目が合う。

彼はにやりと笑った。



バァン!!


バァン!!!


ドォン!!!

ドォオン!!!!



長い髪の女の扉を叩く音はどんどん大きくなっていく。

早くしないとどちらも逃げ切れない。

先に行ったほうだけしか生き残れないのだ。

そして、こいつは間違いなくぼくを見捨てられるやつ。


なら、先に行かなければぼくは逃げ切れない。


こいつより早く扉に!



そして、




「お前が扉を開けろ、その瞬間俺が扉を蹴飛ばす」


「は?」

そんな驚きの言葉を放った。

「どういうこと?意味がわからない。それじゃどっちもやられるに決まってるんじゃ」

「お前に見込みがあると思ったからな。今俺を見捨てて逃げる選択肢を選べただろ。だったらお前、合格。運が良ければ逃げ切れ」

「いや、だから、そんなやり方でうまく行くわけが」

「うまく行くんだよ。あいつ、上半身はあんな強いけど下半身クソよえぇんだ。だから、のけぞった瞬間に――」


長い髪の女は振りかぶって、


ドォオオオン!!!!!


凄まじい威力で扉を叩いたあと、少し後ろにのけぞって下がる。


あぁ、なるほど、確かに足腰は弱そうだ。



「せーので扉を開放しろよ」

「わかった」





タイミングを計って、長い髪の女が扉を叩いて、




ドォオオオオオン!!!!!!!





「せーの!」




扉を開放した瞬間、彼が飛び蹴りで扉を蹴飛ばす。


一気に開いた扉に長い髪の女が吹っ飛んだ。




「よし、今だ、逃げろ!」



彼が言った瞬間、ぼくも走り出した。


長い髪の女は階段を落ちて倒れこんだ状態で怯んでいるようだ。

その横を通り過ぎながら、逃げ切れる、と思った。




――瞬間、




「うまく逃げ切れよ、バーカ!」




ぼくは階段に倒れこんでいた。



どうやら彼に足を払われたらしい。


まずい、と思ってすぐに体勢を整えた瞬間、




ぴたり、と




肌に冷たくてヌルついたものが当てられる。




「うわぁああああああああはなせぇえええええ!!?」



長い髪の女がすでに起き上がってぼくの上にのしかかってきていた。

まずい、まずい、最悪だ!

嫌だ、気持ち悪い!触るな!?


ブンブンと手を振って抵抗するが長い髪の女には無意味らしく、その両手がぼくの頭をつかんだ。


これは、ヤバい!

ここで何かされたらたぶん終わりだ!


どうすればいい、どうすればいいんだ?

下半身が弱い?

けど今のしかかられているせいでどうやっても下半身にダメージなんか与えられない。


もう、考えている余裕はなかった。

女の顔が近付いてくる。


髪の毛がぼくの顔にかかった。


紫色の唇が開かれて口の中からどろりとした液体がたれてきて顔につく。

気持ち悪い、吐き気がする。

もう嫌だ。帰りたい。こんなところでこんなやつに殺されて終わりなんて、嫌だ!


一か八かだ。

届く範囲はそこしかない。


長い髪の女の髪を上に引っ張って、次の瞬間、下腹部を思いっきり殴った。


初めて女性を殴った気がする。

しかし罪悪感も何も抱いていられない。

どうやらダメージを与えられたらしく、抑え込んでくる力が弱まった瞬間、長い髪の女の身体を振り払って一気に立ち上がる。


間髪入れずに走り出した。



次の瞬間には長い髪の女は復活して立ち上がっている。

ヤバい、なんだあの回復力!?

サングラスの男が体力に限りがないって、そういうこと?

それ、無敵ってことじゃないか!


とにかく逃げろ、逃げるしかない!









降りていくと後ろからの音がなくなってだいぶ距離を離したようで、ようやく一息吐く。

顔についた液体を拭い取った。

気持ちが悪くて仕方がない。

部活をしているにしてもこんだけずっと走り通しはきつくて仕方がなかった。

それに長い髪の女も気持ち悪かったし。

もう二度と見たくない……



できるだけ早く離れようと思って下に降りていく。






だが、やはりこの屋敷はそんなに甘くないらしい。





――クス、クス





ヤバい、白い影が来た気がする!!





――キャハハハハハ





急いで降り始めた時にはもう遅かった。





白いクレヨンで描かれたような影はぼくを取り囲むように増えていく。





今度は焦らず対応すれば、きっと、大丈夫なはず。

そう思って白い影たちをよく見る。


彼らはよく見てみると子供のラクガキのようだった。

白い子供の影。

そして皆それぞれ様々な方向に突き出した手と指で示す。



「こっちだよ」「あっちだよ」「そっちだよ」



と言うか今気付いた。

対応策なんてないじゃないか。

だって結局信じた時も外に出られたわけではなく屋上に出てしまった。

そしたらなおさらピンチになったわけだ。


じゃあ、どうする?

指してない方向に行ってみるか?

でも、差してない方向なんてない。






ん?






この屋敷、道が勝手にできたりするんだよなぁ。

だとすれば。彼らが絶対に指差さない場所があるじゃないか。


攻略法がわかった気がした。

一度惑わされてからが勝負だ。

たぶん、それでぼくは自分の目指すところにたどり着ける、はず。



外に出たい。

できれば他の人も一緒ならいいけど、そうなると出られなくなるならもう、ぼくだけでも出してほしいと思う。

こんなところにいたくない。

少しでも早く出たかった。




止まっていると、白い影が集まり始める。


「こっちだよ」


道ができていく。

それには騙されない。

振り返ってそちら側に一歩だけ踏み出す。


「あっちだよ」


彼らはそちら側を指差した。

これも、違う。

方向をもう一度変えてやった。


「そっちだよ」


よし、今だ!






白い影たちの『中に』飛び込んだ――




















気付くとそこは最初に集まっていた広間だった。

まさか、失敗してぼくは次の回に来てしまった、のか……?


いや、それにしても白い影に取り込まれている間の時間なんてのはなかった。

ふと思いついて時計を見に最初いた辺りまで歩いて行く、と、



「あ、いた」

「き、キミ、生きてたんだ!よかったー……」

彼女もそこにいて、ぼくの顔を見て笑う。

今まですっかり意識の外だったけどそういえば一緒に来たんだった。

無事でよかったと思う。そうじゃなきゃさすがに罪悪感で辛くなりそうだ。


「そっちこそ無事だったんだねぇ」

「なんとか、ね。結構危うかったけど」

「あたしもなんとかギリギリ大丈夫だったよ」

「最初いきなりいなくなっちゃうからどこに行ったのかと思ったよ」

「あたしもいつの間にか移動しててよくわかんなかったんだよー」

「そっか、でも、無事でよかった」

安心してから周りを見渡すと、そこには数人の人たちが集まっていた。

皆始まる前に見た人々。



リタイアして最初からになった人、じゃない、よな?

最初に見たときは皆無傷だった。

と言うことはたぶん回が変わると傷とかは治るんだろう。

しかし今ここにいる人たちは皆一様に傷付いている。

人数を数えてみるとぼくとキミを入れて七人ほどだった。

その中にはあの少年もいる。


ニヤニヤと彼は笑っていた。

少しカチンと来たが今そんなことで体力を使うのは無駄だとわかっているのでやめておく。

見回してみたがあのメガネのおじさんとぽっちゃりしたおじさんはいなかった。

たぶんリタイアになってしまったんだろうな。

もう今更気にしても仕方がないので時計を見る。


最初にここに来たのが午後三時くらい。

今の時間が午後七時ほどだった。

正直絶望的だと思う。

四時間でこれだけ消耗するのに二十四時間なんて確かにあのサングラスの男の言う通り無理だ。

そのサングラスの男はここにいないし、逃げ切ったんだろうか?

それにここで集まってどうするんだろう?



集まれば身代わりにできる相手は増える。

けど、逆に足の引っ張り合いもあるし、身代わりにされることもあるのだ。

とにかく今はぼくとキミだけでも逃げ切らなければ。

キミを置いていくのはさすがに良心と愛情故に無理だった。

恋人なのだ。放って置けるわけがない。

一緒に逃げなくては。


しかし、どうしよう。

正直どうやって出ればいいのかもわからない。

頼みの綱だった白い影も結局ここに通じてしまったと言うことは出口ではないんだろうし。

じゃあどこに出口はあるんだろうか?





「皆さん注目!実はこのワタシ、超能力者でございまして、時間を止めるっていう超能力が使えるんですヨ。もしかしたらみんなで逃げられる道があるかもしれまセン」

金髪に灰色のスーツ姿の男が突然大きな声でそんなことを言い、注目を浴びる。

「超能力~?なんなのそのアヤシー感じ。ありえないっつのー」

浅黒い茶髪の女の人がそれを否定した。

そうだな、とうなずくのは中肉中背のがっしりとした感じの男。

「まぁまぁ、話だけでも聞いて見ましょうや。本当にできるんならあいつら出し抜けるかもしれませんしねー?」

にやにやとした太った男が彼の隣に歩み寄っていく。


少年は興味がなさそうに倒れた本棚に座りながらこちらを見ていた。

ぼくとキミはその場を動かないまま様子を見守る。

彼らは全員でその金髪男の周りに集まった。


「キミたちはいいのデスかー?」

「お気になさらず」

「見てるだけー」

ぼくとキミの言葉に彼は残念そうに肩をすくめる。







彼はみんなが注目する中、壁掛け時計の下で宙に手を掲げた。

胡散臭いなぁと思いつつどんなことをやるのやらと見守る。





掲げた手のひらが輝き始めた。

そこで他の人々からおぉ、と感嘆の声が上がる。


何これ、どんなファンタジー?意味がわからない。そんな光景が広がっていく。





彼は金色に輝く手のひら大の魔法陣を上下左右に配置した。



その後すぐにまた時間の位置くらいにすっすっと配置していく。


どんどん大きさの違う魔法陣重ねていき、


徐々に光が強くなっていき、すべてが輝きに包まれていった。



そのさまはとても美しい光の魔法のようにすら見えてしまうほど綺麗。



さすがの少年も驚きに目を見開いてその様子を見ている。

ぼくもキミも声を出せないままそれから目を離せない。


もしかしたらこの人は本当にぼくらを脱出させてくれるかもしれないとさえ思えるほどの光だった。



そしてその光が大きな円形を描いた瞬間、



ゴトン、とかなり大きな赤い目覚まし時計がその場に出現する。



全員が呆然となった。







「えっと、つかぬ事をお聞きしますが、兄さんこれで時間止めるとか言うんじゃないでしょうね?時計の針を止めるとかそういうマジックじゃ?」

太った男がさすがに勘弁してくれよと言う苦笑いでたずねる。

「冗談じゃないわー。期待させないでよー」

呆れた声を出した女の人の隣でがっしりとした男が首を傾げて呆れた表情になった。



「違いますってバ。これを壊すことによって時間が止まるんデス。真実、この世界の時間を止めることができますヨ」

彼はふふんと鼻を鳴らして自慢げに笑う。

全員の目が疑わしげなものに変わった。

「なら壊してみてくださいよ兄さん」

「できるもんならやって見せてよねー」

彼らにせがまれて男は少したじたじと鳴りながらオホン、と一つせきをする。


「壊せれば、の話なんですがネ?実はここに来た時は突然すぎてこれを壊す専門のアンチクロックハンマーを持ってきていないんデス」

「それって結局できないってことなのでは……?」

「なにそれ、そんじゃ使えないってわけー!?」

みんなに憤慨されて心外といった様子で彼はむすーっとしてしまう。


「普段は持ってるんデス。今はたまたまもってないだけなのデス。でも物理的に壊せばいいのでなんとか壊せばいいんデスヨ」

「でもこんな大きなものどうやって壊せばいいんです?」

「アタシパスー。力ないしー」

肩をすくめた女の人の隣でがっしりとした男が時計に近付いていく。



そして、思いっきり、殴った。



ガァン!!



だが固定されていなかった時計は吹っ飛んで壁にぶつかる。

その場にいた全員が驚いていた。


だが時計は少しへこんだくらいでまだまだ普通に動いている。

「物理的に壊すのはちょっと難しいかもデスネー」

「人事みたいに言わないでくださいよ兄さん。あっしら全員の命がかかってんですよ」

「なんとかしてよねー」





そんな彼らを見ていて飽きたのか、少年はこちらに歩み寄ってきていた。

「あれどう思う?」

「滑稽だね」

「だよなー。アホみてぇ。それに、あんなことした上大きな音出したらここも安全じゃ――」



そこで言葉を切って、彼は上を見る。

ぼくとキミも釣られて上を見た。



瞬間、






ドォオオオン!!!


ガラガラガラガシャーン!






天井が崩れて上から瓦礫が降り注ぎ始める。



何事かと全員の視線が上に向く。

そこから覗いてきたのは、







長い髪がぞろりとベールのように垂れ下がるさまだった。







ヤバい、直感的に悟ってすぐ近くの扉にキミの手を引きながら飛びつく。



後ろから嫌な音が大量に降り注いでいた。




びちゃ、びちびちゃっ、べちゃっ!


べちっ、べちゃべちゃっ!

たくさんの長い髪の女が降ってきている。



「ま、まずいデス!急ぎましょう!」


「そんなことより逃げるのが先ですよ兄さん!?」


「やだやだやだ、こっちくんなー!!」




そして、扉を開いた瞬間、逆側の扉に少年の顔が見えた。

彼がにやりと笑って、うなずく。


そして、ぼくは大体のことを理解する。

そうだな、助かるためには、彼らを犠牲にして逃げるのが一番良い。

自分の口元にも笑みが浮かぶのがわかった。



そして、向こうと同時に扉が閉まる。

すぐに鍵を閉めた。



中から叫び声が聞こえる。


ぼくらに対する恨みの声も聞こえ始めた辺りでぼくは我に返り、ここでじっとしている暇がないことを思い出す。



すぐにキミの手を取った。

キミは何も言わずにぼくの手を握り締める。

責められても仕方がない。

でも、それは生き延びられたらの話だ。

すぐにその場を離れて走り出す。



どうする?どうやったら逃げ出せる?

考えてみろ、ぼく。

何かを見落としてはいないか?




ズゥウウウウン!!




はるか後方から凄まじい音が聞こえてきた。

まずい、あいつらもう突破してきたのか?



逃げ道、早く外に出る道を!!



ふと目の端に螺旋階段が映る。

通り過ぎてすぐに立ち止まった。



今までの中でいろいろな情報を頭の中でめぐらせる。



やつらには役目があるはずだ。



表の役目と、裏の役目。





長い髪の女。

捕まえるのは表の役目、裏は……、恐らくルール保持。

時間を止めるのはルール違反なんだ。

だから、あのタイミングであそこに大量の髪の長い女が現れた。


白い子供の影。

道を惑わせる、屋上で絶望させるのが表の役目、裏は広間への入り口、じゃないだろうか。





だとすれば、だ。


腐ったイルカの役目はなんだ?

道を邪魔するのが表の役目だとしよう。


では、裏はなんだろう。

それに掛けてみるしかない。

腐ったイルカが出口だ!

そうじゃなかったらもうどうしようもない!


振り返るともうすでに長い髪の女の姿が見え始めてきていた。



ヤバい、急がなくては!




階段を昇っていく。

道はどうやら変わっていないらしい。

最初に通った時と変わらなかった。

と言うことは昇っていけば腐ったイルカがいるはずだ。






ぺちゃぺちゃっ、と後ろからかなり大またの長い髪の女が追ってくる。

動き自体は遅いはずなのに階段でも速度が落ちないあいつらに対してこちらはただの人間。

しかもすでに体力はかなり失われていた。

速度が落ちてしまって距離がかなりまずいことになっている。

このままだとぼくは追いつかれてしまう可能性があった。

それに比べてキミはまだ体力がありそうで、ぼくを引っ張ってすらくれている状態だ。


キミだけは先に行け、とかかっこいいセリフを吐けたらよかったんだけど。

残念ながらぼくは保身優先の弱い人間だった。

キミの手を離せないまま、先に行けなんていえないままにどんどん長い髪の女たちに距離を詰められていく。





腐ったイルカが見え始めていた。

前に見たときと変わらない。


あれ、どいつが出口なんだろうか。

どれもが出口?そんなことあるか?だとしたら俺たちは最初に来たときに出れたはず。

じゃあ違うだろう。

なら、触れてない腐ったイルカが出口、なんじゃないか?


触ってない腐ったイルカがいるとしたらたぶん上の方で見た金の右目をしたあいつ、か?


そう思ったら急に気力が沸いてくる。

きっと、あいつだ!


「出口、わかったかもしれない!」

「ホント?」

「あぁ、行こう、あともう少しだ!」






――クス、クス






まずい、忘れてた。

そうだったよ、こいつらに初めてあったのもここじゃないか!

もう少しなんだ、もう少しだけ!


すでに金の右目のイルカがいた。

あと半周昇ればたぶん届くはずだ。





なのに、笑い声はどんどん大きくなってきて――





――クスクスクス、キャハハハハハ





白い影があふれ出し始めた。





ヤバい、こいつに触れてしまうとたぶん広間に逆戻りだ!

そうなったらもう、ぼくは体力が持たない。

最後の最後でなんで出てくんだよ!

あとちょっとじゃないか!!



手を伸ばせば届きそうなのに!






白い影があふれ出していく。






どんどん集まって白い孔のようなものがぽっかりと足元にできていた。






さすがに飛び越えるのは無理なくらいの大きさだ。







万事休す、逃げられるわけがない。






耳障りな白い影たちの笑い声。






子供の声が嫌いになりそうだった。






「飛んで!」

「え?」

キミがぼくの目をしっかりと見つめている。


「一緒に、帰ろう?」


「それ、は……」


できるのか?

こんな距離を、飛べるわけが……





そう思って前を見ると、





腐ったイルカがこちらにゆっくり泳いできていた。





こちらをまっすぐに見つめて。





なんでだ?なんでこっちに来る?





腐ったイルカが口を開けた。





飛べってのかよ、本気で!?





あの口の中に!?





危ないかもしれない。


これでリタイアかも。






けど、もうどの道無理だった。







長い髪の女はもうすぐそこまで来ているし、目の前には白い孔。







行くしかない。







「もう、いいや、お前を、信じる!!」


「それでいいの」





キミと二人で軽く助走して――









――腐ったイルカの口の中へ飛び込んだ。






















































気付くと信号の前でキミと手を繋いで立っていた。

「え?」

わけがわからず周りを見渡す。

普通の景色だった。


あそこに行く直前までいた場所で。


わけがわからなくなって携帯の時計を見る。

いや、時計を見るまでもわかっていたことだったが時刻は午後三時くらい。

あそこに行った時間とまったく同じ。

つまり、時間は変わっていない。

どういう、ことなんだ?





しかし、疑問を感じた瞬間、手に持っていた携帯が震え出す。





メールの着信だった。

キミにもメールの着信。

顔を見合わせて首を傾げる。

知らないメールアドレスからのメールだった。


キミもまったく同じアドレスからのメール。


二人で同時に開いてみる。



「――な!?」

ぼくは驚いて声を上げてしまう。

キミは目を見開いてメールを見ていた。





そのメールにはこんなことが書かれていたのだ。





『Congratulations!

 クリアおめでとう!

 『ぼく』の外道っぷりは見ていて楽しかったよ。

 このメールに添付してある住所に今度の日曜日、

 『キミ』と一緒に来ると良い。

 ご褒美をあげるよ。


 追伸:どうやら腐ったイルカが『ぼく』のことを気に入ったらしい。

 また会ってやってくれたまえ。』




添付されていたのは二つの画像データ。

一つは住所と地図。





そしてもう一つは、





フードを被ってにやりと不敵に笑う、金の右目をした少年の姿だった――

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― 新着の感想 ―
本作は実際に見た夢が題材とのことで、それが表れた異形の数々に恐怖心を掻きたてられます。 続きは存在しないというのも想像を膨らませる余地になっていて、メールの内容から『ぼく』と『キミ』に様々な展開が待ち…
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