たくさんのさよならのひとつ
たくさんのさよならをします。
あたしはひとつ さよならをした
これまでも たくさんさよならをしてきたし
これからも たくさんさよならをするんだとおもう
そんなふうにかんがえると あたしのからだは
たくさんのさよならからできてて
たくさんのさよならのためにあるんだって
なんとなく きづいちゃったから
これまでの さよならと
これからの さよならが
なんだかすごく さみしくて
なんだかすごく かなしくて
なんだかすごく いとしくて
なんだかすごく かけがえのないものみたいで
しんぞうのある ひだりむねと
しんぞうじゃないほうのある みぎむねの
まんなかにてをあてて
そっと めをとじてみた
あたしが ひとつしたさよならは
たくさんのさよならのなかの
そのひとつでしかなくて
そのなかのとくべつなひとつでさえ
ないのかもしれない
あたしのからだのすみっこのほう
ひだりあしのこゆびのつけねのあたりに
いばしょをみつけて
ひょっとしたら そんなさよならのことなんて
あたしもいつか すっかりわすれちゃうか
そんな はくじょうもののあたしに
こら! わすれるんじゃないって
たまに ちくりといたむことで
おもいださせてくれるくらいだろうけど
それでも
あたしがした ひとつのさよならは
あたしのからだをつくってる
たくさんのさよならのうちの
たいせつなひとつだから
すっかりわすれちゃうことがあるかもしれなくても
ひだりあしのこゆびのつけねあたりが
ちくりといたむことがあったら
ちゃんとそれにきづいて
そんなたいせつな ひとつのさよならがあったこと
きっと おもいだそうって
あたしはそうおもう
だから、ひとつくらいふえても、たいしたことじゃないはず。