(6/17) 雪原の地雷。
「七夕。ってまだ先じゃん。」
リナが雪原のようなほぼ白紙のドキュメントを、
後ろから覗き見てつぶやいた。
いつものように、リナは勝手に部屋に入ってくる。
一時はカギを掛けたこともあったが、
扉を叩かれ、廊下で騒がれたことがある。
引きこもりのヒエラルキーは最下層。
無駄な抵抗であった。
7月になると商店街に七夕の催しがある。
ゴールデンウィークが明けると、
そのイベントのポスターやチラシを作るために
企画を提案しなければならない。
という説明はコータはしたくない。
黙って前年の企画書を開いて唸った。
こうした企画で商店街への
集客が増えたのであれば、
コータ自身の評価につながる。
七夕は五節句のひとつで、年に一度、
7月7日に織姫と彦星が巡り合う日とされ、
短冊に願いを書いて笹に飾る謎の風習がある。
商店街では例年、通りに大きな笹を飾り、
短冊に願いごとを書いてもらっている。
織姫をイメージした呉服屋自慢の着物を、
通りに展示するのが定番だった。
来客者向けのくじ引きに
各店舗から寄せ集めた景品なども用意しているが、
梅雨時の雨続きで集客は得られなかった。
去年作った天女の羽衣こと商店街謹製タオルは、
在庫の山と化し、新たに誕生した在庫問題を
放置して1年が経過した。
「つまんないの。」
「痛っ!」
不満をあらわにしたリナに肩を軽く叩かれ、
コータは地雷を見事に踏み抜いた。
考えれば怒られて当然だったが、
リナは別のことで叩いたに過ぎなかった。