街に行く
『ハル、今手空いてる?』
優しい声で呼びかけてきたリトさんに、本を読む手を止めて返事をする。
異世界に来て約1ヶ月。リトさんとの生活にもすっかり慣れた。お母さんが死んでから、ずっとぼんやりと生きていた私はあんまり元の世界に未練がない。むしろ、たくさんの人に囲まれていた元の生活よりもこっちの穏やかな生活の方が性に合っている気さえする。
リトさんはこの世界では、魔法使い?みたいでいろんな魔法を研究したり、たまに薬を作って街の人に売って生活しているみたい。私もリトさんに教わって、簡単な塗り薬とかなら作れるようになった。たくさん薬を作れるようになったら、売って、そのお金を渡すのだ。そんなの要らないとリトさんは困った顔をしていたけど、これは絶対に譲れない問題なのである。
慌ててリトさんのもとに駆け寄ると、いつもよりちょっとおめかししたリトさんが、薬の入った瓶をリヤカーみたいなものに積み込んでいた。私に気がつくとリトさんはにこにこ微笑んでよしよしと頭を撫でてくれる。
成人女性への対応としては間違ってるんだけど、リトさんのよしよしにはいやらしさが感じられないし、何より私が頭を撫でてもらうのが大好きなのだ。あんまり頭を撫でてもらった経験が無いんだよね。お母さんはすごく優しくて大好きだったけれど、いつも忙しそうで、とても疲れていたから。
だから初めてリトさんに頭を撫でられたときは、びっくりして嬉しくて涙が止まらなかったの。リトさん、すごく驚いていたけど、私がポツポツと理由を話したら、それから毎日頭を撫でてくれるようになった。
そんな話は置いといて、なんで呼ばれたんだろう?そんな私の疑問が伝わったのか、リトさんは微笑んで
『ハル、今日は一緒に街に行ってみようか』
と言った。
実は私、まだ街に行ったことない。リトさんすごく心配性みたいで、近くに散歩に行くだけでも着いてきちゃうの。それなのに急にどうしたんだろう、と思ってたんだけど、薬を売るついでに私の服や日用品を揃えてくれるんだって。そういえば異世界に来る何日か前に生理が終わったばっかりだった!もうすぐ生理が来るはずだ!タイミング良い!
私はこの提案にブンブンと首を縦に振って同意した。今着ている服はリトさんのお下がりのローブ。というかここに来てから毎日ローブだ。3着のおんなじローブの着回し。別にリトさんしか居ないから良いっちゃいいんだけど、私もレディなのでね。多少この異世界のファッションがどうなっているのかとか興味がある。
私は意気揚々とリトさんの薬の準備のお手伝いをし、街に向かったのだった。