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花の妖精  作者: ぱる
3/13

過去3

 今までも1人だった。でも空気が違った。みんなから向けられる目が冷たくて。秋ちゃんがあの子たちと楽しそうに話しているのを見るのが辛くて。 



 別にヒーローになりたかったわけじゃない。私は自分の好きな私を守ったんだ。何度もそう思い込もうとした。でも、どうしても悲しくて、虚しくて。みんなは今も楽しそうに私の悪口を言っている。でも平気。あんな子たちに何言われたって何の影響もないし。でも、その会話に秋ちゃんが笑顔で頷いたとき、ポキン、と何かが折れた気がした。



 その日から私は変わった。何もかもがどうでも良くなって、私が好きだった「私」はどこかにいってしまったんだ。



 その日からただぼんやりと生きてきた。中学に進学しても小さな田舎に逃げ道など無く、いじめられる日々が続いた。父は出張先で女と浮気をし、それが母にバレて2人は離婚した。それでも母は私のことを1人で一生懸命育ててくれた。祖父と祖母は早くに亡くなっていたから、本当に、誰の手も借りずに、私のことを育ててくれた。そんな母を見て、学校に行きたくないなんて絶対に言えなかった。


 

 母に将来楽をさせてあげられるように、たくさん勉強した。勉強して、勉強して、有名国立大学に合格したときは、本当にほっとしたのを覚えている。これからもっと勉強して、良い会社に入って、たくさん稼いで、母を幸せにするんだ、そう思っていた矢先、母は死んだ。




 急性心不全だったらしい。原因は、過労による不調とストレスをそのまま放置していたこと、必要な薬を私の学費を払うために買っていなかったことだった。



 母を追って死のうかと思った。でもそんなことをしたら母の今までの苦労が無駄になる。私は、無事、大学を卒業し、大企業の採用人員の中に滑りこむことができた。



 そして大した目標もなく、働いて、働いて、働いて。就職して1年が経った。母の為に大きなお墓を建て、他のお金は使うことも無い私に生きている意味はあるのだろうか。


 今日は23歳の誕生日。


 特にすることも無いし、祝ってくれる人もいない。



 このまま私はどうなるんだろう。寿命が来るまでこんな感じなのかな。


 そうぼんやりと思いながら午後の業務をこなし、帰路につく。


 そのとき、小さな男の子が目に入った。男の子にトラックが近づいてくる。男の子はそれに気付かない。男の子の近くに人は誰もいない。運転手は、あれは寝てる?男の子の親は?あ、叫んでる。男の子に向かって走ってる。でもきっと間に合わない。私は、男の子の近くにいる。男の子に今、声をかけて間に合う?きっと間に合わない。



 じゃあ、私は、どうするべき?



 その瞬間身体は勝手に動いていた。伸ばした手に全体重をかけて精一杯の力で男の子の背中を押す。大きく見開いた目を私に向けた男の子は道路脇に転んだみたい。よかった、そう思った瞬間にはもう、意識はなくなっていた。




お母さんは褒めてくれるかなあ。







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