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第九話 潜入! クズ王子を探れ

「おまえ、ぼくを誰だと思ってるんだよ! 下賤(げせん)の者が生意気だぞ!」


 王子を探して、お城の中庭をパタパタと飛んでいると、そんな声が聞こえて来た。舌っ足らずの幼い声。でもこの声には聞き覚えがある。クズ王子が、ネチネチと嬉しそうにオルフィを(いじ)める時の声だ。


 ぼくは気配を絞って、騒ぎの方へ行ってみた。


「なぁ、ぼくが誰だか言ってみろよ」


「こ、この国の第一王子、レイモンドさまで御座います」


「おまえは? おまえなんか、平民あがりの教師じゃないか! なんでぼくに命令するんだよ!」


「命令などしておりません! ただ、この問題の答えが間違っていますので、もう一度考えて欲しいと……」


「ぼくは間違ってなんかいない! おまえが嘘を教えたんだ!」


 あーあ、無茶苦茶だよ。ぼくの知っているのは五年後のクズ王子だったから、ある程度は表面を取り(つくろ)うことを知っていた。そこがまた嫌らしかったんだけど……。今はまだ幼くて感情の制御が出来ないにしても、これはかなり酷い。


 ぼくはそばにあった生垣の葉を一枚凍らせて、王子の背中に滑り込ませた。


「ひゃあ! 冷たい!」


 王子が飛び上がった隙に、椅子の足を凍らせて滑らせる。椅子は『ガターン!』という盛大な音と共に倒れた。


「レイモンドさま! 大丈夫で御座いますか⁉︎」


 周りにいた侍女たちが、慌てて走り寄る。


 気絶したカエルみたいに、仰向けにひっくり返ったレイモンド王子は、一瞬固まった後で真っ赤になって怒った。


「う、うるさい! ぼくを笑いものにするつもりか⁉︎ あっちへ行け!」


 残念、怪我はないみたいだ。さすが王族が使う椅子! 背もたれのクッションも最高級だ。

 王子はプリプリと怒りながら、教師を置き去りにして行ってしまった。


 レイモンド王子はオルフィより二つ年上で、確かもうすぐ七歳になるはず。このままだと、間違いなく()()クズ王子に育ってしまう気がする。


(誰か叱ったり、(さと)したりしてくれる人はいないのかなぁ)


 王子という立場上、多少は甘やかされてしまうのは仕方ないにしても、普通はあんな風に野放しで我儘を許したりしないんじゃない?


 レイモンド王子の父親である王さまは、確かに賢王と呼ばれるような人ではなかったけれど、圧政を敷いて民を苦しめるような人ではなかった筈だ。


(もう少し探ってみよう)



 お城の人間関係については、ぼくは過去の七回のやり直しの中で、実はあまり馴染みがない。


 一度目は本当に無力なペットだったし、二度目の魔王になった時は、力をつけることしか考えていなかった。三度目と四度目は、オルフィをイザベラから守るので精一杯だったし、五度目は魔法陣研究所に囚われてしまっていた。


 六度目は確か……イザベラやベロニカを順番に血祭りにあげて、さあ、次はクズ王子の番だ! ということろでオルフィに気づかれてしまった。どんな風に殺してやろうか、色々考えていたのにさ。

 まあ、あの時はぼくもちょっと、どうかしていたよね。頭の中もお腹も真っ黒だった。

 七度目はお金を稼ぐことしか考えずに、商人として、外国を飛び回っていた。


 よく考えてみると、ぼくも王子のこと言えないくらいダメダメだなぁ。全然周りが見えていなかった。


 つい敵地の真っ只中で凹んでしまった。この状態で誰かに見つかったら、問答無用で討伐されてしまう。


(今回は、早い段階でイザベラを排除することが出来たからこそ、やれることがたくさんある!)


 気を引き締めて、気配を更に消す。


 ぼくはヘソを曲げて自室にこもってしまったレイモンド王子は後回しにして、その他の情報収集を続けることにした。


 ところが王さまの執務室は、とても力のある魔術師が護衛についていて、あまり近づくことが出来なかった。あとは……後宮かな? 王子のお母さんである王妃さまと、第二、第三妃がいた筈だ。

 そういえば、王妃さまは過去の七回で一度も見かけたことがない。


(きれいな人だっていう噂だけど……。レイモンド王子もイケメンだもんね。顔だけはさ)


 後宮は名前の通り、お城の主要施設がある建物の後ろ側にあった。それにしても悪趣味だよなぁ。同じ人の奥さんを三人も、ひとつの建物に住まわせるなんて。揉めないわけがないよね。警備の問題なのかな?


 えらい人の考えることって、魔物のぼくには、よくわからない。


 入口には兵士の見張りがいたので、二階の東側の窓から入って王妃さまを探す。

 宮の中は誰もいないみたいに静かで、王妃さまは立派なベッドの上に横たわっていた。死んではいないけど、ちょっと眠りが深すぎる。


(これは……普通の眠りじゃないな)


 しばらくすると、レイモンド王子が王妃さまの寝ている部屋へと入って来た。


「お母さま、今日は数学の勉強をしたよ。むずかしかったけど、とてもがんばったら先生がほめてくださったんだ……」


 神妙な顔をして、嘘の報告をする。報告の中の王子は女中や料理人を気遣い、思いやりに満ちている。努力家で賢く、みんなに好かれていて……。

 ぼくは途中で「それ、誰の話?」って声をかけたくなってしまった。


 王妃さまはピクリとも動かない。慈愛に満ちた、かすかな微笑をたたえて、深く、深く眠っている。


「それでね、お父さまが……」


 王子はそこまで言うと、急に言い淀んだ。今までは呆れるくらい上手に嘘をついていたのに。俯いて、辛そうに顔を歪める。


(いやだなぁ。なんでぼく、こんなの見に来ちゃったんだろう。どう見ても訳ありだよ)


 王子なんて性根の腐ったクズで良かったのに。外堀りから固めて、オルフィに出逢う前に外国にでも留学させちゃおうと思っていたのに……。

 レイモンド王子が小さな肩を落として、トボトボと部屋を出て行く。


 くっそー! めんどくさいことに首を突っ込んでしまいそうだ! 


(ぼくだって修行で忙しいのに!)


 とりあえず帰る! そろそろオルフィがお昼寝から起きる時間だ。今日はジェフさんにおやつを作ってもらって、一緒に森で遊ぶ約束なんだぞ!



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