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第二十二話 氷の騎士

本日投稿三本目。タイトル、ようやく回収です。


次はいよいよ最終話! 本日22時頃、投稿しますよ!

 お茶会でのまさかの告白は、晴天の霹靂(へきれき)だったけれど天にも登るくらい嬉しかった。オルフィには内緒だけど、隠れてちょっと泣いてしまった。そして、帰りの馬車の中で、ずっと手を繋いでいたぼくらの足元は、氷の花で埋もれた。


 途中で何度か馬車を止めてもらって、外に掻き出したのだけれど、これなんとか消せるように修行した方が良いのかも……。幸せ過ぎて止められないんだもん。


 ちなみにお城の広間も、ちゃんと掃除してから帰りました。途中で何度かリクエストされて、何度も掃除する羽目になったけれど。床に落ちる前に受け止めて、飲み物に入れてる人とかいたな。


 お城から出る直前に、近いうちにぼくひとりで訪ねてくるよう、王妃さまからの伝言をもらった。

 何か罰を受けるのかも知れないと身構えていたら、伝令の騎士の人が「悪い呼び出しではないよ。安心しておいで」と言ってくれた。


 (とが)められる以外で、息子の婚約を蹴った令嬢の従者になんか、何の用事だろう? (やま)しいことがあり過ぎて全然安心出来ない。王城に忍び込んだこととか、王子をコロリンしていたこととか。

 他には思いつかない……。あっ、飲み物の氷係を言いつけられるのかな?


 ぼくはビクビクしながら、でも後回しにするのも嫌で、次の日さっそく王妃さまを訪ねて王城へと向かった。



       * * * *



「シーバくんだったかしら。緊張しないでいいのよ」


 王妃さまはとても気さくな人だった。王妃さまの守護をしている、春の精霊に似ている。手ずから紅茶を淹れてくれて、すぐに本題を切り出した。


「ねぇ、四年前に私を起こしてくれたの、君でしょう? 本当にありがとう!」


「あ……いえ、あの……」


 それがバレると、王城の結界を書き換えたことや、王子をコロリンしていたこともバレてしまう。


「ふふふ。隠さなくて大丈夫。人払いをしてあるし、他の者に知らせるつもりもないから。どうやって夢に入ったの? 精霊にも魔物にも、そんな力はないでしょう?」


「実は夢魔の友だちがいるんです。その子にお願いしました」


「そうなのね。……でも、なんで会ったことのない私のために、そこまでしてくれたの?」


 それは非常に答えにくい質問ですよ王妃さま!『クズ王子のままだとオルフィを苛めるから』なんて言えるわけがない。


「殿下のご様子が、見るに忍びなかったもので……」


 ……これもぼくの本心だ。嘘じゃない。


「ああ、そうね。うちの息子、ちょっと可哀想だったし、酷かったみたいね。それというのも陛下が……!」


 王妃さまの目に、若干の影が差す。「親としての自覚が……」とか「七年もの間……」とか呟いている。いえ……ぼく、聞こえてません!


「久しぶりにお会いしましたが、殿下は見違えましたね。ご立派になられました」


 王妃さまは「そうなのよ」と言って、それはそれは嬉しそうに笑った。普通のお母さんみたいな、誇らしそうな笑顔だ。


「陛下と王子の関係も私が目覚めた当初は、どうしようもないくらいギクシャクしていたわ。ずいぶん揉めたけど、今はまあまあ、うまくいっているのよ」


「良かったです。みなさんが揃って努力なさった結果だと思います」


 これは心からそう思う。あのクズ王子があれほど変わったのは、本人がすごく頑張ったんだと思う。正直見直した。


「あのまま私が死んでたらと思うと、ゾッとするわ」


「確かに……。間に合って良かったです」


 二人で顔を見合わせて、ふふふと笑った。


「何かお礼がしたいわ」


「ああ、でももう春の精霊にもらいましたよ。精霊よりの進化を出来るようになりました」


「ああ、だから君は精霊っぽいのね! でも、私からのお礼をしたいわ。ねぇ、王城で働かない?」


「ぼくは精霊よりですが、魔物ですよ? それでも大丈夫ですか?」


「もちろん! 最近はあまり拘らない人が増えているし、こんなきれいな子、嫌がる人はいないわ」


 きれい……ぼくはきれいなんだろうか? 出来れば格好いいと言われたい。


「じゃあ、お願いします。ぼく、騎士になりたいんです!」


「騎士なの? 魔法使いじゃなくて?」


「魔法も使えますけど、騎士になってオルフィや戦えない人を守る仕事がしたいんです。あ、もちろん夏に王城を涼しくしたりも出来ます!」


「あら素敵。氷の騎士ね!」




       * * * *




 あれから四年の月日が流れた。ぼくは従者の仕事をしながら訓練に参加させてもらっていたけれど、オルフィの学園入学を機に騎士団見習いとして入団した。魔法学園は全寮制で、身の回りのことを自分ですることが前提だ。召使いや従者もついて行くことは出来ない。

 ぼくも騎士団の寮に入ったので、旦那さまやお屋敷のみんなが、とても寂しがっていた。ぼくも寂しくないわけじゃないけれど、オルフィにペットや従者や家族としてじゃなく向かい合えることは、とても嬉しく幸せなことだった。


 ぼくは二年の見習い期間を経て、騎士になる。


 オルフィは今十四歳、ぼくはそれよりも少し年上の姿をしている。なぜかというと、頼られたいし、甘えて欲しいからだ。

 あれ、これ前にも言った気がするな。全然成長してないからとかじゃないから! あの頃と少しも変わらず、オルフィが大好きなだけだ。


 オルフィは日々女性らしくなっていく。眩しくて、端っこから溶けてしまいそうだ。あ、これも最初から言ってたかも……。


 ぼくらは恋人同士というには若すぎるけれど、最近は城下街で待ち合わせて一緒に買い物したり、お茶を飲んだりしている。それ以上の恋人らしいことは、残念だけどもうちょっと先の話だ。


 騎士団の訓練は厳しい。最初は魔物だとぼくを嫌う人もいたけれど、今は仲間として認められている。良くも悪くも実力主義の騎士団は、ぼくにとって居心地は悪くない。それなりに認められて、城下の見回りの時には『氷の騎士さま』なんて呼んでくれる人もいる。


 ぼくはクールで冷静だからそう呼んでくれると思っていたけれど、どうやら氷の花を出せることがバレているらしい。最近では動揺を隠せるくらいは成長したつもりなんだけどなぁ。


 オルフィは学園で楽しく過ごしている。何人か友だちが出来たと、嬉しそうに話してくれる。

 オルフィとぼくは、やり直しの中でいつもどうしようもないくらい孤独だった。お屋敷でも学園でも、お互いしか縋るものが見つからなかった。


 今がどれだけ日差しに満ちているか、しみじみと噛み締める。オルフィの『唯一』でなくなったことはほんの少し惜しいけどね!


 オルフィの話の中で、少し気になる女の子がいる。一度目の時に、レイモンド王子の恋人だった女の子だ。まるで自分が主人公みたいに振る舞う、聖なる乙女とか呼ばれているへんな子で、よく王子の袖にぶら下がるように引っ付いていた。


 オルフィに同情するような素振りを見せたり、時々庇ったりもしていたけれど、ぼくはその子の目が好きじゃなかった。大切なオルフィに、あまり関わり合いになって欲しくない。


 レイモンド王子は、見違えるように爽やかになって、城下でも学園でも大人気だ。時々騎士団の訓練に顔を出して、なぜかぼくのところに愚痴をこぼしに来る。

 まだ婚約者が決まらない上に、令嬢たちに追い回されて苦労しているんだって。特に聖なる乙女が怖いらしい。王子さまは大変だなぁ。


 オルフィが学園を卒業するまであと三年。もっともっと強くなって、胸を張ってオルフィを迎えに行きたい。


 ただひとつ、どうしても気になることがある。


 ぼくのやり直しは、これで終わりになるのだろうか? 今までのやり直しで一番時間が進んだのはオルフィが卒業パーティーの後、処刑された日までだった。


 その先にどんな出来事が待っているとしても、ぼくは諦めたりしない。きっと二人で乗り越えて、オルフィの寿命が尽きるその日まで、幸せに暮らしてみせる。

 そのあとのことは、今はまだ考えられないけれど、もうやり直しなんて必要なくなれば、ぼくは時間の檻から解放されるんじゃないかな?



 ぼくはもう遅いなんて、決して言いはしない。



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