第二十一話 波乱のお茶会
本日二本目投稿します。えっ、これで終わり? いえいえ! まだ伏線回収と大ドンデン返しが待っていますよ! このあとの二話、最後までよろしくお願いします!
「お初にお目にかかります。バスティ伯爵長女、オルフィーユと申します」
レイモンド王子の婚約者候補たちが、一同に介するお茶会の席。オルフィの挨拶がはじまった。マーヤさん仕込みのきれいなカテーシー、淀みなくしっかりとした口調。ここまでは完璧だ!
ぼくは広間の隅で、他の令嬢の付き人たちと一緒にドキドキしながら見守っている。オルフィが顔を上げたら、ついに王子との対面となる。心臓が潰れてしまいそうだ。
「オルフィーユ嬢、顔を上げて下さい。ぼくはレイモンドといいます。よろしくお願いします」
王子が穏やかに言った。ぼくがコロリンさせていた時とは、別人のように優しい顔立ちになっている。王妃さまが目覚めたことは、クズ王子を劇的に変えてしまったらしい。ぼくは余計に心臓が苦しくなった。
お日さまのような金色の髪、緩やかに弧を描く上品な口元。垂れ気味の目は長いまつ毛に縁取られて、十二歳の少年とは思えない知性をたたえている。
(こんなの敵わないじゃないか! ぼくだって見惚れちゃう! ちょっとくらいクズ成分が残っててくれてもいいのになぁ……)
「いいえ、殿下。このままお話する無礼をお許し下さい。私は、直接お詫び申し上げるために本日参りました」
オルフィ……、練習したセリフと違うよ! ぼくは焦ってポロリとひとつ、氷の花を散らしてしまった。誰にも見つかる前に、急いで拾う。
「お詫び……ですか? わかりました。そのままお話下さい」
「ありがとうございます。私、オルフィーユ・バスティは、王子殿下の婚約者候補を辞退させて頂きます」
「うむ、理由をお聞きしても?」
「はい。私には、幼き頃より心に決めた方がおります」
「あなたは、まだ充分に幼いと思いますが……」
王子がつい、というように吹き出して言った。
「はい。でも、私の心は変わりません。ですので、申し訳ありませんが、このままこの場を辞させて頂きとう存じます」
周囲が少し騒めく。無礼な行いと非難させても仕方ない物言いだ。ぼくは青くなった。必死で我慢しても、ポロポロと氷の花が散る。
「わかりました。その方とのお幸せをお祈りします」
ぼくが必死に氷の花を拾っていると、王子の前を辞したオルフィが、満面の笑みでぼくの方に向かって駆け出した。
「シーバ!」
ぼくは手を止めて、立ち尽くしてしまった。
ねぇ、オルフィ。それって、ぼくのことなの? だってオルフィの幼い頃からずっと一緒って、ぼくしかいない。王子の顔を一度も見ずに、ぼくの方に走って来るなんて……。
ぼくのオルフィ。オルフィーユ。真っ直ぐにぼくの腕に飛び込んで来る。つまずいてしまっても、ぼくが受け止めることを、疑いもせずに。
こんな結末は考えたこともなかった。
* * * *
「はい、私には幼い頃より心に決めた方がおります」
レイモンドの婚約者候補との顔合わせで、そんなことを言い出した少女がいた。
(あらあら、ずいぶん勇気のある娘さんね)
イケメンと評判の息子の顔を、見ないで言っちゃうの? まあ、見てから言ったら不敬よね。ちゃんと配慮しているのね。
「わかりました。その方とのお幸せをお祈りします」
あら、息子が引き下がった。私が目を覚ました頃は、どうしようもないクズ王子で、どうなることかと思ったけど。子供って、成長するものなのねぇ。
「シーバ!」
走り出した娘さんの先で、座り込んで何か拾っている従者がいた。まだ少年だ。あの子がお相手なのかしら。とんでもなくきれいな子だけど、身分違いは悲恋なんじゃないかしら。大丈夫?
転びそうになりながら駆け寄る少女を、少年が慌てて抱き留めた。その途端、あたりにキラキラと輝く氷の花が舞い散った。
「わぁー!」
歓声が上がる。広間に差し込む日の光を受けて、ゆっくりと舞う氷の花。なんて幻想的な光景だろう。あまりの出来事に、少々の無礼に気を悪くしていた家臣たちも呆気に取られて見惚れている。
「大丈夫よ。害意は少しも感じないわ」
警戒して剣に手をやる護衛騎士に声をかける。
あの少年の魔力……なんだか覚えがある気がする。精霊に近い、氷の魔物かしら? 私の感覚に間違いがなければ、あの子、私の恩人なんじゃない? あとで守護精霊に聞いてみなくちゃ!
もし、私を起こしてくれた恩人なら、ちゃんとお礼をしないとダメよねぇ。
(ふふふ! なんだか楽しくなりそう……。レイモンドの婚約なんかより、ワクワクしちゃうわ!)