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【完結】悪役令嬢に恋した魔物のやり直し《死に戻り上等! もう遅いなんて絶対に言わない!》  作者: はなまる


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第十九話 剣術修行

少し間があいたので、あらすじ。


オルフィと、幸せな未来へとたどり着くために頑張るシーバくん。なんとかオルフィを虐待していた家族問題を片づけて、モラハラ王子を探りに行きます。王子は既に相当のクズでしたが、生まれた時の事情や七年間も眠り続ける王妃さま等、同情すべき点を見つけてしまいます。やり直しの中で最も憎み続けた相手を、憎みきれなくなることは、シーバにとって歓迎すべきことではありませんでした。


それでも見過ごすことも出来ずに、王妃さまを起こす方法を探します。なんやかんやあって王妃さまの眠りの原因を取り除くことに成功。「あとは家族でどうにかしてよね!」とオルフィの元へ戻ります。


オルフィと王子の婚約話が持ち上がるまでの四年間。シーバがどんな風に過ごしたのか。第十八話(更新停止前)では進化の様子を、幕間(前話)ではオルフィが悪役令嬢と呼ばれてしまった経緯をお届けしました。


そして本話、進化後の様子です。


長くなりましたが、続きは本編をお楽しみ下さい。






 マーヤさんに叱られて、氷の花を無駄に撒き散らさないよう修行した。どちらかというと精神に影響されるらしく、グッと気を引き締めていると止まる。これはキリッとしたクールな騎士を目指すぼくには、都合の良いことだった。


 ところがオルフィには不評だった。


「シィは機嫌が悪いの? 最近、いつも()()にシワがあるわ」


 そう言って、ぼくの眉間をスリスリと撫でて来る。雪狼(幼体)だった頃は嬉しくて、クーンと鼻を鳴らしてほっぺを舐めたりしていたのに、人型になるとそうもいかない。動揺して、つい氷の花が咲き乱れてしまった。


「きゃっ!」


 オルフィがびっくりして、声を上げる。


「……失礼しました」


 赤くなった顔を隠して氷の花を拾う。従者の仕事中、ぼくはオルフィをお嬢さまとして扱うようになった。


「オルフィお嬢さま、レディが気安く男の子の顔を触ってはいけませんよ」


 マーヤさんがフォローしてくれた。


「男の子って……シィは家族でしょ?」


「シーバくんは家族ではなく従者ですし、男の子ですよ」


 オルフィはマーヤさんの言葉にショックを受けていたし、マーヤさんは間違いが起きないように(たしな)めるために言ったのだろう。でもぼくは、マーヤさんがぼくを魔物やペットのように、()()()()()相手ではないと、認めてくれた気がした。


 それはぼくが、魔物と精霊の境目を越えたせいかも知れないし、耳も尻尾もない、完全な人型を手に入れたせいかも知れない。


(オルフィがぼくのことを、異性として意識してくれるかも知れない! マーヤさんありがとう!)


 従者とお嬢さまの間には、まだまだ大きな隔たりがあるけれど、ペットの魔物よりは希望が持てる。


 ぼくは張り切って、剣の修行を再開した。


 雪狼(人型)の時は、自分で作った氷の剣を闇雲に振り回すだけだった。けれど、王妃さまの夢の中で戦った時に、力と身体の効率の良い使い方があることに気がついた。気の遠くなるような試行錯誤を繰り返して、少しでも近いと感じたら、その軌道を繰り返し(なぞら)える。


 ぼくはその作業を、とても楽しいと感じた。湖の底で、たったひとつの小石を探してるみたいだ。何度も潜って、息の続く限り小石を拾う。小石は磨くと宝石のように輝きを放つことがある。ぼくはその宝石を大切に集めた。

 いくつかの宝石が集まったら、次は宝石同士を繋げてみる。繋げる順番、宝石同士の相性、緩急と呼吸。


 滞りなく流れるように、柔らかく降り積もるように。不思議と続けるごとに、動きはシンプルになっていった。



「シィは最近、ちっとも遊んでくれないわ!」


 オルフィが時々むくれて言った。


「オルフィを守る、立派な従者になりたいんだ。卑しい魔物だなんて言われないくらい」


「まぁ、シィったら。そんなこと誰も言ったりしないわ。だってシィは、こんなにきれいで素敵だもの」


 オルフィがぼくの銀色の髪を、梳くように優しくかき分ける。幸福感で、心臓が潰れてしまいそうだ。時が止まるなら、今がいい。


 ぼくらの周りを、氷の花が乱れ飛ぶ。ぼくは耳と尻尾はなくなったけれど、相変わらず気持ちを隠す(すべ)がない。オルフィはそれにも慣れた様子で「ふふふ」と嬉しそうに笑う。


「わたし、シィが剣を振っているのを見るの、とっても好きなの。だから許してあげるわ!」


 ぼくのオルフィは、変わらず天使そのものだ。



       * * * *



 気がつけば、王妃さまの夢の中で夢蜘蛛と戦った日から、四年の月日が流れていた。


 王妃さまは、春の妖精が言っていた通りちょうど一週間後に目を覚ました。そのおめでたいニュースは国中を駆け巡り、国を挙げてのお祭りとなった。

 レイモンド王子がその後、どうしているのか気になったけれど、ぼくは敢えて覗きに行くのを止めた。ぼくが関わるのはスタートラインまでだ。王子はぼくの恋敵兼ラスボスなので、育成にまで携わるつもりはない。


 春になってレイモンド王子が十二歳になると、王太子になって婚約者探しがはじまる。オルフィはぼくが知る限り、必ず婚約者か婚約者候補に選ばれていた。


 けれど八度目となる今回は、今までとは違う要素が数多くある。人間関係はもちろん、オルフィもぼくも今までのやり直しとはずいぶんと違うし、王子も変わっている可能性が高い。どんな展開になるかわからないけれど、ぼくは諦めずに立ち向かおうと思っている。


 山から、根雪が緩んで谷へと落ちる音がする。もうすぐ強い東風が吹き、雪解けがはじまる。


 

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