幕間 悪役令嬢と呼ばれて
幕間の短いお話です。短いので本日はもう一本投稿します。
そもそも、おっとりしていて優しいオルフィが、なぜ悪役令嬢と呼ばれてしまったのか。
このことを思い出すと、ぼくは今でも滅びの呪文を唱えたくなる。舌が痺れるくらいの苦い後悔を、奥歯が砕けてしまうほどに噛み締める。
オルフィを悪役令嬢にしたのは、このぼくだ。
オルフィはとても整ったきれいな顔をしている。旦那さまによく似た切れ長の目で、瞳は雪解け水のような、澄んだトルマリンブルー。スッキリとした顎や薄い唇は亡くなったお母さん似らしい。癖の強いふわふわな髪の毛は、ミルクティーのような柔らかなブラウンだ。
全体的にとても儚く可憐だ。笑うと眉が困ったみたいに下がって、もう、生きているだけでいじらしい。でもそれは、ぼくの目が見ているからで、他の人には冷たい印象を与えるらしい。オルフィの本当の笑顔を知っているのはぼくだけだった。
一方、社交を身につけ、自分の地位と恵まれた容姿の使い方を覚えたレイモンド王子は、上手に仮面をかぶり、本性を知らない令嬢たちにチヤホヤされはじめた。
一度目のオルフィも、その令嬢の中のひとりだった。婚約者候補として出会い、初めて優しくしてくれた王子に縋りつくように幼い恋をした。そして、その恋心も嫉妬心も扱い切れずに暴走してしまった。
ぼくは、何も持っていなかったオルフィが初めて「欲しい」と望んだ王子を、何とかしてオルフィのものにしてあげたかった。魔物のペットであるぼくが、オルフィにしてあげられる、唯一のことだと思った。
そうして、無知で愚かなぼくらは王子の手の中へと堕ちた。
王子が恋人を作るたびに、オルフィは拙く子供じみた嫌がらせに手を染め、ぼくもそれに手を貸した。王子はその様子を、不出来な喜劇でも眺めるように仄暗い目をして愉しんでいた。ぼくがそれに気づいた時は、もう遅かった。
一度目のオルフィは、哀しいまでに「悪役令嬢」だった。
断頭台の横でオルフィの血に塗れて溶けながら、ぼくはひたすら後悔した。ぼくの力が足りなかったから、オルフィが歪んでしまった。ぼくが弱く小さい魔物だったから、優しく純粋なオルフィの心を守り切れなかった。馬鹿なぼくが手を貸したりしたから、オルフィは「悪役令嬢」なんて呼ばれてしまった。
ぼくが……ぼくがオルフィを悪役令嬢にしてしまった!
その後悔が誰に届いたのか。何に作用したのか……。ぼくのやり直しは、そこからはじまった。もう二度と、オルフィを「悪役令嬢」なんて呼ばせはしない。
欲を抱いたぼくは、閉ざされた時間の檻の扉を、自ら開けて鍵をかけた。